イギリスのクーリングオフ制度とその適用除外・契約の問題と失敗例

はじめに

商品やサービスを購入した際、「やっぱりやめておけばよかった」と後悔することがあります。日本ではこのようなケースに備え、「クーリングオフ制度」が導入されており、特定の条件下では消費者が契約を無条件で解除できる仕組みが存在します。一方、イギリスにも同様の制度が存在するのでしょうか?

本記事では、イギリスにおけるクーリングオフ制度の概要と法的根拠、制度が適用されない商品やサービス、契約上のトラブルや典型的な失敗例、そして注意点などを詳しく解説します。


1. イギリスにおけるクーリングオフ制度の概要

イギリスにおける「クーリングオフ制度」は、正式には “Right to Cancel”(キャンセル権)と呼ばれ、消費者保護の観点から重要な位置づけがされています。これは主に 「遠隔販売契約」や「訪問販売契約」 に対して適用されます。

1.1 関連法規

この制度の法的根拠は主に以下の法律にあります:

  • Consumer Contracts (Information, Cancellation and Additional Charges) Regulations 2013
  • Consumer Rights Act 2015

これらはEU指令(特にDirective 2011/83/EU on Consumer Rights)をもとに制定され、イギリスのEU離脱後も一定程度引き継がれています。

1.2 クーリングオフの期間

原則として、消費者は商品を受け取った日から 14日間、またはサービス契約を締結した日から14日間以内にキャンセルする権利を有します。この期間内であれば理由を問わず契約を解除することができます。


2. クーリングオフが適用されない主な商品・サービス

ただし、すべての取引がクーリングオフの対象になるわけではありません。以下のような商品やサービスは適用除外となります。

2.1 適用除外となる代表的なケース

  1. カスタマイズされた商品
    • 消費者の指定に従って作られた商品(例:名入れグッズ、オーダーメイド家具など)
  2. 開封済みの衛生用品・医薬品
    • 開封された化粧品、医療用マスク、コンタクトレンズなど
  3. 迅速に提供されたデジタルコンテンツ
    • ダウンロードやストリーミングが即時に開始された場合(ただし、開始前に同意が必要)
  4. 賞味期限が短い食品や花
    • 生鮮食品、切り花、調理済み商品など
  5. 宿泊・交通・イベント関連の予約サービス
    • ホテル、フライト、コンサート、スポーツイベントのチケット等
  6. 緊急対応サービス
    • 水漏れや鍵の開錠など、即時対応が求められるサービス

2.2 注意点

  • 通常店舗での対面購入にはクーリングオフ権は適用されません(販売者が独自に返品ポリシーを設けていることはある)。
  • クーリングオフ期間内であっても、商品を損傷させた場合は返金を拒否される可能性があります。

3. 契約に関する一般的な問題とその背景

イギリスでは消費者の権利は法的に強く保護されていますが、それでも契約トラブルは発生します。以下は代表的な問題点です。

3.1 情報の不提供または不十分な説明

事業者が契約前に提供すべき情報(価格、契約期間、キャンセルポリシーなど)を適切に提示していないケースがあります。これは Consumer Contracts Regulations に違反する可能性があります。

3.2 不当条項の存在

一方的に事業者に有利な契約条項(例:一方的なキャンセル料、事業者の責任免除など)は Consumer Rights Act 2015 に基づき無効とされる可能性があります。

3.3 言語や理解の問題

非英語話者や高齢者にとって、複雑な契約文書を理解しきれないまま署名してしまうリスクがあります。このような場合、後で「誤解に基づく契約」として争われることがあります。


4. 契約の失敗例:実際のトラブル事例から学ぶ

ここでは実際に起こった失敗例を紹介し、消費者が何に注意すべきかを考察します。

4.1 オンライン英会話サービスでの長期契約

ケース内容:

ある学生がSNSで広告を見たオンライン英会話サービスに興味を持ち、無料体験後に12ヶ月契約を締結。キャンセルについて十分な説明がされないままクレジットカードから一括引き落としされ、数日後に解約を希望したが拒否された。

問題点:

  • クーリングオフに関する情報の不提示
  • 契約内容の不透明さ
  • 消費者の立場では返金交渉が困難

対処:

  • Citizen’s Advice Bureau や Trading Standards に相談
  • 契約書に記載された情報提供義務違反を主張し、一部返金に成功

4.2 フィットネスクラブの年会費トラブル

ケース内容:

フィットネスクラブに一度訪れただけで契約。解約を申し出たところ、「14日を過ぎているから無理」と言われ、年間契約を強制された。

法的観点:

  • クラブの施設での契約であったため、原則としてクーリングオフの対象外
  • ただし、強引な勧誘があった場合、「ミスリーディングな営業」に該当する可能性がある(Consumer Protection from Unfair Trading Regulations 2008)

5. 消費者ができる対策と相談先

5.1 契約前に確認すべき事項

  • 契約の内容(期間、料金、解約条件)
  • クーリングオフの可否と期間
  • 販売者の信頼性(レビュー、登録情報など)

5.2 問題が発生したときの相談先

  1. Citizens Advice Bureau(CAB)
    • 無料で法的助言を提供
  2. Trading Standards
    • 不当取引があった場合の対応機関
  3. Financial Ombudsman Service
    • 金融関連のトラブルに対応

6. まとめ

イギリスにもクーリングオフに相当する制度は存在し、特に遠隔販売や訪問販売において消費者は契約から14日以内であれば無条件でキャンセルする権利を持ちます。しかし、すべての商品やサービスが対象になるわけではなく、例外が多く存在します。

契約トラブルを防ぐには、契約前の情報収集と理解が重要です。法律は消費者を保護するために存在しますが、それを活かすには消費者側にも一定の知識と注意が求められます。

イギリスに滞在する日本人にとっても、消費者契約に関する英法の基本を理解することは生活を安心・安全に送る上で大いに役立ちます。常に契約内容を確認し、不明点があれば遠慮なく相談することが肝要です。


参考文献:

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