
日本人にとって車は「大切な財産」であり、丁寧に扱うのが当然という文化があります。しかし、イギリスではその価値観はあまり共有されておらず、車はあくまで「移動手段」という位置づけ。そのため、日本の感覚で車を所有すると、日々ストレスを感じることになります。
◆ 狭すぎる駐車場と“ドアパン”のストレス
イギリスのスーパーマーケットやショッピングモールの駐車場は非常に狭く設計されています。ドアを開ければ隣の車に接触してしまうようなスペースが当たり前で、どれだけ注意していても**“ドアパン”(隣の車のドアによる接触傷)**は避けられない環境です。
さらに、イギリスでは駐車場のマナー意識も日本ほど高くなく、駐車スペースをはみ出して停める、斜め駐車、車幅ギリギリの強引な駐車なども頻繁に見かけます。こうした現状に、日本人は大きなカルチャーショックを受けることになるでしょう。
◆ 当て逃げ多発、そして車載カメラは“前・後・左右”が基本
イギリスでは当て逃げ(hit and run)が非常に多発しています。車をこすられても加害者が名乗り出ることは稀で、駐車中の事故も見て見ぬふりをされがちです。こうした背景から、多くのドライバーが全方向に車載カメラ(ドライブレコーダー)を設置して、自衛しています。
特におすすめされるのは、以下の構成:
- 前方カメラ(走行中の記録用)
- 後方カメラ(追突や駐車中の被害対策)
- 左右のサイドカメラ(ドアパンやすれ違い時の接触記録)
録画データは当て逃げの証拠として警察や保険会社に提出する際に非常に重要です。
◆ 車両盗難は年々巧妙に――イギリスの盗難率とその背景
イギリスでは車両盗難が社会問題となっており、特にロンドン、バーミンガム、マンチェスターなど都市部での被害が顕著です。英政府の犯罪統計(Office for National Statistics, 2024年)によると、
- 年間約11万件以上の自動車関連の犯罪が報告されており、
- うち約3万件が車両盗難(theft of a motor vehicle)
- 高級車やSUV、特に日本車やドイツ車はターゲットになりやすい傾向
さらに近年では、**電子機器を使った“リレーアタック”や“CANインベーダー”**と呼ばれるハッキング手法で、鍵なしでも数分で車が盗まれるケースが急増しています。
◆ イギリスの自動車保険制度:カバー範囲と注意点
イギリスでは、車を公道で運転するには最低限「Third Party(対人・対物賠償)保険」の加入が義務付けられています。しかし、車両損害や盗難までカバーするには、以下のようなフルカバー型の保険を選ぶ必要があります:
保険タイプ | カバー内容 |
---|---|
Third Party | 他人への損害賠償のみ(自分の車は対象外) |
Third Party, Fire and Theft | 上記+火災・盗難被害までカバー(車両損傷は対象外) |
Comprehensive | 自車の事故・盗難・当て逃げまでカバー |
盗難や当て逃げの被害に備えるなら「Comprehensive(包括保険)」一択です。また、保険会社によっては、車載カメラ装着やGPSトラッカー導入により保険料が割引されることもあります。
◆ 被害にあった場合の対応フロー
1. 証拠の確保
ドライブレコーダー映像、現場写真、目撃証言などを速やかに集めましょう。
2. 警察へ通報
盗難や当て逃げに遭った場合は、必ず**警察に連絡し、Crime Reference Number(事件番号)**を取得する必要があります。保険請求に必須です。
3. 保険会社に連絡
保険の種類に応じて、修理費や代車の提供が受けられる場合があります。早めの連絡がスムーズな対応につながります。
4. 防犯対策の見直し
同様の被害を繰り返さないために、駐車場所の変更、防犯装置の追加、車種の見直しなどを検討しましょう。
◆ 日本人が取るべき現実的な対策
- 高級車・人気車種は極力避ける
(とくにSUVやスポーツカーは盗難リスクが高い) - 人気色(黒・グレー・白など)を避ける
目立ちにくいため窃盗団に狙われやすい - セキュリティ装置(ハンドルロック、GPS、リレー防止ポーチ)の導入
- 駐車時は監視カメラのある場所を選ぶ
- Comprehensive保険に加入する
- 全方位のドライブレコーダーを設置する
まとめ:割り切りと対策がカギ
イギリスでの車所有は、日本と同じ感覚で臨むと心身ともに疲弊してしまいます。文化の違いを理解した上で、「割り切るべき点」と「守るべき資産」のバランスを取り、現実的な対策を講じることが、快適なカーライフへの第一歩です。
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