
イギリスは長い歴史を持つ多民族国家であり、かつての大英帝国としての影響力からも、世界中からさまざまな民族が移住してきました。ロンドンをはじめとする大都市では、文化的多様性が日常の風景となっており、それに伴い社会構造や権力の分配も複雑化しています。では、現代イギリスにおいて「イギリス人(主に白人のイングランド系住民)」に次ぐ権力を持つ民族グループとは誰なのでしょうか?
この問いに答えるためには、まず「権力」という言葉を明確に定義する必要があります。本記事では、以下の3つの側面から「権力」を検討し、イギリスにおける各民族グループの影響力を多角的に分析します。
- 政治的影響力
- 経済的影響力
- 文化・社会的影響力
1. 政治的影響力:南アジア系(特にインド系)イギリス人の台頭
イギリスの政治における多様化は、近年特に顕著です。なかでも南アジア系、特にインド系イギリス人の政治的台頭は目を見張るものがあります。現職の首相リシ・スナク氏はインド系イギリス人であり、これはイギリス史上初の出来事です。
注目の政治家たち
- リシ・スナク:イギリス初のインド系首相。保守党のリーダーとして、経済政策や対外関係に大きな影響を与えている。
- プレティ・パテル:元内務大臣であり、厳格な移民政策と保守的価値観を前面に出した発言で知られる。
- サジド・ジャヴィド:パキスタン系の政治家で、財務大臣や保健大臣などを歴任。経済政策と福祉分野に関する影響力が強い。
背景と理由
これらの政治家たちは、移民第1世代や第2世代として、教育や社会参加に熱心な家庭に育ちました。オックスフォード大学やロンドン・スクール・オブ・エコノミクスなど、名門大学で教育を受けた人材が多く、政界での台頭は「努力」と「能力」によって裏付けられたものであるといえます。
また、保守党が彼らを積極的に登用してきた背景には、「多様性」を強調しつつも、伝統的な価値観や経済的成功を支持する有権者層へのアピールという戦略も見え隠れします。
2. 経済的影響力:インド系と中国系の二大勢力
経済的な観点では、インド系と中国系、いわゆる「華僑」グループが大きな影響力を持っています。とりわけロンドンの金融街シティでは、彼らの存在感は日々増しています。
インド系ビジネスエリート
- ヒンドゥージャ・グループ:多国籍企業を所有し、自動車産業、銀行業、不動産など多岐にわたる事業を展開。イギリス経済への貢献は計り知れません。
- 多くのインド系企業家がテクノロジー、医薬品、物流、不動産開発などの分野で成功を収め、中流階級から上流階級へとステータスを高めています。
中国系の進出
- 中国本土からの直接投資も年々増加し、不動産、教育、観光など多岐にわたっています。
- 英国内で生まれ育った中国系イギリス人も、起業や専門職を通じて社会的地位を確立しつつあります。
移民第二世代・第三世代の特徴
これらの経済的成功には、教育水準の高さ、起業家精神、家庭内での教育への重視といった文化的背景が大きく影響しています。とくに移民第2・3世代は、伝統を重んじつつもイギリス社会に溶け込み、経済活動の中核を担いつつあります。
3. 文化・メディア・エンタメ:黒人系と南アジア系の文化的貢献
文化・メディア分野では、カリブ系、アフリカ系、南アジア系の影響力が顕著です。とりわけ音楽とテレビにおける多様性は、イギリス社会の変化を象徴しています。
音楽分野
- グライム、UKラップなどのジャンルは、黒人系アーティストが創出・リードしています。例としてストームジーやスケプタなどが挙げられます。
- 南アジア系アーティストも、Bhangra(バングラ)やフュージョン音楽などでシーンに影響を与えています。
映画・テレビ・出版
- 多様なキャストや脚本家の登場によって、移民の視点から描かれる作品が増加。
- 黒人系や南アジア系の作家が、英文学・詩・エッセイなどの分野で高い評価を受けています。
- BBCやChannel 4などの公共放送も、マイノリティの登用を積極的に進めています。
スポーツにおける多様性
- プレミアリーグなどのスポーツ界でも、黒人系や南アジア系選手の活躍が目立ち、社会的ロールモデルとして若者に影響を与えています。
4. 地域による違いと多様性の今後
興味深いのは、イギリス国内における地域差です。たとえば、ロンドンやバーミンガム、マンチェスターなどの大都市では、非白人系住民の割合が非常に高く、多文化的な共生が現実のものとなっています。一方、地方都市や農村部では、依然として白人中心の社会構造が色濃く残っている場合もあります。
また、ブレグジット(EU離脱)以降、移民政策の変化によって労働力や移住の流れも変化しています。これに伴い、今後どの民族グループが権力を持つかという構図にも変動が生じる可能性があります。
結論:南アジア系(特にインド系)が次なる権力層
以上の分析を総合すると、現在のイギリス社会において「イギリス人に次ぐ権力を持つ民族」は、**南アジア系(特にインド系)**であると言えるでしょう。
彼らは政治、経済、文化の各分野でバランスよく影響力を発揮しており、中産階級から上流階級への社会的移動も実現しています。その背景には、教育への投資、家族単位での協力体制、宗教的・倫理的な価値観、そしてイギリス社会との柔軟な共存があるといえます。
ただし、イギリスは依然として階級社会であり、人種や出自に基づくバイアスも根強く存在します。今後の動向としては、アフリカ系や東欧系、中東系の台頭も注目されるでしょう。多民族国家としてのイギリスは、権力構造をさらにダイナミックに変化させ続けるに違いありません。
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