日本人から見ると、イギリスでは違法薬物、特に大麻に対して抵抗が少ないように感じられることがあります。 実際、ニュースや映画の中でも「少しの薬物使用は珍しくない」という印象を受けるかもしれません。 しかし、これは単に「イギリス人が薬物に寛容だから」ではなく、 社会的背景や教育、文化、そして法律運用の違いが重なった結果だと考えられます。
1. 学校の種類に関係なく薬物を目にする機会がある
イギリスでは、公立・私立を問わず、10代の若者が薬物を見たり、話題に触れたりする機会があります。 これは「蔓延している」という意味ではなく、「存在を隠しきれないほど社会の中で身近」ということです。 政府の統計によると、11〜15歳の生徒のうちおよそ1割前後が過去1年以内に薬物を使用した経験があり、 その多くが大麻です。つまり、多くの若者は使わないものの、 「同世代の誰かが使ったことがある」という環境が現実的に存在しています。
また、富裕層が通う私立校でも、寮生活や放課後の自由時間が多い環境では薬物が持ち込まれるケースがあり、 一方で都市部の公立校でも地域的な要因から薬物が身近に感じられることがあります。 このように、社会階層や学校の種類に関わらず、薬物が完全に遠い存在とは言い切れません。
2. 大麻への社会的な寛容さ
イギリスでは大麻は依然として違法ですが、軽微な所持であれば警察が警告や教育指導で済ませる場合もあります。 そのため、若い世代の中では「大麻は酒やタバコと大差ない」と感じる人が少なくありません。 特に都市部では、音楽やカルチャーの中で大麻が登場することも多く、社会的なタブー意識が薄い傾向にあります。
こうした「大麻=重犯罪ではない」という認識の広がりが、 違法薬物全般への心理的なハードルを下げている一因だと考えられます。
3. 教育と家庭のアプローチの違い
日本の薬物教育は「絶対にダメ」という禁止型が主流ですが、 イギリスでは「リスクを理解し、自分で判断する」教育方針を取る学校も多くあります。 これは、実際に薬物が存在する社会の中で生徒が自分を守る方法を学ばせるという現実的な考え方です。 そのため、「薬物」という言葉に対して強い恐怖や拒絶を示すよりも、 「危険ではあるが現実に存在するもの」として冷静に捉える傾向が見られます。
このような教育文化が、薬物への心理的な距離を日本よりも近く感じさせている要因の一つです。
4. メディアと社会の影響
イギリスの音楽や映画では、薬物使用が隠されることなく描かれることがあります。 それは肯定ではなく、「現実を描写する文化」として自然に扱われているのです。 若者にとっては、薬物が「ニュースで見る犯罪」ではなく、 「現実のどこかに存在するもの」として受け止められやすくなります。
5. ストレスや社会的プレッシャー
学業競争や社会的期待が大きい私立校の生徒の中には、プレッシャーから薬物に手を出すケースも報告されています。 これは「金銭的に余裕があるため入手しやすい」「監督の目が届きにくい寮生活」といった条件も関係します。 一方、公立校でも家庭環境の不安定さや地域の貧困などが要因になることがあります。 いずれの場合も、薬物は現実逃避やストレス解消の手段として誤って選ばれることがあります。
6. 「蔓延」ではなく「身近」なだけ
イギリスの薬物問題を「蔓延している」と表現するのは誤解です。 実際に常習的に使用する人は少数で、ほとんどの若者は薬物に手を出しません。 ただ、薬物が社会から完全に隔離されていないため、存在を身近に感じやすいというのが実情です。
そのため、「イギリス人は薬物に抵抗がない」と見えるのは、 実際には「薬物という現実を隠さずに受け止めている」社会の特徴なのです。
まとめ
イギリスでは、違法薬物は明確に禁止されています。 しかし、社会や教育の中で薬物の存在が「見えないもの」ではなく、 若いうちから話題に上ることがあるため、心理的ハードルが相対的に低く見えるのです。
それは決して薬物使用を肯定する文化ではなく、現実を直視した上でリスクを管理するという、 社会全体のアプローチの違いによるものです。










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