イギリスに住んでいると、「イギリス人は移民を嫌っているのか?」「それとも、移民を必要としているのか?」という疑問を持つ人は少なくありません。ニュースでは不法移民、難民申請、ホテル滞在費、国境管理、EU離脱後の人手不足など、移民に関する話題が頻繁に報じられます。その一方で、医療、介護、飲食、建設、大学、ITなど、多くの現場では移民なしには社会が回らないという現実もあります。
結論から言えば、イギリス人の多くは「移民そのものを完全に排除したい」と考えているわけではありません。しかし同時に、「今の移民制度は多すぎる、管理されていない、不公平だ」と感じている人も増えています。つまり、イギリス社会の本音は「移民をゼロにしたい」ではなく、「必要な移民は受け入れるが、数とルールは厳しく管理してほしい」という方向に近いと言えます。
移民への不満が強まっている理由
近年、イギリスでは移民問題への関心が再び高まっています。Ipsosの調査では、2025年9月時点で移民は英国民が最も重要な問題として挙げるテーマとなり、51%が懸念事項として移民を挙げました。これは2015年以来の高水準です。
背景には、数の問題があります。イギリスの純移民数は一時的に非常に高い水準に達し、住宅、医療、学校、公共サービスへの負担が強く意識されるようになりました。ONSによると、2025年6月までの1年間の長期純移民数は204,000人で、前年の649,000人から大きく減少しましたが、それでも移民が政治的争点であり続けていることに変わりはありません。
特に反発が強いのは、「合法的に働き、税金を払う移民」よりも、「国境管理が機能していないように見える移民」です。小型ボートでの入国、難民申請者のホテル滞在、申請処理の遅れ、不法就労などは、移民全体への不信感を強める原因になっています。
それでもイギリスは移民を必要としている
一方で、イギリスは移民を完全に排除できる国ではありません。NHS、介護、大学、農業、ホスピタリティ、建設業など、多くの分野で外国人労働者が重要な役割を担っています。もし移民を急激に減らせば、人手不足、サービス低下、物価上昇、企業活動の停滞につながる可能性があります。
この点で、イギリス人の意見は単純な「賛成・反対」ではありません。British FutureとIpsosの移民意識調査では、移民に対して強く否定的な層は存在するものの、多くの人は「移民には利益も問題もある」と考える中間層に属しています。特に医師、看護師、介護職、エンジニア、IT専門職など、社会に必要な職種の移民については、全面的な削減を望まない人も多いとされています。
つまり、イギリス人の多くは「移民は不要」と考えているのではなく、「誰でも無制限に受け入れるのは困るが、社会に貢献する人材は必要」と考えているのです。
「移民」ではなく「コントロール不足」への怒り
移民問題で重要なのは、多くの不満が移民個人そのものではなく、政府の管理能力に向けられている点です。
EU離脱、つまりBrexitの大きなスローガンの一つは「Take back control」でした。これは「国境管理を取り戻す」という意味を持っていました。しかしBrexit後も移民数は一時的に増え、国民の中には「約束と違う」と感じる人が増えました。
政府もこの世論を意識しています。2025年5月、英国政府は移民制度を厳格化し、純移民を減らすための白書を発表しました。その目的は、成長に必要な移民を維持しながらも、制度をより管理されたものにすることだと説明されています。
ここから見えるのは、イギリス人の不満の中心が「外国人がいること」だけではなく、「政府が数、資格、審査、ルール違反をきちんと管理できていないのではないか」という不信感にあるということです。
世代・地域・学歴・政治支持で意見は大きく違う
イギリス人と一言で言っても、移民に対する考え方はかなり分かれます。
若い世代、都市部、大学教育を受けた層、ロンドンのような多文化地域では、移民に対して比較的前向きな傾向があります。職場、学校、近所で多様な背景の人々と日常的に接しているため、移民を社会の一部として自然に受け止めている人も多いです。
一方で、地方都市、工業地域、公共サービスの不足を強く感じる地域、低所得層の一部では、移民に対する不満が強くなりやすい傾向があります。彼らは「住宅が足りない」「病院の予約が取れない」「賃金が上がらない」「地域の雰囲気が変わった」といった不安を、移民問題と結びつけて考えやすくなります。
政治的にも分断があります。保守党支持層やReform UK支持層では移民削減を求める声が強く、労働党支持層やリベラル層では比較的移民に寛容な傾向があります。Migration Observatoryも、移民への態度は政治的立場や価値観によって大きく異なると分析しています。
「排除したい」というより「選別したい」
現在のイギリスの空気を一言で表すなら、「排除」よりも「選別」に近いでしょう。
多くの国民は、医療・介護・高度技能・大学研究・必要な産業を支える移民には一定の理解を示します。しかし、低賃金労働に依存する仕組み、英語力や技能が十分でない移民、家族帯同による人口増、不法入国、難民制度の乱用と見なされるケースには厳しい目を向けます。
つまり、イギリス社会は「移民を全員出て行かせたい」と考えているわけではありません。ただし、「誰を、どのくらい、どの条件で受け入れるのか」を以前よりも厳しく見直したいという意識が強まっています。
日本人移住者・在英日本人はどう見られるのか
日本人にとって気になるのは、「この移民への反発は日本人にも向いているのか」という点でしょう。
一般的には、日本人はイギリスで強い反移民感情の主な対象になりにくい傾向があります。日本人は人数が比較的少なく、学生、駐在員、専門職、配偶者、長期在住者などの形で滞在している人が多いため、政治的な移民問題の中心にはなりにくいからです。
ただし、移民制度が厳しくなれば、日本人にも影響はあります。ビザ要件、収入基準、スポンサーライセンス、永住権取得、配偶者ビザ、学生ビザ後の就労ルートなどは、国籍に関係なく変更の影響を受けます。感情的な反日というよりも、「制度全体の厳格化」によって日本人も影響を受ける可能性があると考えるべきです。
結論:イギリス人は移民を拒否しているのではなく、不安を抱えている
イギリス人は移民を受け入れたいのか、それとも排除したいのか。
答えは、「どちらか一つ」ではありません。
イギリス社会は移民を必要としています。医療、介護、教育、ビジネス、大学、サービス業など、移民なしでは成り立たない分野が多くあります。その一方で、多くの国民は、急激な人口増加、住宅不足、公共サービスへの負担、不法入国、政府の管理能力に強い不安を抱えています。
そのため、今のイギリスの本音はこう言えるでしょう。
「移民は必要。しかし、無秩序な移民は受け入れたくない」
これは単純な外国人嫌いではなく、生活不安、経済不安、政治不信、地域社会の変化が重なった複雑な感情です。今後のイギリスでは、移民を完全に排除する政策ではなく、「必要な人材は受け入れ、そうでない移民は制限する」という選別型の移民政策がさらに強まっていく可能性が高いでしょう。










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