イギリス企業の求人が減る理由は?失業率4.7%でも利上げ観測、インフレは本当に収まるのか

イギリスで企業の採用意欲の弱さが続いている。仕事を探す側には厳しさが残り、企業も人を増やす判断に慎重だ。その一方で、物価上昇への懸念から、イングランド銀行による追加利上げが取り沙汰されている。

雇用が弱いのに、なぜ借入金利を上げるのか。そもそも、エネルギーなどの値上がりに利上げは効くのか。最新の数字を確認すると、英国経済が抱える難しさが見えてくる。

英国国家統計局(ONS)が10月20日に発表した統計によると、2026年7〜9月の求人数は69万1,000件。4〜6月から2万1,000件、2.9%減り、前年同期比では5.1%減少した。コロナ禍を除けば、2014年以来の低い水準である。ただし、直近の減少だけを「急崩壊」と捉えるのは慎重であるべきだ。ONSは四半期の減少幅が推計の誤差の範囲内にあるとも説明している。

一方、6〜8月の失業率は4.7%だった。ONSによれば、前年同期、前四半期をいずれも0.1ポイント下回っている。「失業率が上がり続けている」という状況ではなく、失業率の小幅な改善と、求人の少なさが同時に存在している。

主な指標数値対象時期
求人数69万1,000件2026年7〜9月
失業率4.7%2026年6〜8月
消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率3.1%2026年8月
政策金利3.75%2026年9月の決定後

出典:ONS、イングランド銀行。

採用を抑える理由として、まず挙げられるのが人件費だ。ONSの求人調査には、小規模企業が労働コストの上昇を理由に採用を控えている可能性を示す回答が寄せられている。従業員1〜9人の企業では、求人数が前四半期から21.1%減少した。全国平均よりも、小さな企業の採用余力の弱さが目立つ。

背景には、賃金以外の負担もある。2025年4月には、雇用主が負担する国民保険料の標準税率が13.8%から15%に上がり、通常の課税開始基準も年収9,100ポンドから5,000ポンドへ引き下げられた。ただし、対象企業への控除であるEmployment Allowanceも拡充されており、影響は企業によって異なる。

さらに、2026年4月から、21歳以上に適用される法定最低賃金は時給12.71ポンドとなり、前年比4.1%上昇した。働く人の収入を支える一方、人手に頼る企業にとっては採用費用を押し上げる要因になる。

こうした条件では、売上が少し増えても、その分だけ従業員を増やすとは限らない。既存の人員で仕事を回す、欠員を補充しない、採用時期を遅らせるという判断につながり得る。求人の減少は、大量解雇だけでなく、新しく入れる仕事の入口が狭くなる形でも表れる。

借入費用と先行きの不透明さも重なる。KPMGとRECの2026年10月の採用調査は、エネルギー価格の不確実性や高い借入費用を企業の逆風として挙げている。将来のコストや税制が読みにくければ、継続的な支出になる採用を急がないという判断は理解できる。

ただし、業界全体が同じ方向に動いているわけではない。同調査では9月の正社員の採用成立が小幅に増え、IT・コンピューティングやエンジニアリングでは人材需要が伸びた。一方、小売やホテル・飲食では求人減少が目立った。英国の雇用市場には、回復の兆しと採用抑制が混在している。

AIや自動化が求人を減らしているのでは、という疑問もある。しかし、今回のONS統計から、減った求人のうち何件がAIによるものかは分からない。個別企業の省人化と、英国全体の求人減少の原因は分けて検証する必要がある。

こうした中で利上げが議論されるのは、中央銀行が雇用だけでなく、物価上昇が長引く危険を見ているからだ。8月のCPI上昇率は前年比3.1%で、目標の2%を上回った。前月の2.9%から上がった主な要因は、ガソリンなどの自動車燃料を含む交通関連だった。

イングランド銀行が警戒するのは、エネルギー高が企業の幅広い値上げや賃金設定に波及し、インフレが定着することだ。9月の声明では、こうした「二次的な波及」の明確な証拠はまだ乏しいとしつつ、エネルギー高が長引くほどリスクが増すと説明している。

一方、賃金の数字だけから、激しい賃金・物価の悪循環が起きていると決めつけることもできない。6〜8月の賞与を除く平均賃金の伸びは前年比3.7%で、民間部門は3.0%だった。賃金統計は英国全体の求人統計とは対象範囲などが異なるものの、国内の物価圧力を判断する重要な材料になる。

では、来月の利上げは確実なのか。10月20日時点で「確実」とは言えない。 次回の政策金利発表は11月5日だ。9月は9人の政策委員のうち6人が3.75%での据え置きに賛成し、3人が4%への利上げを求めた。利上げを支持する意見は存在するが、直近の決定では据え置きが多数だった。

判断には、その後の物価、賃金、景気、エネルギー価格の動きが影響する。9月分のCPIは10月21日発表予定であり、この記事の時点では未公表だ。市場が利上げを予想することと、中央銀行が利上げを決定したことは区別する必要がある。

利上げによるインフレ抑制には、経済的な仕組みがある。住宅ローンや企業融資の金利が上がれば、家計はほかの支出を抑え、企業は投資に慎重になる。預金の魅力も増すため、消費より貯蓄を選ぶ動きが強まる。需要が弱まれば、企業は価格を上げにくくなる。

しかし、効果が表れるまでには時間がかかる。イングランド銀行は、利上げが十分に作用するまで通常は最大2年程度かかると説明している。来月金利を上げれば、その翌月から生活必需品が安くなるというものではない。

さらに、利上げで原油や天然ガスの供給量を直接増やすことはできない。国際的な供給障害を解消する政策でもない。外から来た値上がりの衝撃に対し、国内の支出を抑え、その衝撃が次々と別の値上げに広がるのを防ごうとする。そのため、供給不足が主因のインフレでは、家計や企業に負担をかけながら間接的に効かせる政策になる。

ここに、現在の英国の難しさがある。採用余力が乏しい企業に、さらに借入費用の増加が重なれば、投資や雇用が一段と弱くなるおそれがある。イングランド銀行自身も、高金利には支出や雇用を減らし、債務返済の負担を増やす作用があると説明している。

また、インフレ率が下がることと、生活費が以前の水準に戻ることは別だ。例えば100ポンドだったものが10%値上がりして110ポンドになり、翌年の上昇率が2%に落ち着いても、価格は112.20ポンドになる。値上がりが緩やかになっても、家計の苦しさはすぐには解消しない。

英国が直面しているのは、物価を抑える必要と、企業が人を雇える環境を守る必要がぶつかる局面だ。利上げの妥当性を考えるには、物価上昇の原因、国内への波及、雇用への負担を併せて見る必要がある。

求人数の少なさは、企業の採用余力を点検すべき警告である。追加利上げを判断する際には、その警告を踏まえ、インフレの定着を防ぐ効果と、雇用や生活に生じる負担が釣り合っているかが問われる。

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