イギリスで今、大学を卒業したにもかかわらず生活保護や福祉支援に頼らざるを得ない若者が70万人を超えているという現実が、大きな議論を呼んでいる。高等教育を受けた人材が職を得られず、国家の社会保障に吸収されていく構図は、同国の経済と雇用の深刻な歪みを示している。
しかし、こうした状況にもかかわらず、イギリス政府は「大不況(深刻な景気後退)に陥っているわけではない」との姿勢を崩していない。この統計上の説明と国民の実感との乖離が、いま英国社会の不信感を強めている。
大学卒業=安定、という神話の崩壊
かつてイギリスでは、「大学を出れば安定した職に就ける」という考えが広く共有されていた。しかし現在、その前提は大きく崩れている。
- 大卒者であってもフルタイムの職に就けない
- 専門外・低賃金・不安定雇用に甘んじるケースが増加
- 失業状態、あるいは就職活動自体を断念する若者の増加
その結果、高学歴でありながら生活保護(ユニバーサル・クレジットなど)を申請する人が急増し、総数は70万人を超えたとされている。
これは単なる「怠惰」や「個人の努力不足」の問題ではない。大学進学率が拡大する一方で、労働市場がそれに見合う雇用を生み出せていないという、構造的なミスマッチが背景にある。
若者を直撃する雇用と生活コストの二重苦
若年層、とりわけ大卒世代が直面しているのは、雇用問題だけではない。
- 家賃の高騰
- 光熱費・食料品価格の上昇
- 学生ローン返済の重圧
仕事が見つかっても、生活費を賄える水準に達しないケースが多く、「働いても生活できない」「働く前に生活が破綻する」という状況に追い込まれている。
こうした中で生活保護は、最後の安全網というより“卒業後の現実的な選択肢”になりつつある。
政府が「大不況」を認めない理由
それでもイギリス政府は、公式には「経済は困難な局面にあるが、大不況ではない」と説明する。
政府が根拠として挙げるのは、
- GDPの急激な崩落は見られない
- 名目賃金の上昇
- 雇用率は歴史的に見て一定水準を維持している
といったマクロ経済指標だ。
しかし、これらの数字は生活の実態を必ずしも反映していない。雇用率が高くても、その中身が短時間・低賃金・不安定雇用であれば、生活は成り立たない。統計上は「雇用されている」人々が、実際には貧困状態にあるという現象が拡大している。
見えにくい「静かな不況」
現在のイギリス経済は、リーマン・ショック時のような急激な崩壊ではなく、長期的に生活水準が下がり続ける「静かな不況」とも言える状態にある。
- 働いても将来が見えない
- 教育投資が回収できない
- 若者ほど将来への期待を失っている
それでも政府が「大不況ではない」と言い続けることで、問題の深刻さが先送りされ、対策が後手に回るという悪循環が生まれている。
問われるのは“認識”そのもの
大卒70万人超が生活保護を申請しているという事実は、経済が国民の生活を支える機能を十分に果たしていないことを示している。名称が「不況」であるかどうかよりも重要なのは、実際に人々が暮らせているかどうかだ。
イギリス政府にいま求められているのは、統計上の言葉遊びではなく、
- 若者が安定して働ける雇用の創出
- 教育と労働市場の再接続
- 生活保護に依存しなくても生きられる賃金水準
といった、現実に即した政策対応である。
「大不況ではない」という言葉が、現場で苦しむ若者たちにとって空虚なものにならないか――その姿勢が、いま厳しく問われている。










Comments