貧困と刑罰のはざまで

イギリスで路上生活と刑務所の環境を対比したイラスト。寒い街角で暮らすホームレスと、食事と寝床がある刑務所の様子が描かれている。

イギリスで「刑務所を居場所として選ぶ」ホームレスたち

イギリスでは近年、住宅不足と生活費高騰、福祉制度の限界が重なり、ホームレス状態にある人々が、あえて軽微な犯罪を犯し刑務所に入るという現象が社会問題として注目されている。一見理解しがたいこの行動の背景には、「自由」よりも「生存」を優先せざるを得ない厳しい現実がある。

冬の路上より「安全」な刑務所

イギリスの冬は寒く、路上生活者にとって命に関わる。暖房のない屋外で眠るよりも、

  • 屋根があり
  • 食事が1日3回提供され
  • 医療やシャワーにアクセスできる

刑務所の方が**「安全で安定した環境」**だと感じる人も少なくない。

実際、万引きや無賃乗車、軽度の器物損壊など、比較的軽い犯罪を意図的に行い、短期刑を選ぶケースが報告されている。

「犯罪をしたい」のではなく「生き延びたい」

重要なのは、彼らの多くが犯罪行為そのものを望んでいるわけではない点だ。
背景には次のような構造的問題がある。

  • 公営住宅(ソーシャルハウジング)の慢性的不足
  • 家賃と光熱費の急激な上昇
  • 精神疾患や依存症を抱えた人への支援不足
  • 申請が複雑で即効性のない福祉制度

支援を受けるまで何週間、何か月も待たされる一方で、刑務所は「今すぐ入れるセーフティネット」として機能してしまっている。

刑務所が“最後の福祉”になる矛盾

皮肉なことに、刑務所では

  • 基礎的な健康診断
  • 精神医療への接続
  • 安定した食事と睡眠

が保障されることが多い。これは、本来社会福祉が担うべき役割だ。

専門家や慈善団体は、「刑務所が事実上の社会保障制度になってしまっている」と警鐘を鳴らす。
刑罰によって貧困問題を“管理”することは、本人にとっても社会全体にとっても長期的な解決にならない。

出所後、また路上へ戻る現実

しかし、刑期を終えて出所しても状況が改善することは稀だ。
前科がつくことで就労や住居探しはさらに困難になり、結果として再びホームレス状態に戻り、再犯に至る——この悪循環が繰り返されている。

求められるのは「犯罪化」ではなく「支援」

この問題は、「ホームレスのモラル」の話ではない。
問われているのは、

  • 住居を人権として保障できているか
  • 支援が“間に合う速度”で届いているか
  • 貧困を刑罰で代替していないか

という、社会の設計そのものだ。

刑務所を「避難所」として選ばざるを得ない社会は、誰にとっても健全とは言えない。
本当の解決策は、犯罪の先にある刑罰ではなく、犯罪に追い込まれる前の支援にこそある。

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