イギリスの肉屋 vs スーパー:本当にブッチャーの肉は“価値”があるのか?

ロンドンの街角、レンガ造りの店構えに「Butcher(肉屋)」の文字。ショーウィンドウには吊るされたラムレッグ、分厚いステーキカット、手作りのソーセージ。中に入ると、白衣を着た職人がカウンター越しに「今日は何が欲しい?」と笑顔で迎えてくれる。そんなシーンに一度は憧れるものの、筆者が思うのはこうだ。

「でも、スーパーの肉とそんなに違うの?」

日本からイギリスに移住して以来、筆者は何度となくブッチャー(肉屋)で肉を買ってみた。しかし、正直に言ってしまえば、味も値段も「これだけ違うのか!」と驚くほどではなかった。むしろ、近所のウェイトローズ(Waitrose)の肉の方が手頃で美味しいという印象すらある。

本記事では、そんな筆者の実体験をベースに、イギリスにおける「肉屋 vs スーパー」という永遠のテーマについて、味、価格、価値、そして日本人としての視点から掘り下げてみたい。


イギリスのブッチャー、価格は「高級品」?

まず何より気になるのは価格である。イギリスの街中にある個人経営のブッチャーで肉を買うと、一般的に以下のような価格帯となっている。

部位ブッチャー(£)スーパー(£)
ランプステーキ(500g)£10〜12£6〜8
鶏もも肉(500g)£4〜5£2.5〜3.5
ラムチョップ(4本)£10〜13£6〜9

ブッチャーの肉は、明らかにスーパーよりも1.3〜1.8倍ほど高い。特にステーキやラムといった赤身の部位は高騰傾向にある。

なぜそんなに高いのか? 理由は主に以下の3点。

  1. サプライチェーンが短い(農場直送が多い)
  2. 個別の手作業(カスタムカット)
  3. 小規模生産・販売でコストが高い

しかし、価格が高いからといって必ずしも味が劇的に違うわけではない。これは実際に買って食べてみないとわからないことである。


「味」の違いは明確か?──正直、ドングリの背比べ

筆者はステーキ好きで、これまでに十数店舗のブッチャーから肉を買い、同じ部位をスーパーのものと比較調理してきた。その結論はというと、

「違いは感じるが、驚くほどではない。むしろ保存状態で劣ることもある」

たとえば、ウェイトローズの「Dry Aged Ribeye」はしっかり熟成香がして肉の旨みも深い。一方で、とあるブッチャーのリブアイは確かに柔らかいものの、冷蔵管理が甘く少しドリップが多いこともあった。

鶏肉に至っては、スーパーの方が明らかに処理がきれいで清潔感があるケースも。特に日本人にとって、鶏の皮に毛が残っていたり、内臓の痕が雑に処理されていると気になる

要するに、味の違いはあれど「劇的な差」ではなく、むしろ個体差や管理状態の方が味に影響を与えるというのが筆者の正直な所感である。


ブッチャーの「価値」とは何か?

では、なぜいまだにブッチャーが支持されているのか。その答えは、「肉の質」だけではない。以下のような非物質的価値が支持される理由だと考えられる。

  • 対話によるオーダーメイド性:「ステーキ用に2インチ厚で」「脂身を多めに」などカスタム可能
  • 地元への信頼感:「この肉はケント州の牧場から来ているよ」と透明性がある
  • 食文化とのつながり:家族経営の肉屋が地域の料理文化を支えてきた歴史がある

つまり、ブッチャーの肉は「商品」というより「サービスの一部」として売られているのだ。料理好きな人、自分でミンス(ひき肉)を作る人、特別な日のために熟成肉を買いたい人にとっては、確かにその価値はある。


日本人から見ると「スーパーで十分」な理由

一方、日本での生活に慣れていた筆者にとって、イギリスのブッチャーはどこか「過剰」に思える。

  • 日本のスーパーは精肉のカットが非常に丁寧で、下処理も行き届いている。
  • 品質も均一で、「外れ」が少ない。
  • なにより価格と鮮度のバランスが良い。

つまり、日本人の感覚で言えば、イギリスのスーパーの肉(特にウェイトローズ)は「肉屋クラス」に近いレベルなのだ。

筆者自身、数あるスーパーの中でもWaitrose(ウェイトローズ)の精肉コーナーを信頼している。他のスーパー(テスコ、セインズベリー、モリソンズなど)と比べても、

  • 熟成肉のラインナップが豊富
  • オーガニックやFree Rangeの選択肢が多い
  • 冷蔵状態や包装がしっかりしている

という理由から、「ブッチャーで買うより安心できる」とすら感じるのである。


結論:価値観によって「どちらが良いか」は変わる

総じて言えることは、イギリスの肉屋(ブッチャー)は高価格でこだわりのある層に向いているということ。料理にこだわりがあり、肉の背景やストーリーまで味わいたい人にはおすすめできる。

一方で、筆者のように

  • 衛生面を重視する
  • 調理は家庭でシンプルに済ませる
  • コストパフォーマンスを気にする

というスタイルであれば、ウェイトローズをはじめとしたスーパーで十分満足できる肉が手に入る

特に日本人の舌や清潔感の感覚を持つ人にとっては、「スーパーの肉 vs ブッチャーの肉」はドングリの背比べに映ることもあるだろう。


おわりに──“贅沢”をどう楽しむか

料理とは日々の糧であると同時に、時に「ちょっとした贅沢」でもある。そう考えると、たまにはブッチャーで高級なラムを買ってみるのも楽しいし、逆にウェイトローズのセール品で上質なステーキを焼いてみるのも、ちょっとした幸福である。

選択肢が広がる現代において、「どこで買うか」ではなく「どう楽しむか」が重要なのかもしれない。


※本記事は筆者の個人的な体験と主観に基づいて書かれたものであり、すべてのブッチャーやスーパーの品質を代表するものではありません。

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