イギリスのラップはなぜ使いにくい?「これで十分」と「もっと便利に」の違い

食べ物にかぶせたいだけなのに、まずラップの端を探すところから始まる。引っ張ると途中で細くなり、切ろうとすると伸びる。ようやく切れても、今度はラップ同士がくっついて、肝心のお皿にはうまく密着しない。

日本のラップに慣れた人がイギリスの商品を使うと、「どうして、この使いにくさが残っているのか」と言いたくなる場面がある。食品を保存する前に、ラップと格闘する。毎日のことなら、小さな不便では済まない。

その背景を考えるうえで気になるのが、消費者がラップにどこまでの使いやすさを求めているか、という問題だ。

なお、「サランラップ」は旭化成ホームプロダクツの商品名であり、イギリスで一般に売られる食品用ラップは英語で「cling film」と呼ばれる。ここでは、食品用ラップ全般を「ラップ」と表記する。

日本で、ご飯を一食分ずつ包んで冷凍し、残ったおかずの器にかぶせ、使いかけの野菜を包む生活をしてきた人にとって、ラップは頻繁に手に取る道具だ。一度で切れること、端がすぐ見つかること、扱いやすいことは、毎日の家事に直結する。

実際、旭化成はサランラップの特徴として、フィルムのハリや密着性だけでなく、M字型の刃による切りやすさ、フィルムをつまみやすくするフラップ、巻き戻りを防ぐ加工まで説明している。使うときの細かな不便そのものが、商品の競争力として扱われている。asahi-kasei.co.jp

ただし、ラップの使い心地を国の違いだけで説明することはできない。素材にも違いがある。サランラップはポリ塩化ビニリデン製だが、英国のBacofoilは、ポリ塩化ビニル製とポリエチレン製の商品を扱っていると説明している。同じラップという名前でも、同じ素材・同じ設計の製品を比べているとは限らない。asahi-kasei.co.jp

そして、「イギリス人はラップを使わないから、誰も文句を言わない」と言い切ると、実態を取りこぼしてしまう。

英国の生活掲示板Mumsnetには、ラップがうまく密着しない、まっすぐ切れないという不満や、使いやすいブランドを探す投稿がある。一方で、保存容器やシリコーン製のふたに切り替えたという投稿もある。少なくとも、不満を感じる利用者と、ラップ以外の保存方法を選ぶ利用者の両方がいる。ただし、掲示板の投稿だけで英国全体の習慣までは判断できない。Mumsnet

ここから考えられるのは、ラップの使い心地が、暮らしの中でどれだけ重要な問題になるかは人によって違うということだ。

毎日何度も食品を包む人にとって、切りにくさは繰り返し発生するストレスになる。反対に、普段はふた付きの保存容器を使い、ラップはたまに取り出すだけなら、ラップの性能は買い物の優先順位で上位に来ないかもしれない。

企業の側も、使いやすさの向上が売上や買い替えにつながると見込めれば、改良を進める理由が強くなる。消費者が多少の使いにくさを受け入れ、価格や巻きの長さを重視して選び続ける市場なら、細かな使い勝手の改良が後回しになる可能性はある。

「高品質への需要が弱いから、使いにくい商品が残る」という見方には、こうした市場の仕組みとして考える余地がある。ただし、日英のラップ使用頻度や、使いやすさに追加料金を払う意思を直接比較するデータは、今回確認できなかった。英国の消費者全体についての結論として扱うには、裏付けが必要だ。

また、「商品改良を一切していない」という表現も正確ではない。Bacofoilは、曲線形の刃やフィルムの端を見つけやすくする仕組みを備えた商品を販売している。英国にも、切りやすさや扱いやすさを売りにする商品はある。Bacofoil to Your Door

それでも、使う側が求めたいことは単純だ。食品を包むための道具なら、引き出して、切って、かぶせる。その一連の動作を気持ちよく済ませたい。毎回コツを要求されたり、途中で無駄なフィルムが出たりすれば、「もう少し何とかならないのか」と感じるのは当然だろう。

商品の便利さは、消費者がどこで「これで十分」と納得するかによっても変わる。使いにくさへの不満が、別の商品を選ぶ行動や、改良された商品への支持につながれば、企業に届く要求も変わっていく。

食べ物を保存するために、まずラップを使える状態に整える。そんな余計な手間まで、日常の当たり前にする必要はない。

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