対中不信と国内生産の空洞化が生んだジレンマ
近年のイギリスは、中国に対して政治的・安全保障上の警戒を強めている。一方で現実の経済運営では、中国の存在を無視できず、むしろ依存せざるを得ない苦境に立たされている。この矛盾はどこから来るのか。その核心には「国内で生産しない(できない)構造」がある。
対中不信が強まるイギリス
イギリス政府は、国家安全保障や価値観外交の観点から、中国に対して距離を取ろうとしてきた。通信インフラ、先端技術、大学研究などの分野では警戒感が顕著だ。世論も概して厳しく、政治レベルでは「中国依存からの脱却」が繰り返し語られる。
しかし、現実の経済はスローガンほど単純ではない。イギリスは生活必需品から産業用部材まで、幅広い分野で中国製品に支えられている。供給網を短期間で切り替えるのは困難だ。
「頼らざるを得ない」理由
最大の理由は、国内生産能力の不足である。かつて製造業大国だったイギリスは、長年の脱工業化によって工場・人材・設備を失ってきた。
安価で大量に生産できる体制は国内にほとんど残っておらず、その穴を埋めてきたのが中国だった。
結果として、イギリスは「中国を好まないが、中国がいなければ回らない」という矛盾した立場に置かれている。
なぜ国内生産に戻らないのか――資源の制約
「ならば国内で作ればいい」という意見はもっともに聞こえる。しかし現実には高い壁がある。
- 天然資源の乏しさ
イギリスは金属資源やレアアースなど、現代製造業に不可欠な原材料をほとんど自国で賄えない。原料は輸入、加工だけ国内、という形ではコスト競争力が出にくい。 - エネルギーコストの高さ
製造業は大量のエネルギーを必要とするが、イギリスはエネルギー価格が高く、安価な大量生産に不向きだ。 - 人材とサプライチェーンの断絶
熟練工や部品供給網は一度失われると、再構築に何十年もかかる。中国の強みは「工場そのもの」よりも、密集した産業エコシステムにある。
中国の「代替」が見えない現実
中国は単なる製造拠点ではなく、原材料調達から加工、組み立て、物流までを一体化した巨大な生産システムを持つ。この規模と効率を、短期間で他国が再現するのは極めて難しい。
イギリスは理想として「脱中国」を掲げつつも、現実的には中国を完全に代替できる相手を見つけられていない。
ジレンマの行き着く先
イギリスが直面しているのは、資源制約と産業構造が生んだ長期的な問題だ。
中国への依存を減らすには、国内生産の復活だけでなく、同盟国との分業や新たな供給網の構築が必要になる。しかしそれは短期的な解決策ではない。
結果としてイギリスは今後もしばらく、政治的には距離を置き、経済的には頼らざるを得ないという矛盾を抱え続けるだろう。










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