英国の住宅市場が、静かながらも確実に変調を見せています。これまで数年間にわたって上昇を続けてきた価格ですが、2025年の春以降、価格の停滞・下落・地域差の拡大という動きが鮮明になってきました。本稿では、最新データを交えながら、なぜ「住宅価格の上昇期」が終わりに近づいているのか、そしてこれから注視すべきポイントを整理していきます。
最新データで見る住宅価格の動き
まず、複数の公的・民間指標から現在の住宅価格の状況を整理します。
- HM Land Registry によると、2025年4月時点で英国全体の平均住宅価格は約£265,000。3月比で-2.8%と、月次ベースで約3％近い下落を記録しました。
- Nationwide のデータでは、2025年6月には月次で-0.8%の下落、年次上昇率も2.1%に鈍化。
- Rightmove の発表によると、2025年7月には過去20年で最大の-1.2%の月間下落。平均希望価格（asking price）は£373,709となりました。
- 地域別では、スコットランド・ウェールズ・北東イングランドなどで年次数％の上昇が続いている一方、南イングランド・ロンドンでは下落傾向が見られます。
このように、価格の上昇は完全に止まったわけではありませんが、「かつてのような急速な上昇期」から「横ばいまたは軟調期」へ移行しつつある傾向が明確になっています。
なぜ価格が止まり／下がり始めたのか？主要な要因
現在の住宅市場が動揺を見せている背景には、以下の複数の要因が複雑に絡み合っています。
- 金利・住宅ローン負担の重み： 長引くインフレと利上げにより借入コストが上昇し、特に初めての住宅購入者が慎重になっています。
- 税制・制度変更の影響： 2025年4月の印紙税（スタンプ・デューティー）改正により、駆け込み購入の反動で売買が一時的に減少しました。
- 供給の増加と選択肢の拡大： 在庫物件数が増え、買い手優位の市場に転じています。販売側は価格を下げざるを得ない状況も見られます。
- 地域間格差と価格の限界： ロンドンや南部ではすでに高価格帯に達しており、所得との乖離や生活コスト上昇により価格上昇の余地が限られています。
売り手・買い手それぞれの視点で見た市場変化
買い手から見れば、価格の下げ幅は限定的でも「今が買い時か」という判断が難しくなっています。ローン金利が高止まりしているため、限られた予算内でより良い条件の物件を探す動きが強まっています。
一方、売り手にとっては、かつてのような「出せば売れる」市場ではなくなり、価格設定の戦略性が求められています。特に南イングランドでは、物件の平均「売却合意までの日数」が前年より約10％長くなっており、販売期間の長期化が進んでいます。
また、税制変更や経済見通しの不透明感から、高額物件の売買が停滞している一方、地方・中部エリアでは価格の伸びが続いており、地域ごとの差がより際立っています。
これからの展望と留意点 ― 2025年後半に向けて
今後数ヶ月、あるいは年末に向けて住宅市場がどのように動くか、注目すべきポイントを整理します。
- 価格見通しの軟化： 2025年末までの全国平均価格上昇率は1〜2％程度に留まるとの予測が出ています。
- 税制・住宅政策の影響： 政府の秋の予算で住宅関連税制が再検討される見通しがあり、これが市場心理を左右するとみられています。
- 住宅ローン金利の動向： 金利が下がらなければ、購入意欲の回復は緩慢となる可能性が高いでしょう。
- 地域による二極化： 南部・ロンドンの高価格帯は軟調、北部・地方都市は比較的堅調という構図が続く見通しです。
- 在庫・販売期間の延長： 売れ残り物件の増加が進めば、さらに価格調整圧力が強まる可能性があります。
まとめ ― “調整期”に入った英国住宅市場
英国の住宅市場は、急上昇期を終え、横ばいから緩やかな下落へと移行しています。ただし、これは暴落ではなく、過熱の反動による「健全な調整期」ともいえます。
買い手にとっては、慎重ながらも好条件の物件を選べる環境が広がりつつあり、売り手にとっては適正価格での販売戦略が求められます。今後は、地域性・金利・政策動向を見極めながら、「長期的な視点での住宅取引」が重要となるでしょう。
参考資料
- HM Land Registry「UK House Price Index 2025」
- Nationwide「UK Housing Market Report 2025」
- Rightmove「Monthly Housing Trends 2025」
- Zoopla「House Price Index and Regional Data 2025」
- ONS「Private Rent and House Prices UK 2025」
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