イギリスに移住した香港の高齢者たちに広がる不安
2021年以降、香港情勢の変化を受けて、数多くの香港出身者がイギリスへ移り住んだ。その中には、仕事や子どもの将来だけでなく、「老後の安心」を求めて移住を決断した高齢者も少なくない。
しかし今、その高齢者たちの間で「このままでは永住権を取得できないのではないか」という強い不安が広がっている。
「5年後には永住できる」という前提で来た
多くの香港出身者は、英国海外市民(BN(O))向けに設けられた特別ビザ制度を利用して移住した。この制度は、一定期間(原則5年)イギリスに居住すれば、永住権を申請できるという道筋が示されていた。
この「5年後の永住権」があるからこそ、
- 高齢になってからの移住
- 英語に自信がない状態での新生活
- 医療や福祉制度への長期的な期待
といった大きな決断を下した人も多い。
「最後の人生を、安心できる場所で過ごしたいと思った」
そう語る高齢者は珍しくない。
政策見直しの動きが生む焦り
ところが最近、イギリス政府が移民政策全体の引き締めを検討する動きの中で、永住権取得までの条件や年数が厳しくなる可能性が取り沙汰されるようになった。
まだ最終決定は出ていないものの、
- 永住権申請までの居住年数が延びるのではないか
- 英語力や収入に関する条件が強化されるのではないか
- 特例扱いされてきたBN(O)ルートも見直されるのではないか
といった噂や報道が、香港系コミュニティの中で急速に広まっている。
高齢者ほど影響が大きい理由
この問題が特に深刻なのは、高齢者世代だ。
英語の壁
永住権申請で求められる英語要件は、若い世代に比べて高齢者には大きな負担になる。語学学校に通う体力や集中力が続かない人も多い。
収入要件の不安
年金や貯蓄で生活している高齢者にとって、「一定以上の収入」を条件とされることは致命的になりかねない。
人生設計が崩れる恐れ
すでに香港の住居を手放し、家族や友人とも離れて暮らしている人にとって、「永住できないかもしれない」という状況は、将来の医療、介護、住居すべてを揺るがす問題だ。
「今さら別の国に移る体力もない。帰る場所もない」
そんな声も、コミュニティの中では聞かれる。
「約束が変わるのでは」という不信感
不安をさらに大きくしているのは、「制度が後から変えられるのではないか」という不信感だ。
移住当初、政府が示していた条件を信じて人生の選択をしたにもかかわらず、途中でルールが変われば、特に高齢者は対応できない。
支援団体や当事者の間では、
「すでに移住している人たちには、当初の約束を守るべきだ」
という声が強まっている。
先が見えない中で続く日常
現時点では、BN(O)ルートで移住した人たちが直ちに永住権を失うわけではない。だが、「将来どうなるのか分からない」という状態そのものが、高齢者にとって大きな精神的負担になっている。
語学教室に通い続ける人、地域のボランティアに参加して「社会に必要とされている」ことを示そうとする人もいる。一方で、不安から外出を控え、孤立を深めてしまう高齢者もいる。
問われるのは「人道的な配慮」
この問題は、単なる移民制度の話ではない。
高齢になってから人生の大きな決断をした人たちに、社会がどう向き合うのかという問いでもある。
永住権をめぐる最終的な制度設計は、これから明らかになる。だが、その結論次第では、多くの香港出身高齢者の老後の安心が大きく左右されることになる。
静かに、しかし確実に、彼らはその行方を見つめている。










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