
イギリスにおける自転車利用は、日本とは大きく異なる特徴を持つ。その中でも特に顕著なのが、法律によって歩道走行が禁止されている点だ。日本では歩道を走ることが容認されているため、歩行者と自転車が共存する形が一般的だが、イギリスでは自転車は原則として車道、もしくは専用の自転車レーンを利用することが求められている。この違いは、単に走行環境の違いにとどまらず、サイクリストの意識や態度にも大きな影響を与えているように思われる。
イギリスのサイクリストに見られる「車両意識」
車と同じ道路を走ることが義務づけられている影響なのか、イギリスの自転車利用者はしばしば自らを「車両の一部」と強く認識しているように見受けられる。この意識は、自転車の法的な位置づけとも密接に関係している。イギリスの法律では、自転車は「車両」として扱われ、道路交通法の適用を受ける。そのため、サイクリストたちは自身を一種の運転手と考え、それに伴う権利を強く主張する傾向がある。
こうした認識がもたらす影響の一つに、歩行者や他の交通手段に対する態度の変化が挙げられる。自らを「車両」と位置づけることで、サイクリストの中には歩行者や公共交通機関の利用者を見下すような態度を取る者も少なくない。特に、信号無視や一方通行の逆走を行っているにもかかわらず、車のドライバーが少しでも近づくと激しく抗議する光景がよく見られる。これは、サイクリストたちが「車両」としての権利を強調するあまり、他の交通手段に対する配慮を欠いてしまう結果ではないだろうか。
自転車専用レーンにおける「排他意識」
イギリスでは都市部を中心に自転車専用レーンが整備されており、特定のエリアでは比較的快適に走行できる環境が整っている。しかし、この専用レーンに対するサイクリストの意識にも問題がある場合がある。多くのサイクリストは、自転車専用レーンを「自分たちだけのもの」と考えており、歩行者が誤って足を踏み入れると強い反応を示すことがある。
例えば、専用レーンを横切ろうとする歩行者に対して舌打ちをしたり、大声で怒鳴ったりするサイクリストがいる。また、ベビーカーを押した親や高齢者が少しでも専用レーンに入ると、威圧的な態度を取ることもある。このような態度は、専用レーンを「神聖な領域」と見なすような心理の表れとも言えるだろう。
もちろん、専用レーンはサイクリストの安全を確保するために設けられているが、それが「排他的な空間」として扱われるのは本来の趣旨とは異なるはずだ。歩行者との共存を前提とした設計が必要であり、サイクリストにも一定の譲歩が求められる場面があるだろう。
「ロードバイク至上主義」の台頭
都市部では、特にロードバイクを好んで使用するサイクリストの間で「ロードバイク至上主義」とも言える風潮が見られる。彼らはスポーツウェアに身を包み、さながらツール・ド・フランスの選手のように街中を疾走している。彼らにとって自転車は単なる移動手段ではなく、一種のライフスタイルやアイデンティティの一部となっている。
このようなサイクリストの特徴の一つは、スピードを最優先する姿勢だ。彼らは自らの走行ペースを乱されることを極端に嫌い、交通の流れや歩行者に対する配慮が不足しがちである。信号を無視してでも自分のリズムを守ろうとする者も多く、その結果として「自転車乗り=マナーが悪い」という印象が生まれてしまう。
さらに、ロードバイクの利用者同士の間でも「速さ」や「技術」を競い合う傾向が強く、一般のサイクリストとの間に溝が生じることがある。これにより、よりカジュアルに自転車を利用したい人々が疎外されるという問題も指摘されている。
ルールを守るサイクリストも多いが…
もちろん、すべてのサイクリストがこうした問題を抱えているわけではない。ルールを遵守し、礼儀正しく走行するサイクリストも多く存在する。しかし、車道を走る義務があるという環境が、彼らの意識にある種の「選民意識」を芽生えさせていることは否定できない。
この選民意識は、しばしば「自転車利用=環境に優しい」「自動車よりも優れた移動手段」といった考え方と結びつくことがある。環境保護の観点から自転車を奨励すること自体は望ましいが、それが他の交通手段を軽視する態度につながると問題が生じる。
改善の余地と今後の方向性
イギリスにおける自転車利用の現状を考えると、いくつかの改善点が浮かび上がる。
- 自転車教育の強化 サイクリスト向けの交通ルール講習や安全教育を強化し、歩行者や他の交通手段との共存を意識させる取り組みが必要である。
- インフラの整備 自転車専用レーンの拡充とともに、歩行者との共存を考慮した設計を進めることで、不要な対立を減らすことができる。
- マナー向上キャンペーンの実施 自転車利用者に対するマナー向上キャンペーンを行い、歩行者やドライバーとの相互理解を促進する。
- 交通ルールの厳格化 信号無視や逆走といった違反行為に対する取り締まりを強化し、適切なルール遵守を促す。
こうした改善を通じて、自転車が単なる移動手段としてだけでなく、より持続可能で調和の取れた交通手段として機能する社会が実現できるのではないだろうか。
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