
「男女平等の先進国」として語られることの多いイギリス。しかし、実際のカップル間において“決定権”や“主導権”を握っているのは一体どちらなのだろうか。表面的な男女平等のイメージと、現実のカップル間の力関係にはズレがあるのではないか——そんな疑問から、この記事ではイギリスにおけるカップルの権力構造について掘り下げてみたい。
■ イギリスの「男女平等」は本物か?
イギリスは、国際的な男女平等指数(Global Gender Gap Index)において常に上位に位置している国だ。女性の政治参加も高く、国会議員の約3分の1は女性。さらに、女性の高等教育進学率は男性を上回る傾向にある。企業においても、近年は女性CEOの存在感が増しており、男女の賃金格差を減らす政策も推進されている。
こうした表面的なデータを見る限り、イギリスは男女平等が「浸透」している国といって差し支えない。しかし、「社会全体」と「個々のカップル」の中での平等は、必ずしも一致するわけではない。特に家庭内や恋愛関係における力関係は、経済力・文化・価値観といった複雑な要素が絡み合って形成される。
■ 「女性が主導権を握るカップル」は本当に多いのか?
SNSやライフスタイル誌、また一部のコメディ番組などでは「妻(または恋人)が家庭内のボス」という描写が多く見られる。これはイギリスに限らず、先進国全体に共通する“お約束”のようなものでもある。家庭での買い物、子どもの進路、住居の決定など、実務的な部分は女性が主導する傾向にあるのは事実だ。
しかし、果たして「主導権=決定権」なのだろうか?
たとえば、見た目にはパートナーの女性が「支配的」に振る舞っていても、実際には重要な経済的選択やライフスタイルの根幹にかかわる判断は、男性が下しているケースもある。これは、いわば「見た目の主導権」と「実際の決定権」のズレといえる。
■ 経済力と決定権の関係
家計を支える者が力を持つ——これは、どの国でも共通する構図だ。イギリスにおいても、依然として高収入層に占める男性の割合は女性を上回っており、特に40代以上の年齢層ではその傾向が顕著である。高給取りのポジションにいる男性は、仕事の都合で住む場所やライフスタイルを決めることが多く、それに伴って家庭内での「決定権」も握っていることが多い。
また、家の購入・ローン・子どもの進学といった長期的な経済決定では、収入が多い側の意見が尊重される傾向にある。つまり、形式的には「対等」であっても、経済的な依存関係が見えない力の差を生むのだ。
▼ 統計で見る現状
イギリス国家統計局(ONS)のデータによると、カップルのうち約60%が「収入面で男性が優位」とされている。加えて、家庭内の大きな意思決定(マイホーム購入や保険、車の選定など)においては、男性の意見が最終的に採用されるケースが全体の約65%にも及ぶという調査もある。
つまり、「女性が声を出しているように見える」カップルでも、経済的な影響力を持つ男性が影のリーダーとなっている可能性は高い。
■ 文化とジェンダー:イギリス特有の事情
イギリスは一見して“個人主義”の国であり、「対等な関係」が重視される文化が根付いている。そのため、夫婦や恋人関係でも「すべてを対話で決める」という姿勢が一般的だ。しかし実際は、その中に“暗黙のヒエラルキー”が存在している。
たとえば、アッパーミドル層以上の家庭では、「パートナーのキャリアを優先する」という理由で女性がキャリアを一時中断するケースも多い。これは合意による選択であると同時に、社会構造によってそうせざるを得ない“空気”が漂っているともいえる。
また、保守的な価値観が残る地方都市では、依然として「男性は仕事、女性は家庭」という分業意識が強い傾向にある。こうした地域では、「女性が決定権を握る」という発想自体が少数派である。
■ 典型的なカップル像:4つのケーススタディ
ケース1:ロンドン在住の共働き夫婦(30代)
妻は医師、夫はIT企業勤務。年収はほぼ同じ。決定事項は話し合いのうえで決めているが、住宅ローン契約などの金融手続きは夫が担当。「実務は妻、金銭判断は夫」という分業型。
→ 一見平等だが、経済的な意思決定では男性に一日の長がある。
ケース2:郊外在住、専業主婦家庭(40代)
夫は会社経営、妻は子育てに専念。家庭内のすべてを妻が取り仕切るが、最終的な大きな決断は夫が行う。車の購入、学校選びも夫の意向が優先。
→ 家庭内での“日常的な決定”は妻、“戦略的な決定”は夫。
ケース3:同性カップル(女性×女性)
収入格差があり、高収入のパートナーが家賃・投資を負担。話し合いのうえで生活を組み立てているが、金銭にまつわる大きな決定は一方に偏りがち。
→ 男女関係に限らず、経済力が決定権に影響を与える例。
ケース4:移民カップル(南アジア出身)
夫がフルタイム、妻がパートタイム勤務。伝統的な家庭観が強く、妻が従属的な立場にあると感じている。夫が主に決定権を握る構造。
→ 文化的背景が力関係に大きく影響。
■ 「見える平等」と「見えない不平等」
男女が“平等”であるという社会通念があったとしても、実際の関係性には「見えない不平等」が存在する。それは必ずしも悪意や差別から生まれるものではなく、経済的背景や文化的慣習、あるいはパートナー間の“暗黙の了解”として自然に形成されていくものだ。
表面的には女性が“仕切っている”ように見えるカップルでも、経済的なリソースを握っている男性が、より根本的な意思決定をしていることは少なくない。そしてそれはイギリスのような男女平等が進んだ国においても例外ではない。
■ まとめ:カップルの「主導権」とは何か?
カップルの力関係は単純な「女性が上か、男性が上か」では測れない。見た目の主導権と実際の決定権が一致しないことも多く、さらに経済力が決定権に大きな影響を与えている現実がある。
男女平等の価値観が広がっていても、その土台にはまだまだ経済的ジェンダーギャップが残っており、これを解消するには「平等な収入構造」と「育児・家事の分担」など、社会全体での再設計が必要だ。
つまり、真の平等とは、対等な会話の裏側にある“見えない力関係”にも目を向けることから始まる。イギリスのカップルたちは、そのジレンマの中で日々バランスを模索している。
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