
こんにちは、ロンドン在住のライターです。
「イギリスに海ってあったっけ?」「雨ばっかり降ってるし、海水浴なんて無理でしょ」——こんなイメージ、ありませんか?正直、私もイギリスに来るまでは、そう思っていました。地中海のような青く透き通った海、白い砂浜、パラソルの下でトロピカルジュースを飲むようなバカンスとは無縁の国。それがイギリスです。
でも、実はイギリス人、夏になると“海”へ行くんです。
しかも、そこには信じがたい光景が広がっています。岩と石ころだらけのビーチにビキニで寝そべる人々、寒風のなかでアイスクリームを食べる子供たち、そして濁った海に勇ましく飛び込む男性たち……。
今回はそんな「イギリスの奇妙な海水浴文化」を、現地の視点からたっぷりご紹介します。
1. イギリスに「キレイなビーチ」は存在しない?
まず結論から言うと、日本人がイメージするような“キレイなビーチ”は、イギリスにはほとんど存在しません。もちろん、スコットランドの離島や、南西部のコーンウォールの一部には息をのむような絶景もありますが、全体としては次のような特徴が多いです。
- 砂ではなく、小石や砂利だらけ
- 水は濁っていて、冷たい
- 天気が不安定で、急に曇ったり雨が降ったり
- 風が強くて寒い
たとえば、ロンドンから日帰りで行ける人気ビーチ「ブライトン」は有名ですが、足元は全部「丸い石ころ」。砂浜じゃありません。靴を脱いで歩こうものなら、痛くて10秒と立っていられません。しかも、強風が吹き荒れる中、なぜか現地の人たちはビキニやトランクス一丁で日光浴を楽しんでいます。
2. それでもイギリス人はビーチへ行く
「そんな環境で、なぜ海水浴をするのか?」
この問いに対する答えは、“イギリスの夏=短くて貴重な祝祭”だからです。
イギリスの天気はご存じの通り、曇りと雨がデフォルトです。ロンドンでさえ、年間のうち晴れる日はせいぜい100日未満。そんな国で、夏の数週間だけ訪れる「晴れの日」は、まさにボーナスタイム。イギリス人はこれを逃すまいと、全力で“太陽の恩恵”を受けようとするのです。
その象徴が、海辺での日光浴。
ビーチタオルを敷き、小石だらけの地面に体を横たえて、本を読んだり、ビールを飲んだり、ただただ寝転がって「日を浴びる」こと自体が、彼らにとってのリラクゼーションなんです。
3. 海に入る?本当に?!
ここで衝撃の事実。イギリスの海は、水温がめちゃくちゃ冷たいです。
夏でも南の方でせいぜい17〜19度。日本でいえば5月下旬〜6月初旬の水温に近いレベルですが、イギリス人は平気な顔で飛び込みます。特に子供たちは、水着のまま大はしゃぎ。大人たちも“泳ぐ”というより“入ること”に意味を見出しているようで、「今年の海はちょっとぬるいね〜」などと笑いながら入っていきます。
ちなみに私が初めて海に入ったときは、5秒で足がしびれ、10秒で我慢できなくなりました。あれはほぼ冷水浴、いや、軽い拷問です。
4. ピアとアイスクリーム、そしてフィッシュ&チップス
イギリスのビーチタウンには、特徴的な共通点があります。
- 「ピア(桟橋)」がある
- ビーチ沿いに遊園地がある
- 巨大なアイスクリーム屋とフィッシュ&チップス屋が並ぶ
たとえばブライトンやブラックプール、ボーンマスなどは、いずれも大きな桟橋(ピア)が海に向かって伸びており、その上にはゲームセンターやジェットコースター、観覧車まで設置されています。
そして、海辺にはなぜか巨大なソフトクリームやスラッシー(かき氷ドリンク)を食べる人たちの姿が。あの寒風の中で、なぜ冷たいものを……という疑問をよそに、みな楽しそうです。
ランチタイムにはお決まりの「フィッシュ&チップス」。熱々の白身魚フライと塩っけたっぷりのフライドポテトに、モルトビネガーをドバドバかけて食べるのが定番。風に飛ばされないよう紙袋を押さえながら食べるのが、また一興なのです。
5. 海外旅行が当たり前でなかった時代の名残
この「国内のビーチに行く文化」は、20世紀初頭から中頃にかけて生まれたもので、特に鉄道の発達とともに、ロンドンなど都市部から“海へ行く”ことが庶民にも可能になりました。
まだ格安航空券もなかった時代、人々はブラックプールやブライトンといった海辺の町にバケーションに出かけるのが夢だったのです。会社も夏季休暇をまとめて取り、家族で海辺に行くのが当たり前。その名残が今でも強く残っています。
6. 現代の若者たちのビーチ事情
現代のイギリスでは、格安航空が発達したおかげで、若者たちはスペインやギリシャ、クロアチアといった“本物のビーチ”へ安く行けるようになりました。
とはいえ、コロナ禍や燃料費の高騰などもあり、「やっぱり今年も国内で済まそうか」と考える人も多く、イギリスの海岸は毎年それなりににぎわっています。加えて、最近はビーチアートやSUP(スタンドアップパドル)なども流行し、アクティビティも少しずつ増えてきました。
7. イギリスのビーチ文化は“光合成の儀式”
イギリスの海水浴は、日本人の感覚でいえば「修行」あるいは「サバイバル」に近いかもしれません。ですが、彼らにとっては、それが夏のハイライトであり、**太陽の光を全身で感じるための“光合成の儀式”**なんです。
「風が冷たかろうが、海が濁っていようが、今この瞬間、太陽が出ているなら、それだけでビーチへ行く理由になる」
——そんな気概すら感じさせるイギリス人の夏の過ごし方。ぜひあなたも一度、体験してみてください。
おまけ:イギリスで人気のビーチスポット5選
- Brighton(ブライトン) – ロンドンから日帰りで行ける、学生とアーティストに人気の町。
- Bournemouth(ボーンマス) – 比較的砂浜が多く、ファミリー向け。
- Cornwall(コーンウォール) – サーファーの聖地。景観は絶品。
- Blackpool(ブラックプール) – 昔ながらのビーチリゾート。遊園地付き。
- Whitby(ウィットビー) – ゴシックな雰囲気と海の幸が魅力。
まとめ
イギリスのビーチは、日本のそれとはまったく違う世界です。砂浜ではなく石ころ、冷たい海、曇天の日光浴——それでも彼らは、夏になると喜々としてビーチへ向かいます。美しさではなく、「季節を楽しむ心」がそこにはあるのです。
あなたも次にイギリスを訪れる機会があれば、ぜひ「石だらけのビーチ」に足を運んでみてください。そこには、“天気の悪い国ならではの夏の幸せ”が広がっています。
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