
ポピーの起源と象徴するもの
ポピー(ケシの花)は、イギリスにおいて特別な意味を持つ花です。特に「リメンブランス・ポピー(Remembrance Poppy)」として、戦没者の追悼の象徴となっています。このシンボルは、第一次世界大戦(1914-1918)の戦場となったフランスやベルギーの荒廃した土地に、赤いポピーの花が咲き乱れたことに由来しています。
この情景を象徴的に表現したのが、カナダの軍医で詩人のジョン・マクレー(John McCrae)の詩**「フランダースの野に(In Flanders Fields)」**です。この詩は戦争の犠牲者を悼み、戦後の平和への願いを込めたもので、やがてポピーは戦没者追悼の象徴として広く知られるようになりました。
リメンブランス・デーとは?
リメンブランス・デー(Remembrance Day)は、毎年11月11日に行われる戦没者追悼の日です。これは、第一次世界大戦の休戦協定が1918年11月11日に結ばれたことに由来しています。また、イギリスでは「リメンブランス・サンデー(Remembrance Sunday)」と呼ばれる追悼行事が、11月の第2日曜日に行われます。
この期間中、イギリス国民は「ポピー・アピール(Poppy Appeal)」と呼ばれる募金活動を通じて寄付を行い、ポピーの花を胸につけます。エリザベス女王をはじめとする王室や政府関係者、軍人などもこのシンボルを着用し、国全体で戦没者を追悼します。
ポピー・アピールとは?
「ポピー・アピール(Poppy Appeal)」は、「王立英国軍人会(The Royal British Legion)」によって毎年行われる募金活動です。この募金活動の収益は、戦争で傷ついた退役軍人やその家族の支援に充てられます。ポピーの販売は、スーパーや駅、ショッピングモールなど至る所で行われ、多くの市民が募金に協力します。
イギリス社会におけるポピーの役割
ポピーは単なる追悼のシンボルにとどまらず、イギリス社会のさまざまな場面で重要な役割を果たしています。
- スポーツとポピー サッカーのプレミアリーグでは、11月になると選手や監督がユニフォームやジャケットにポピーをつけて試合に臨みます。また、試合前には黙祷が捧げられ、戦没者への敬意が示されます。
- メディアとポピー テレビ番組の司会者やニュースキャスターも、リメンブランス・デーが近づくとポピーを着用します。この慣習は、ポピーが戦没者追悼の意識を高めるためのシンボルとして定着していることを示しています。
- ロンドンの戦没者記念碑(Cenotaph) ロンドンのホワイトホールには戦没者記念碑(Cenotaph)があり、リメンブランス・デーには大規模な追悼式典が行われます。ここでは、国の指導者や退役軍人、一般市民が集まり、黙祷や献花を行います。
色によるポピーの違い
ポピーにはいくつかの色のバリエーションがあり、それぞれ異なる意味を持っています。
- 赤いポピー:最も一般的で、戦没者の追悼を意味します。
- 白いポピー:平和と戦争の非暴力的な解決を訴える象徴です。
- 紫のポピー:戦争で犠牲になった馬、犬、鳩などの動物たちを追悼するためのシンボルです。
- 黒いポピー:イギリス軍で戦ったアフリカ系・カリブ系兵士の貢献を称えるものです。
現代におけるポピーの意義
ポピーは、イギリスにおいて「戦争の記憶」「敬意」「追悼」「平和」を象徴する非常に重要なシンボルです。リメンブランス・デーが近づくと、街の至るところでポピーを見かけることができます。
しかし、近年ではポピーの着用を巡る議論もあります。一部の人々は、「ポピーは戦争を美化するものではないか」との懸念を示し、ポピーの着用を拒否するケースも増えています。一方で、退役軍人やその家族にとっては、ポピーは戦争の記憶を風化させないための大切なシンボルであり、その意義は今も変わりません。
2014年のロンドン塔のポピー・アート
2014年、第一次世界大戦開戦100周年を記念して、ロンドン塔の周囲に陶器製のポピー約88万個が並べられる壮大なアートプロジェクトが実施されました。この展示は「Blood Swept Lands and Seas of Red」と名付けられ、第一次世界大戦で亡くなったイギリスと連邦軍の兵士一人ひとりを象徴するものでした。
終わりに
ポピーは単なる花ではなく、イギリスの歴史と文化に深く根付いた重要なシンボルです。リメンブランス・デーが近づくと、多くの人々がこの小さな赤い花を身につけ、過去の戦争の犠牲者に思いを馳せます。戦争の悲劇を忘れず、平和への願いを込めるために、ポピーはこれからもイギリス社会の重要なシンボルであり続けるでしょう。
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