日本では、怪談話や怖い話が「夏の風物詩」として涼をとる文化がありますが、イギリスでは少し趣向が違います。彼らは寒さと共にじわじわと背筋が凍るような恐怖を楽しむため、夜が長くなる「冬の風物詩」として怖い話を語るのが一般的です。
そんなイギリスを代表する怖い話といえば、やはり「切り裂きジャック」。これからその物語にご案内しますが、どうぞ振り返らないでください。もしかしたら、彼がまだそこにいるかもしれませんからね…
「切り裂きジャック」(Jack the Ripper)は、ヴィクトリア朝時代のイギリスで実際に起きた連続殺人事件に関連する都市伝説で、いまだに解決されていないミステリーです。この話は、イギリスで特に冬の長い夜に語り継がれる怖い話の一つとして知られています。
切り裂きジャックの事件背景
切り裂きジャックが活躍したのは1888年のロンドン、特にイーストエンドのホワイトチャペル地区です。この地域は当時、貧困や犯罪が蔓延しており、多くの労働者や移民が住んでいました。事件は、そこで働いていた貧しい女性たち(主に娼婦)が次々と残忍に殺害されたことから始まります。
切り裂きジャックの特徴は、殺人の手口の残酷さにありました。被害者はナイフで切り裂かれ、一部の内臓が取り除かれていることもありました。このことから、犯人が医学的な知識を持っていたのではないかという推測もなされました。
被害者と手口
公式には5人の被害者が「切り裂きジャック」の犯行とされています。この5人は「カノニカル・ファイブ(Canonical Five)」と呼ばれ、全員が深夜から明け方にかけて殺害されました。主な被害者は以下の通りです:
- メアリー・アン・ニコルズ(Mary Ann Nichols)
- 1888年8月31日、ホワイトチャペルで発見。
- 喉が切られ、腹部が裂かれていました。
- アニー・チャップマン(Annie Chapman)
- 1888年9月8日、ハンベリー通りで発見。
- 喉を切られたうえで内臓が取り出されていました。
- エリザベス・ストライド(Elizabeth Stride)
- 1888年9月30日、ダッツフィールドの裏庭で発見。
- 喉を切られていましたが、他の被害者ほど傷が深くなかったため、犯人が途中で何かに邪魔された可能性があります。
- キャサリン・エドウズ(Catherine Eddowes)
- 同じく9月30日、ミトレス・スクエアで発見。
- 顔や腹部がひどく切り裂かれており、内臓が一部持ち去られていました。
- メアリー・ジェーン・ケリー(Mary Jane Kelly)
- 1888年11月9日、ミラーズ・コートの部屋で発見。
- 他の被害者よりもさらに残虐に殺害されており、部屋の中は血だらけでした。
犯人像と捜査
警察は何百人もの容疑者を取り調べましたが、犯人を特定することはできませんでした。犯行現場に残された手がかりは少なく、当時の科学技術では指紋やDNA鑑定も不可能でした。
「切り裂きジャック」という名前は、犯人を名乗る人物から警察に送られた手紙から来ています。この手紙は赤いインクで書かれ、挑発的な内容でしたが、真偽は不明です。さらに、「地獄からの手紙(From Hell Letter)」と呼ばれる別の手紙には、人間の腎臓の一部が同封されていました。
都市伝説と現代の解釈
切り裂きジャックの正体については、現代に至るまで多くの説が提唱されています。有力な容疑者には以下のような人物が挙げられます:
- 医師や解剖学の知識を持つ人物
- 地元の労働者や商人
- 貴族や政治家
また、女性が犯人だったという説や、複数犯による犯行説も存在します。この事件を題材にした小説や映画、ドラマは数多く、現代のポップカルチャーでも広く知られる存在です。
冬の怪談としての魅力
イギリスでは、暗く長い冬の夜にこうした怪談を語り合うことで、寒さを忘れたり、家族や友人との絆を深めたりする文化があります。切り裂きジャックの話はその中でも特に人気があり、ミステリーやホラーが好きな人々にとっては心を掴む題材です。
現代のロンドンでは、ホワイトチャペル地区で「切り裂きジャックツアー」が開催され、事件現場や関連する場所を巡る体験ができます。興味を持った方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
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