イギリスといえば階級社会——話し方で育ちが分かるって本当?

同じスーツを着て、同じ仕事について語る二人がいるとします。ところが、一人が話すと「育ちがよさそう」、もう一人が話すと「庶民的だ」と受け取られる。話の内容より先に、声がその人の紹介を始めてしまう——イギリスの階級社会を考えるとき、見逃せないのがこの問題です。

「イギリス人は、話し方を聞けば相手の育ちが分かる」と言われます。実際、アクセントは地域や社会的背景を推測する手がかりになります。しかし、それだけで家庭環境や階級を正確に言い当てられるわけではありません。研究が示しているのは、話し方が聞き手の評価に影響し、その評価には偏見も混じるということです。Accent Bias Britain

ここでいう「育ち」は、主に育った地域、家庭、教育環境を指します。

日本でも、方言を聞いて出身地を想像したり、言葉遣いから家庭の雰囲気を感じたりすることがあります。イギリスの場合は、そこに「どのような教育を受け、どのような社会集団に属してきたのか」という読み取りが重なります。

まず、イギリスの階級を年収だけで理解するのは難しいことです。経済力に加え、文化、社会的なつながり、地位などが関わるため、現在の収入と育った環境は分けて考える必要があります。irep.ntu.ac.uk

例えば、事業で成功して生活が一変しても、子どもの頃から使ってきた言葉まで一晩で入れ替わるわけではありません。話し方には、その人が長年過ごしてきた場所や人間関係の痕跡が残ります。

この関係を物語にした有名な作品が『マイ・フェア・レディ』です。花売り娘のイライザが発音や振る舞いを学び、上流社会の人々からの扱われ方を変えていく。物語の土台には、声が社会的な位置を示すという発想があります。

代表的な「育ちのよい英語」のイメージが、Received Pronunciation、略して**「RP」**と呼ばれるアクセントです。歴史的に、イングランドの上流階級や上層中産階級、有料の名門校と結びついてきました。「BBC English」という呼び名でも知られています。Accent Bias Britain

ここで日本人が戸惑いやすいのが「public school」という言葉です。イギリスでは、この名称がイートン校などの伝統ある私立学校を指す場合があります。日本語の「公立学校」を思い浮かべると、話の意味を取り違えてしまいます。

こうした学校や社会環境で共有される話し方が、教育や権威を感じさせる声として受け取られてきました。ただし、RPにも世代などによる違いがあり、イギリス全体の話し方を代表しているわけではありません。Accent Bias Britain

日本人が映画や教材を通して「これがイギリス英語だ」と覚えた発音も、現地では数あるアクセントの一つです。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドには、それぞれ異なる話し方がありますし、イングランドの中だけでも大きな地域差があります。

そのため、発音の違いを階級の違いに直結させると、簡単に見誤ります。

例えば「bath」の母音は、イングランド南部の多くのアクセントでは長い「アー」に近い音、北部の多くでは短い「ア」系の音になります。これは南北の地域差を示す有名な特徴です。長く発音する人ほど裕福、短く発音する人ほど貧しい、という判定には使えません。www-users.york.ac.uk

声から分かることを考えるには、地域、年齢、教育、交友関係などを一緒に見る必要があります。「訛りがある」という一言で、その人の育ちを説明するのは無理があります。

さらに意外なのは、発音だけでなく、日用品の呼び方まで階級と結びつけられてきたことです。

1954年、言語学者アラン・ロスは上流階級を表す「U」と、それ以外の「non-U」という区別を提示しました。その後の議論でも、次のような単語が階級を示す例として挙げられてきました。irep.ntu.ac.uk

指すもの「U」とされてきた語「non-U」とされてきた語
食事用のナプキンnapkinserviette
ソファsofasettee、couch

同じ家具を指しているのに、どの単語を使うかで社会的背景を読み取ろうとする。日本の読者には、ずいぶん細かなところまで気にするのだと映るかもしれません。

ただし、この表を現代のイギリス人を判定するための道具として使うのは早計です。2024年に発表された研究は、ナプキン、ソファ、トイレの呼び方を調べ、これらの語が上流階級を見分ける確実な指標だという考えに疑問を示しました。benjamins.com

「この単語を知っていれば上流階級らしく話せる」という話は覚えやすいものです。しかし、長く言われてきたことが、現在もそのまま通用するとは限りません。

問題は、こうした評価が雑談だけで終わらないことです。

社会的移動を研究するサットン・トラストが2022年に公表した『Speaking Up』では、調査に回答した大学生や職業人から、アクセントに関する次のような経験や不安が報告されました。suttontrust.com

調査で尋ねた経験・不安該当すると答えた割合
大学生:教育の場でアクセントをからかわれたり、批判されたり、取り立てて扱われたりした30%
職業人:職場で同様の経験をした25%
大学生:アクセントが将来の成功に影響することを心配している33%

これらは、その調査の回答者についての数字です。それでも、大学で学び、仕事に就こうとする段階で、自分の声を気にしなければならない人がいることは伝わってきます。

大学合格や資格取得によって道が開けても、話し始めた途端に「この場に合う人かどうか」を判断されるのではないか。そんな不安を抱えるなら、発言そのものにも余計な負担がかかるでしょう。

同報告では、周囲に合わせるため、自分の望みに反してアクセントを変える圧力を感じた学生の声も紹介されています。Queen Mary University of London

声を変えるという行為には、単なる発音練習では済まない面があります。家族や友人と話してきた言葉を、公の場では控える。その必要を感じる人にとって、話し方は自分の出身や帰属意識にも関わる問題です。

偏見の影響は、さらに思いがけないところにも及びます。2025年に公表された研究では、180人の参加者が10種類の英国のアクセントを聞いて人物を評価し、社会的地位が低いと受け取られたアクセントが、犯罪行動と結びつけて想像されやすい傾向が示されました。ただし、評価は犯罪の種類によっても異なりました。repository.cam.ac.uk

これは犯罪の実態を調べた結果ではなく、聞き手が声からどのようなイメージを持つかを調べた結果です。話し方を聞いて育ちを推測しているつもりが、その人の行動まで勝手に想像してしまう。そこに、アクセントによる判断の危うさがあります。

一方で、イギリス社会のすべての場面で、同じ偏見が同じ強さで働くわけでもありません。

「Accent Bias in Britain」の研究では、国際的な法律事務所の弁護士や採用担当者61人が模擬面接の回答を評価しました。回答内容に注意を向ける実験環境では、専門知識の評価について、アクセントによる一貫した不利な扱いは確認されませんでした。Accent Bias Britain

この実験だけで採用や昇進の公平さ全体を証明することはできませんが、聞き手が内容に集中すれば、声への先入観を抑えられる可能性を示しています。

日本にいる私たちがイギリスのドラマやインタビューを見るときも、話し方の違いに耳を澄ませると、登場人物の背景や人間関係を楽しむ手がかりになります。ただし、聞き慣れた英語を話す人ほど知的だと感じるなら、自分の「慣れ」も判断に入り込んでいるかもしれません。

「話し方で育ちが分かる」という言葉には、長年の生活環境が声に表れるという現実があります。同時に、聞き手がその声に社会的な意味を与えているという面もあります。

声を聞くとき、私たちは相手の歩んできた人生を感じ取っているのか。それとも、すでに持っている階級のイメージに相手を当てはめているのか。

イギリスの階級社会を知る面白さは、アクセントを見分けることだけにはありません。何気ない話し方から、教育、仕事、人間関係、そして聞き手自身の先入観までが見えてくるところにあります。

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