Reform UK がもたらす「差別主義社会」の危険性

イギリスのReform UKの反移民デモを背景に、不安そうな表情で立つ東アジア系女性。抗議者たちは“NO IMMIGRANTS”“REFORM UK”と書かれたプラカードを掲げ、社会の排外的な雰囲気を象徴している。

日本人を含む移民にとってイギリスは居場所を失うのか

はじめに:揺らぐ「移民ウェルカム」の国イギリス

長らくイギリスは「移民を受け入れる国」として知られてきました。ロンドンを歩けば多様な文化と人種が入り混じり、アジア、アフリカ、ヨーロッパ大陸からの人々が共存してきた姿を目にすることができます。イギリスの大学や研究機関には世界中から学生や研究者が集まり、ビジネスや金融の世界でも多国籍な人材が重要な役割を果たしてきました。日本人も例外ではなく、留学、駐在、起業、あるいは結婚や永住といったかたちでイギリス社会に溶け込み、生活を築いてきました。

しかし今、その前提が大きく崩れようとしています。イギリスの極右政党「Reform UK(リフォームUK)」が急速に支持を集め、「移民はいらない」「国境を閉ざせ」といった過激なスローガンを掲げることで、社会の空気そのものを変えつつあるのです。

Reform UK がもし政権を握れば、単なるビザ制度の変更にとどまらず、社会全体が「排除の論理」に支配され、差別が事実上公認される社会へと傾いていく危険性があります。本稿では、その可能性を移民、とりわけ日本人を含むアジア系移民の視点から掘り下げて考えていきます。


Reform UK とは何か ―「Brexit Party」から生まれた極右政党

Reform UK は、2018年に設立された「Brexit Party」を前身としています。設立当初は、EU 離脱(Brexit)を推進することを唯一の目的としたワンイシュー政党でした。しかし EU 離脱が現実のものとなった後、党名を「Reform UK」と改め、政策領域を大きく広げました。

彼らの主張の柱は次の通りです。

  1. 移民の大幅削減、国境管理の強化
    • 「移民を凍結する」「不法入国を止める」と公然と訴えている。
    • 永住権(Indefinite Leave to Remain, ILR)の廃止も提案しており、これまで長年築いてきた生活基盤を奪う危険がある。
  2. 反エリート・反既存政治
    • 「腐敗したエリート政治家に代わり、国民の声を代表する」というポピュリズム的訴え。
  3. 公共サービスと福祉の縮小
    • 社会保障や給付を「英国市民のみに限定する」との主張を繰り返し、移民や外国人は排除対象とされる。
  4. ナショナル・アイデンティティの強調
    • 「イギリスの文化・伝統を守る」と称しながら、実質的には「白人中心社会」を理想化していると批判されている。

こうした主張は、経済的に困窮している層や、移民の存在を脅威と感じる人々に一定の共感を呼び起こしています。しかしその裏側には、移民を「問題の元凶」と見なし、彼らを排除することで「英国人のための英国」を取り戻そうとする差別的思想が透けて見えます。


「移民はいらない」への方向転換 ― 180度の変化

イギリスは長い歴史の中で移民を受け入れることで成り立ってきました。インド、パキスタン、カリブ諸国、アフリカからの移民は、戦後の復興や NHS(国民保健サービス)の支え手となり、社会に欠かせない存在でした。近年では EU 加盟国からの移民が労働市場を支えてきましたし、日本人もまた教育・研究・金融・製造業など幅広い分野で貢献してきました。

ところが Reform UK の登場によって、国の姿勢は「移民ウェルカム」から「移民排除」へと大きく転換しつつあります。これは単なる政策変更ではなく、社会の根本的な価値観の変化を意味します。

「移民はいらない」というメッセージは、法律の条文以上に社会的な雰囲気を変えます。政治家が公然とそうした言葉を口にすることで、街中で移民に冷たい視線や言葉が投げかけられることが増え、職場や学校での扱いにも影響します。


日本人を含む移民が直面する具体的リスク

1. 就職・労働市場からの排除

Reform UK が政権を握れば、移民が仕事に就くためのハードルは確実に上がるでしょう。高額な収入基準、英語能力の過剰な要求、スポンサー企業に課される制限などが導入されれば、雇用主はわざわざ移民を雇おうとしなくなります。

特に日本人駐在員や留学生が卒業後に現地で働こうとする場合、その道は極めて狭くなりかねません。「英国人優先」の論理の下、移民は二級市民のような扱いを受けることになります。

