AIの普及は、イギリス企業の人の雇い方を変え始めている。通信、銀行、オンライン小売の分野では、AIや自動化を活用し、これまでより少ない人数で業務を回す方針が示されている。
一方で、人員削減を進めながら、別の職種では採用を続ける企業もある。防衛や製造、事業を拡大する金融サービスでは、新たな雇用も計画されている。
今、英国で何が起きているのか。企業名と具体的な数字から見ていきたい。
AIとの関係が公表資料や報道で確認できる代表例は、次のとおりだ。数字は発表された削減規模であり、全員が既に解雇された人数を示すものではない。
| 企業・発表時期 | 発表された削減規模 | AIとの関係・対象範囲 |
|---|---|---|
| BT:2023年5月 | 2030年度までに4万〜5万5,000人 | 外部委託要員を含むグループ全体の計画。そのうち約1万人分がAI・自動化などに関連すると当時説明。newsroom.bt.com |
| Standard Chartered:2026年5月 | 2030年までに間接部門を15%超削減。報道の人数換算で約8,000人規模 | AI・自動化を推進。海外拠点を含む計画で、英国国内だけの削減数ではない。sc.com |
| Ocado:2025年2月 | 約500人規模 | AIによる研究開発の生産性向上などを背景にした削減として報じられた。thetimes.co.uk |
| Ocado:2026年2月 | さらに約1,000人。世界の従業員数の5%未満 | 約3分の2が英国。技術・支援部門のコスト削減策で、この1,000人すべてをAIによる代替とは数えられない。reuters.com |
BTの数字は特に大きい。しかし、最大5万5,000人の削減全体を「AIに仕事を奪われる人数」とするのは正確ではない。
光ファイバー網の建設が一段落することや、通信設備の保守負担の変化、組織の簡素化も含む計画だからだ。約1万人という数字も、生成AIだけでなく、自動化などを含めた説明だった。investing.com
Standard Charteredでは、AIと人員削減の関係がより明確に示されている。2026年5月の投資家向け資料は、AIによる業務改革とともに、2030年までに間接部門の人員を15%超減らす目標を掲げた。
ただし、これはロンドンの銀行員約8,000人を削減するという話ではない。英国に本社を置く銀行の、世界各地の拠点を含む計画である。sc.com
Ocadoの事例からは、技術を開発する仕事も変化の対象になることが分かる。ただし、2026年の削減には、北米の提携先による自動倉庫の閉鎖や事業再編という背景もある。AIによる効率化と、事業上の厳しさを切り分ける必要がある。thetimes.co.uk
こうした数字を単純に足して「英国でAIによって何万人が失業した」とすることはできない。対象国も、実施期間も、削減の理由も異なっている。
では、人員削減を発表した企業は、今後もう新しい人を雇わないのだろうか。
BTの発表を見る限り、採用がなくなるわけではない。
同社の法人向け部門BT Businessは、2026年の採用で初めてAIに特化した見習い・大学卒業者向けの職種を設けると発表している。既存社員向けのAI・データ分野の研修も進めている。人員を減らす方針と、新しい専門人材の採用・育成が同時に存在しているのだ。newsroom.bt.com
ここから読み取れるのは、企業が必要とする人材の構成を変えようとしているということだ。従来の業務を担当する人数を抑える一方、AIを導入し、運用し、成果や問題を確認できる人材を確保する。会社全体の人数が減っても、特定の分野では採用が続く可能性がある。
また、AIの影響は解雇の発表だけに表れるとは限らない。
例えば、10人で担当していた仕事をAIの支援で8人が処理できるようになれば、退職した2人を補充しないという選択もあり得る。これは仕組みを説明する仮の例だが、求職者にとっては、応募できる新しい席が減ることも重要になる。
現時点で、すべての企業がAIを使って人を減らしているわけでもない。
