
数字で見る共存の実態
多文化・多宗教国家として知られるイギリスは、様々な民族と宗教の人々が暮らす社会である。その中でも特に注目すべきは、ユダヤ人とイスラム教徒という二つの大きな宗教的・民族的グループの存在だ。
最新の国勢調査(2021年)によると、イギリスに住むユダヤ人の数は約270,000人。一方、イスラム教徒は約3,900,000人に達し、全人口(約6,700万人)の5.7%を占める。これにより、数的にはイスラム教徒がユダヤ人を大きく上回っている。
興味深いのは、この両者がともにロンドンを中心に集中して住んでいるという点である。たとえば、ゴールダーズ・グリーンやスタンフォード・ヒルはユダヤ人コミュニティが多く、タワーハムレッツやニューアムなどにはイスラム教徒、特にバングラデシュ系が多く居住している。
国民性の違い:信仰とアイデンティティの根幹
ユダヤ人とイスラム教徒の「国民性」や共同体としての特徴は、信仰だけに留まらず、教育、経済活動、社会参画のスタイルにも表れている。
ユダヤ人コミュニティは、イギリスにおいては高学歴・高収入層が多く、金融、法曹、医療、学術分野において顕著な存在感を示す。また、ホロコーストの記憶とイスラエルとの強いつながりが、集団としてのアイデンティティの中核を成している。
一方、イスラム教徒コミュニティは、移民第一世代の経済的苦労を経て、現在では第二世代・第三世代による社会進出が進行中だ。若年層の割合が高く、信仰への忠誠心が強い点も特徴だが、宗教的指導者(イマーム)や文化センターを中心に結束を強めている傾向も見られる。
しかしながら、一部の若年層では疎外感や社会的不平等への不満から、ラディカリズムへの傾倒も指摘されている。
対立の火種は存在するか?
中東では、ユダヤ人=イスラエル人と、イスラム教徒=パレスチナ人という構図で語られることが多い。この歴史的背景が、イギリスにおいても再現される可能性はあるのだろうか?
実際、イスラエルとパレスチナの紛争が激化すると、ロンドンやマンチェスターなどの都市では抗議デモや反ユダヤ的スローガンの噴出が見られる。ユダヤ人の学校やシナゴーグへの脅迫や器物損壊も報告されており、イスラエル=ユダヤ人と見なされることで、在英ユダヤ人が中東の政治の「代理標的」となるリスクがある。
同様に、ムスリム系住民に対しても、「テロリスト」や「過激派」といった偏見が根強く存在し、イスラムフォビアが社会的不信を深めている。
それでも共存は可能か
とはいえ、イギリスという舞台では、多くのユダヤ人・ムスリムの個人や団体が宗教の壁を越えて協力している事例もある。ユダヤ系とムスリム系の若者が協力してホームレス支援を行ったり、宗教間対話イベントを開催したりする取り組みが静かに広がっている。
また、共通の「マイノリティとしての経験」や「移民としての歴史」を通じて、共感や連帯感を見出す機運も無視できない。
結論:対立は起こりうる、だが選択肢は常に共存にある
中東での政治的対立は、感情的な波紋としてイギリス社会にも及ぶことがある。しかし、それは決して運命ではない。市民社会の成熟、教育の力、そして何よりも個人の意志が、共存と相互理解への道を切り拓いていく。
「ユダヤ人 vs イスラム教徒」という構図は、歴史的には繰り返されてきたが、イギリスという多文化社会においては、「ユダヤ人とイスラム教徒がともに生きる」という未来の可能性もまた、現実になりうるのだ。
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