2. 社会生活における排除と孤立

学校、病院、地域コミュニティ――どこにいても「移民だから」という理由で不利益を被るリスクがあります。

  • 病院での診療に追加料金を課される
  • 公的住宅や福祉サービスの利用から排除される
  • コミュニティ活動から暗黙のうちに除外される

といった状況が現実化すれば、移民は社会の周縁に追いやられてしまいます。

3. 子どもたちへの影響 ― 学校でのいじめ

特に深刻なのは、移民家庭の子どもたちへの影響です。Reform UK のような排外的な言説が政治の中心に座ると、学校でのいじめに「お墨付き」が与えられてしまいます。

教師や学校が「移民の子を守るべき」という姿勢を後退させ、「仕方がない」と黙認する空気が広がれば、子どもたちは日常的に差別的言動にさらされることになります。日本人の子どもも例外ではなく、「アジア人だから」「外国人だから」という理由でいじめの標的にされやすくなるでしょう。

4. 人種差別が「公式に」容認される社会

最も恐ろしいのは、人種差別そのものが「容認される」社会になることです。政府や政治家が差別的政策を打ち出し、それを支持する国民が多数を占めると、社会全体の空気が変わります。

これまでなら「差別は恥ずべきもの」とされていた発言が、堂々と公共の場で口にされるようになる。人種や出身国を理由に差別的な扱いを受けても、「それは当然だ」と受け止められる。こうした社会の変質こそが、移民にとって最大の脅威です。


Reform UK 支持拡大の背景 ― なぜ差別が受け入れられるのか

Reform UK が台頭する背景には、いくつかの社会的要因があります。

  1. 経済的不安
    物価高、住宅不足、公共サービスの劣化といった不満を、移民のせいにすることで単純化する。
  2. 政治的不信
    保守党も労働党も期待を裏切った、という感情が「第三の選択肢」としてのReform UK に票を集める。
  3. メディアの影響
    「不法移民がボートで押し寄せている」といったセンセーショナルな報道が恐怖を煽り、排外的感情を強化する。
  4. アイデンティティ危機
    多文化社会の中で「英国人らしさ」が失われつつあるという不安を、「移民が多すぎるからだ」と結びつける。

こうした要因が重なり合うことで、移民排斥の声が力を持ち始めているのです。


日本人にとっての意味 ― 「見えない差別」から「露骨な差別」へ

これまで日本人は「模範的移民」として比較的歓迎されやすい立場にありました。経済的に自立している、治安上のリスクが少ない、文化的に「静かで礼儀正しい」と見られてきたからです。

しかし Reform UK が掲げる「移民排除」の論理の前では、そうしたイメージも無力化されます。「白人で英国文化に同化した人以外は排除すべき」という思想が強まれば、日本人もまた「外国人」として一括りにされ、差別の対象となります。

職場での昇進差別、地域社会での孤立、子どもへのいじめなど、これまで潜在的だった問題が一気に表面化する可能性があります。


今後の展望と私たちにできること

現労働党政権が続く限り、少なくとも 2029 年までは大規模な制度変更はないでしょう。しかし、Reform UK がさらに支持を伸ばし、次期政権を握る可能性が現実のものとなれば、移民社会にとって暗い未来が待ち受けているかもしれません。

私たちにできることは、以下のような取り組みです。

  1. 情報収集と共有
    政治的動きを正確に把握し、日本人コミュニティ内で共有する。
  2. 連帯と発信
    日本人だけでなく、他の移民コミュニティとも連帯し、「差別に反対する声」を上げる。
  3. 子どもの教育とケア
    学校での差別やいじめに備え、家庭でのサポート体制を強化する。
  4. 法的備え
    ビザや永住権、労働契約などについて法的知識を持ち、必要なら専門家に相談する。

おわりに:差別主義社会を防ぐために

Reform UK の台頭は、イギリス社会が「開かれた多文化社会」から「閉ざされた排外社会」へと変わる可能性を示しています。日本人を含む移民にとって、それは単なるビザの問題ではなく、生活のあらゆる面で「居場所を失う」という事態を意味します。

学校でのいじめ、職場での排除、地域社会での孤立――これらはすべて、人種差別が「公式に容認される」社会で現実化しうるものです。

だからこそ今、私たちは目を逸らさず、この動きを直視しなければなりません。そして、差別に抗う声を上げ続け、互いに支え合うことが求められています。

イギリスが再び「多様性を誇る国」として未来を切り拓けるのか、それとも「差別主義社会」へと転落するのか。その選択は、決してイギリス国民だけの問題ではなく、そこに暮らす移民一人ひとり、私たち日本人にとっても極めて切実な課題なのです。

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