英国国家統計局ONSの2026年10月8日公表の調査では、従業員10人以上でAIを利用する企業のうち、AIによって人員が減ったと回答した割合は6%、増えたとした割合は1%未満だった。これは企業数ベースの自己申告で、金融・保険など一部業種を含まない。英国全体の失業者数や、将来の削減規模を表す数字ではない。Office for National Statistics
一方、英国で新規雇用やまとまった採用計画を公表している企業には、次のような例がある。英国企業に加え、英国で事業を拡大する外資系企業も含めた。
| 企業 | 英国での採用・雇用創出の規模 | 時期・数字の意味 |
|---|---|---|
| BAE Systems | 見習い1,100人超、大学卒業者・在学生約1,200人 | 2026年末までの採用目標。合計約2,300人規模で、従業員数の純増とは異なる。Half Yearly Report |
| Rolls-Royce Submarines | ダービーの拠点拡張に伴い1,170人分の熟練職を創出する計画 | 2026年7月に工事の進展を公表。計画全体の数字で、2026年だけの採用数ではない。Rolls-Royce |
| Revolut | 英国で1,000人超の新規雇用を計画 | 2025年9月発表の5年間の投資計画。2026年3月にも英国での雇用創出方針を説明。Revolut United Kingdom |
| Lidl GB | 英国内で約2,000人の新規雇用を見込む | 2026年4月から12か月間で50店超を開く計画に伴う。ドイツ系企業の英国事業。Lidl Great Britain |
ここで、採用人数と従業員数の純増は区別したい。2,000人を採用しても、同じ期間に2,000人が退職すれば、会社全体の人数は増えない。また、数年かけた雇用創出計画は、その人数の求人が今日すべて出ていることを意味しない。
実際に人員を増やした企業も確認できる。
BAE Systemsは2025年にグループ全体の人員が4%増えたと報告している。Revolutのグループ従業員数も、2024年末の1万133人から2025年末には1万2,200人へ増加した。2,067人、約20%の増員だ。いずれも世界全体の数字で、英国だけの増員実績ではない。baesystems.com
採用が続く背景には、それぞれの企業が抱える事業の違いがある。
BAE Systemsでは、潜水艦や艦艇、航空・サイバー関連などの事業を支える人材育成が進む。同社は若手の採用計画に加え、熟練職についても大規模な募集方針を示している。製造や技術の仕事を、若い人が学びながら身につける入口が設けられている。baesystems.com
Rolls-Royce Submarinesの増員計画は、英国とオーストラリアの潜水艦計画に対応する製造能力の拡張に結びついている。必要なのは製造やエンジニアリングなどの人材だ。設備と生産能力を増やすために、実際に働く人の確保が求められている。Rolls-Royce
Revolutは、金融業界の中でも事業拡大に伴う雇用創出を計画する例である。2026年3月の英国銀行事業の開始に際しても、英国への投資と新たな雇用に言及した。同じ金融業界でも、既存組織を効率化する企業と、サービスや市場を広げる企業では、人の需要が異なる。Revolut United Kingdom
Lidl GBでは、店舗網の拡大が雇用創出につながる。英国の雇用を考える際には、AI企業だけでなく、店舗や工場など実際の事業拠点を増やす企業にも目を向ける必要がある。Lidl Great Britain
これらの発表から見えるのは、仕事が減る分野と、人を必要とする分野が同時に存在する英国の姿だ。
ただし、事務職を離れた人が、そのまま原子力設備の製造や潜水艦の設計に移れるわけではない。勤務地、経験、資格、給与が合わなければ、別の企業で何千人分の雇用が生まれても、失業した本人の次の仕事にはつながらない。
企業の採用が続くことは希望になる。その機会に移れる人を増やすための訓練や、経験の浅い人が仕事を覚える入口をどう確保するかが問われる。AIによって少ない人数で成果を出せるようになるほど、生まれた利益と新しい機会を、働く人の生活にもつなげられるかが重要になる。








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