イギリスにも事故物件ってあるの?日本と違う「家の過去」と告知の考え方

イギリスで家を探していると、築100年を超える住宅に出会うことがあります。長い間、人が暮らしてきた家なら、「ここで過去に何があったのだろう」と気になる人もいるでしょう。

イギリスにも、日本でいう「事故物件」に相当する住宅はあります。 殺人や自殺などの履歴が、物件選びに影響することは英国の不動産実務でも認識されています。ただし、日本の「事故物件」という言葉をそのまま当てはめると、告知の仕組みや住宅事情の違いを見落としてしまいます。

築100年以上の家が、今も現役で使われている

まず知っておきたいのは、イギリスの住宅には長い歴史を持つものが多いことです。

英国政府のEnglish Housing Surveyによると、2024年時点で、イングランドの民間賃貸住宅の32%は1919年より前に建てられた住宅でした。英国全体ではなくイングランドの数字ですが、古い建物が賃貸市場で大きな割合を占めていることが分かります。GOV.UK

100年以上使われてきた住宅には、何世代もの生活が積み重なっています。その間に、住民が自宅で最期を迎えた可能性もあるでしょう。ただし、建物が古いというだけで、死亡や事件の履歴があると決めつけることはできません。

こうした住宅を考える際には、過去の出来事の内容や、現在の暮らしへの影響を具体的に見ることが大切になります。

自然死と殺人事件では、確認すべきことが違う

「以前の住民が病気で亡くなった家」「殺人事件の現場になった家」「死亡後の発見が遅れ、専門的な清掃が必要になった家」。同じように室内で人が亡くなっていても、事情は大きく違います。

心理的な抵抗感に加え、事件の知名度、報道の影響、清掃や修繕の状況など、気になる点も変わります。

ちなみに、日本でも自然死がすべて告知対象になるわけではありません。 国土交通省のガイドラインでは、特殊清掃などを伴わない自然死や日常生活での不慮の死は、原則として告知不要と整理されています。ただし、質問された場合や特段の事情がある場合などには例外があります。mlit.go.jp

日英を比較するときも、「人が亡くなったか」だけで話を終わらせず、死亡の経緯や、その後の対応まで確認する必要があります。

イギリスでは、事故や事件を知らせる義務はある?

イギリスでの告知を考えるうえで、重要になるのが Material Information(取引判断に必要な重要情報) です。

2025年4月6日以降の事業者と消費者の取引には、Digital Markets, Competition and Consumers Act 2024(DMCC法)の不公正取引に関する規定が適用されています。不動産の売買や賃貸も対象に含まれ、必要な情報の省略によって平均的な消費者の判断が変わるおそれがある場合、違法な情報不開示に当たる可能性があります。GOV.UK

不動産業界団体Propertymarkが公開する、Trading Standardsと連携した助言では、最近の殺人や自殺などを、伝えるべき重要情報の例として挙げています。また、古い出来事についても、購入希望者や入居希望者から質問された場合は、事実に沿って回答すべきだとしています。Propertymark

ただし、この助言は旧法のもとで作成された資料です。現在の取引では、DMCC法の一般原則も踏まえて考える必要があります。

したがって、英国の仕組みは、すべての死亡履歴を自動的に告知するというものではありません。その情報が、物件を検討する人の判断に必要かどうかが中心になります。政府も、重要情報は物件ごとの事情で異なり、住宅取引に関する完全な一覧が法律に定められているわけではないと説明しています。GOV.UK

なお、ここで説明している消費者保護法上の義務は、不動産会社など「事業者」に関するものです。個人が自宅を売る場合に同じ義務がそのまま適用されるとは限らず、取引上の立場によって扱いが変わります。GOV.UK

重大事件の現場では、建物が取り壊された例もある

英国でも、重大事件が起きた住宅が社会的な問題になることはあります。

有名なのが、フレッド・ウェストとローズ・ウェストの連続殺人事件に関係する、グロスターのクロムウェル・ストリート25番地です。1996年10月、この住宅では自治体の判断で解体が始まりました。当時の報道では、事件に関心を持つ見物人の問題や、市への影響も伝えられています。The Independent

これは極端な例ですが、事件の履歴は、その建物の中だけで完結するとは限りません。周辺住民の生活や、現場に向けられる社会的な関心にも関わります。

こうした事例からも、英国で家の過去が常に気にされないわけではないことが分かります。

事故物件なら、家賃や売値は安くなる?

気になるのは、価格への影響でしょう。

ただ、英国のこの種の物件について、「殺人事件があれば何%安くなる」「自殺があれば家賃が何割下がる」と一律の数字を示すことはできません。

市場の仕組みから考えると、事件の履歴を理由に希望者が減れば、売値や募集条件の見直しにつながる可能性はあります。一方で、立地や建物の状態などを評価し、購入や入居を検討する人もいるでしょう。影響は個別の条件によって変わります。

購入を考えるなら、自分がその過去を受け入れられるかに加え、将来売却するときに、次の買い手がどう受け止めるかも考えておきたいところです。

気になる物件は、契約前にどう確認する?

英国で家を借りたり買ったりするときに過去が気になるなら、契約前に具体的な質問をすることをおすすめします。

例えば、不動産会社には次のような点を確認できます。

  • 把握している範囲で、この物件に殺人、自殺、その他の重大な事件の履歴はあるか。
  • その出来事は、いつ、建物のどの部分で起きたのか。
  • 専門的な清掃や修繕が行われた場合、その内容を確認できるか。
  • 現在も、事件に関係する訪問者や近隣トラブルなどの問題があるか。

回答はメールなど、後から確認できる形で残しておくとよいでしょう。購入する場合は、気になっている事情を取引担当のソリシターにも伝え、追加確認について相談できます。

住所や通りの名前で過去の報道を調べる方法もありますが、検索結果が出ないことだけで、何も起きていないと保証されるわけではありません。反対に、ネット上のうわさを、確認された事件と同じように扱うことも避けたいところです。

イギリスにも、過去の出来事から住むことをためらわれる家はあります。その家で何が起きたのか、必要な説明を受けられるか、現在の状態に納得できるか。家賃や間取りと同じように、安心して暮らせるかどうかも、住まいを選ぶ大切な基準です。

※2026年10月20日時点の公開資料をもとに執筆。住宅事情や取引実務は主にイングランドを念頭に説明しています。スコットランドなどでは、取引手続きや関連制度が異なります。

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