
【ロンドン発】
米国がついにイスラエルとイランの武力衝突に正式介入したことで、中東の緊張は一気に世界規模へと拡大しつつある。英国内でも、この事態を受けて政府の立ち位置に注目が集まっており、キア・スターマー首相率いる新政権が抱える外交的ジレンマはかつてないほど深刻だ。英国はこのまま「中立」を維持できるのか、それとも国際秩序の一角として戦争に巻き込まれていくのか──。
米軍の直接介入で戦局は新たな段階へ
イランとイスラエルの間で続いていた報復の応酬に対し、バイデン政権はついに明確な姿勢を示した。米軍は空母打撃群をペルシャ湾に展開し、同盟国であるイスラエルの防衛を名目に、イラン拠点への限定的空爆を開始したと報じられている。
この米国の動きに対し、NATO諸国にも対応を求める声が高まりつつあるが、英国政府は依然として慎重姿勢を崩していない。スターマー首相は21日の記者会見で「われわれは事態の拡大を望んでおらず、外交的手段が最優先されるべきだ」と語り、英国として軍事介入の意思は現時点ではないことを示唆した。
中立姿勢に潜む地理的・戦略的リスク
しかしながら、英国が戦争に巻き込まれるリスクは日に日に高まっている。地理的にイランに近い欧州において、米国よりも物理的距離の短い英国は、報復攻撃やテロの標的になる可能性が高い。特に、英領キプロスのアクロティリ空軍基地など、中東作戦における拠点はすでに警戒レベルを引き上げているとされる。
また、英国本土においても、空港や発電施設、通信インフラなどがサイバー攻撃やドローン攻撃の対象になるリスクは現実味を帯びてきている。これにより、市民生活や経済活動への間接的な影響も懸念されており、「中立」でいること自体が安全保障上のリスクを孕む状況に変化しつつある。
ロシアの影、第三次世界大戦の危機
さらに複雑なのが、イランと友好関係にあるロシアの存在だ。すでにウクライナ戦争でNATOと敵対関係にあるロシアが、イラン支援を口実に軍事的・技術的な支援を強化した場合、戦争は中東の枠を超えて世界大戦へと発展する危険性がある。
一部の外交筋によれば、ロシアはイランへの地対空ミサイルや監視衛星情報の提供を強化しており、既に中東戦域で西側諸国との「間接衝突」が始まっているとの見方もある。英国がこの構図においてどのような立ち位置を取るかは、今後の戦局の行方を大きく左右する要因となりうる。
歴史の教訓と、試されるスターマー政権の指導力
英国は過去二度にわたり、世界戦争への「遅れた参戦」を経験してきた。いずれのケースでも、初期には中立や調停の立場を模索しながら、最終的には世界秩序の一翼として武力行使に踏み切った歴史がある。今回の状況もまた、類似の構図を帯びており、スターマー政権の判断には歴史的重みが問われている。
スターマー首相は国内政策で「変化と安定の両立」を掲げ、医療・経済・移民といった課題に注力してきたが、突如訪れた国際危機はその内政路線にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。経済制裁や原油価格の高騰、治安リスクなど、戦争の波紋はすでに英国社会にもじわじわと浸透し始めている。
今後の焦点は
今後の焦点は、NATO内での調整、米国からの圧力、そしてロシアの動向という三点に集約される。スターマー政権が国際社会の期待と国内の平和をどう両立させるかが問われる場面となるだろう。
「最後の一線」を越えるその時、英国は何を守り、何を選ぶのか──。その判断は、国の未来を左右するだけでなく、世界の命運すら握っているのかもしれない。
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