イギリスのスーパーマーケットに潜む「割引表示の罠」― 消費者心理を突いた巧妙な価格戦略の実態 ―

イギリスで日常的にスーパーマーケットを利用していると、「なんとなく違和感を覚える買い物体験」が少しずつ蓄積されていく。その違和感の正体を突き詰めていくと、ある一つの構造的な問題に行き着く——表示された割引が実際には適用されていないことが異様に多いという現象だ。

「2つで£4」「今だけ£1引き」「会員限定価格」などの目を引くプロモーションが店内の至る所に貼られている。これらの表示は、確かに購買意欲をかき立てる。実際、そうした表示を見て「お得だ」と思い、商品をカゴに入れた経験のある人は多いはずだ。

しかし、いざレジで支払いを済ませてみると、表示された割引が反映されていないことに後から気づく。問題は、これが“たまにある”程度ではなく、あまりに頻繁に起こるという点である。

「割引されていない」ことに気づきにくいシステム設計

たくさんの品物を買ったとき、いちいちすべてのレシートを確認するのは正直言って面倒だ。特に数十ポンド分の買い物をした後に、数ポンドの誤差があるかどうかを見極めるには時間も手間もかかる。

ここに一つのカラクリがある。スーパーマーケット側は、客がそれに気づく労力を“見積もっている”ように見えるのだ。

割引の適用漏れが起きるのは、単なる人的ミスではない。なぜなら、これはどのチェーンでも、どの店舗でも、何度も繰り返し起こるからだ。POSシステム(販売時点管理システム)が商品情報を正確に読み取っていない、あるいはシステムへの割引登録が漏れている。こうしたミスがあまりに多く、そして修正もされないままになっている現状を考えると、これは「仕組みとしてわざとそうなっている」のではないかという疑念が拭えない。

「返金の手間」が消費者心理を巧みに突いてくる

もし割引されていなかったことに気づいたとしても、それを訂正してもらうためには「カスタマーサービス」カウンターに行く必要がある。しかし、このカウンターがまた一筋縄ではいかない。

多くの店舗では、この窓口はタバコやギフトカード、返品処理なども同時に取り扱っており、常に行列ができている。返金処理をしてもらうために10分、15分と並ぶ必要があることもざらだ。しかも、そのやり取りもとてもスムーズとは言い難く、証拠となるレシートと商品、さらに時には表示の写真まで必要になることもある。

その面倒さゆえに、多くの消費者は「もういいや」と諦めてしまう。スーパーマーケット側はその“諦め”に依存しているのではないかとすら思えるのだ。

小さな額だからと軽視できない、積み重なる“無意識の損失”

「たかが£1〜2」と思うかもしれない。しかし、もしそれが毎週、何千人という客に対して起きているとしたら、どうだろうか? 一つの店舗だけでなく、全国のチェーン店すべてで同様の“割引未適用”が常態化しているとすれば、それは数百万ポンド規模の“余分な売上”になっている可能性がある。

そしてそれは、顧客からの“正規料金という名の誤請求”によって成り立っているという構図になる。

誰が責任を取るべきなのか?

この問題の責任は、レジで働いているスタッフにあるわけではない。彼らはPOSシステムのデータを読み取り、スキャンされたままの金額を処理しているにすぎない。責任の所在はむしろ、店舗運営の根幹を担うマネジメント部門、そして割引情報を管理する本部のシステム設計にある

つまり、これは現場の労働者の怠慢ではなく、構造的な問題なのである。

今後、私たちができること

このような状況の中で、私たち消費者ができるのは、まず「疑ってかかる視点」を持つことだ。レジを通した後のレシートをなるべく確認し、疑問があればすぐに問い合わせる。また、買い物中に「これ本当に割引されているのか?」という意識を持っておくことも重要だ。

加えて、SNSなどを通じてこうした実例を共有することも有効だ。透明性が高まり、店舗側にもプレッシャーがかかる。企業としても、こうした小さな“不信感の積み重ね”がブランドイメージの毀損につながることをもっと真剣に考えるべきである。


「表示された価格で買える」——それは消費者が当然のように期待する権利だ。その基本すら確保されないまま、「面倒だから」「よくあることだから」と諦めてしまえば、いつの間にかそれが“普通”として定着してしまうだろう。

だからこそ、声を上げ、仕組みを問い、正当な価格で買い物をする意識を私たち一人ひとりが持つことが、今求められている。

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