ヨーロッパでは今、徴兵制の復活や兵役制度の拡大が進んでいる。停止した制度を再開する国もあれば、女性にも対象を広げたり、志願者向けの軍務を新設したりする国もある。ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、「国の防衛を誰が担うのか」という問題が、再び国民の生活に近づいている。European Parliament
では、ドイツに続いてイギリスでも、若者が徴兵される時代が来るのだろうか。
欧州で兵力確保を強化する傾向は明確にある。ただし、イギリスでは徴兵制の復活は決まっておらず、政府も導入計画を否定している。 また、ドイツの新制度も「若者が一律に強制入隊させられる制度が全面復活した」と捉えると、実態を見誤る。UK Parliament
まず、ドイツで始まった制度を整理する必要がある。
ドイツでは2026年から、18歳のドイツ国籍の男女に、健康状態や兵役への意欲などを確認する質問票を送付している。男性には回答義務があり、女性の回答は任意だ。さらに、2027年7月1日からは、2008年以降に生まれた男性を対象に、兵役適性検査を義務化する仕組みが設けられている。Federal Government
一方、実際に軍務に就くことは志願を基本としている。志願者が不足した場合や安全保障環境が悪化した場合には、必要な人数を徴集する「必要に応じた徴兵」を導入できるが、そのためには連邦議会による新たな立法手続きが必要になる。人数が足りなくなれば、自動的に徴兵が始まる制度ではない。Bundesregierung
つまり、ドイツの変化は、若者の情報を把握し、適性を確認し、将来の兵力確保につなげる体制を再構築した点にある。登録や検査の義務と、入隊そのものの義務は区別して考える必要がある。
欧州の他の国を見ても、変化の方向は共通しているものの、採用する制度は異なる。
| 国 | 主な動き | 兵役の位置付け |
|---|---|---|
| スウェーデン | 2018年から若い男女を対象とした徴兵による基礎訓練を再開 | 男女を対象とする選抜型の徴兵。forsvarsmakten.se |
| ラトビア | 2023年に制度を再導入し、2024年から義務化 | 男性国民が対象。女性は志願できる。Aizsardzības ministrija |
| クロアチア | 2026年3月、徴兵による基礎軍事訓練を再開 | 男性を対象とする2か月間の訓練。MORH |
| デンマーク | 女性も対象に加え、2026年には原則11か月の兵役へ移行 | 既存の徴兵制の対象と期間を拡大。forsvaret.dk |
| フランス | 2026年9月、新たな10か月間の軍務を開始 | 志願制。強制徴兵の復活とは異なる。elysee.fr |
この比較から見えてくるのは、欧州各国がそれぞれの事情に合わせて、軍事訓練を受ける人を増やしている現実だ。
その背景には、現役の軍人だけでなく、有事に動員できる予備役を確保する必要性がある。ドイツも新制度の主要な目的として、予備役の拡充を掲げている。平時に訓練を受ける人を増やすことが、将来の防衛力を支えるという考え方である。Federal Government
米国の安全保障政策の変化も、欧州側の備えを見直す要因になっている。英国の2025年「戦略防衛見直し」は、米国の関心がインド太平洋や自国本土の防衛へ向かう中、欧州の同盟国がより大きな役割を果たす必要性を指摘した。欧州に求められているのは、防衛費の増額に加え、部隊を支える人員や産業、社会全体の対応力の強化でもある。GOV.UK
イギリスでも、こうした問題意識は共有されている。ただし、現在選んでいる方法は、志願制を軸とした人員確保である。
2026年9月15日の議会答弁で、英国政府は強制的な兵役を導入する現在の計画はないと説明し、志願者による専門的な軍隊を維持する方針を改めて示した。UK Parliament
その一方で、若者が比較的短期間、給与を受け取りながら軍務や訓練を経験できる「Armed Forces Foundation Scheme」、いわゆる軍のギャップイヤー制度を設けている。最初から長期の軍歴を選ぶことに迷う若者にも、参加の入口を広げる取り組みだ。GOV.UK
また、2025年の戦略防衛見直しでは、資金が確保できることを条件に、訓練や任務に参加する予備役「Active Reserve」を20%増やす方向を提言している。英国の防衛強化は、現役軍人に加えて、予備役をどう活用するかという課題にも向いている。GOV.UK
徴兵制を導入すれば、すぐに問題が解決するわけでもない。英国政府は従来、現代の軍務には高度な専門訓練が必要であり、強制的に集めた短期の兵員を受け入れることは、既存の軍の訓練資源や運営にも負担をかけると説明してきた。入隊する人数と、実際に任務を遂行できる戦力は、同じものではない。researchbriefings.files.parliament.uk
では、将来も英国で徴兵制が復活する可能性は低いと言い切れるのか。
ここからは今後の見通しになるが、ロシアとの軍事的緊張がさらに高まり、志願者や予備役だけでは必要な兵力を確保できない状況になれば、徴兵制を求める政治的圧力が強まる可能性はある。現在の政府方針が、将来のあらゆる状況まで保証するものではない。
ただし、現在確認できる政策から判断すると、英国が優先しているのは、軍への参加経路を増やし、専門軍人と予備役を充実させることだ。ドイツや他国の動きだけを根拠に、「次は英国で強制徴兵が始まる」と断定できる段階にはない。
今後、制度の拡大が議論される場合には、防衛上の必要性とともに、若者の進学や就職への影響、男女の扱い、健康上の配慮、良心的兵役拒否などをどう扱うかも問われる。国民に負担を求めるなら、政府には、その必要性と対象、期間、補償を具体的に説明する責任がある。
ドイツの新制度や欧州各国の改革は、平時のうちに防衛に関わる人を増やそうとする変化を示している。イギリスもその流れの中にいる。これから注目すべきなのは、志願制と予備役の強化で必要な人員を確保できるのか、それとも強制的な仕組みまで議論が進むのかという点だ。










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