ロンドンの地下鉄といえば、長年「地下に入った瞬間、携帯の電波が消える」のが当たり前でした。
日本の地下鉄に慣れている人からすれば、「え、まだ圏外なの?」と思うような話ですが、ロンドンではそれが長い間、日常でした。ところが最近になって、ようやくロンドン地下鉄でも4G・5Gの整備が進み、駅構内や一部トンネル内でも携帯電話が使えるようになってきました。TfLによると、2026年1月時点で地下にある121駅のうち62駅で、チケットホール、通路、ホームなどにモバイル通信が導入されており、Elizabeth lineはすでに全線で通信対応済みです。
便利になった。
確かにそれは間違いありません。
しかし、その便利さと引き換えに、ロンドンでは新たな問題も目立つようになっています。
それが、電車内や駅構内での携帯電話盗難です。
地下鉄で電波が入る=携帯を見る時間が増える
地下鉄で電波が入らなかった時代、人々は車内でスマホを見ていても、せいぜい保存済みの音楽を聞いたり、ダウンロード済みの記事を読んだり、写真を整理したりする程度でした。
しかし今は違います。
WhatsAppの返信、Google Mapの確認、ニュース、SNS、メール、オンラインバンキング、チケット確認、Uberの手配――地下鉄の中でも、地上と同じように携帯を使う人が一気に増えています。
つまり、泥棒から見れば、以前よりもはるかに多くの人が、手にスマホを持ったまま移動しているということです。
しかもロンドンの地下鉄は混雑します。
人が密集し、肩がぶつかり、誰が近づいてきたのか分かりにくい。
その中で高価なiPhoneを片手に持ち、ドア付近で画面に集中している人は、窃盗犯にとっては非常に狙いやすい存在です。
ロンドンの携帯盗難はすでに深刻なレベル
ロンドン全体では、携帯電話の盗難はかなり深刻な社会問題になっています。報道によると、2024年にはロンドンで約8万台の携帯電話が盗まれたとされ、組織的な犯罪グループが盗品を海外に流しているケースもあります。2025年にはMetropolitan Policeが、盗まれた携帯を中国へ密輸していたとみられる大規模な犯罪ネットワークを摘発し、そのグループはロンドンで盗まれた携帯の最大40%に関与していた可能性があると報じられました。
地下鉄・鉄道ネットワークでも状況は悪化しています。MoneySuperMarketがBritish Transport Policeのデータとして報じた内容によると、ロンドン地下鉄では2024年に携帯電話および携帯アクセサリーの盗難が8,414件報告され、2023年の6,664件から22%増加しました。また、2021年から2024年にかけては405%増加したとされています。
これは単なる「気をつけましょう」というレベルではありません。
ロンドンでは、携帯電話はもはや財布以上に狙われる貴重品になっているのです。
ドアが閉まる直前が危ない
地下鉄内で特に注意したいのが、ドア付近です。
よくある手口は、電車のドアが閉まる直前にスマホを奪い、そのままホームへ逃げるパターンです。被害者は一瞬何が起きたのか分からず、気づいた時にはドアが閉まり、犯人はホームの人混みに消えています。
これは非常にロンドンらしい、というより、非常に都市型の犯罪です。
力ずくで襲うというより、タイミングと油断を狙う。
被害者が画面に集中している瞬間を見極める。
ドアの開閉という数秒の隙を利用する。
ロンドンの地下鉄は便利になりましたが、その分、スマホを手に持っている時間が増え、盗む側にとってもチャンスが増えたということです。
電波が入るようになったこと自体は悪くない
もちろん、地下鉄で携帯の電波が入るようになったこと自体は悪いことではありません。
むしろ、ロンドンとしては遅すぎたくらいです。
緊急時の連絡、仕事のメール、家族との連絡、乗り換え確認、災害時の情報収集などを考えれば、地下鉄内の通信整備は必要なインフラです。TfLも、Tube、Elizabeth line、DLR、Overgroundを含め、駅やトンネル内のモバイル通信拡大を進めています。
問題は、便利になった社会に対して、防犯意識と治安対策が追いついていないことです。
日本であれば、電車内でスマホを見ていても、そこまで強い警戒心を持たない人が多いでしょう。
しかしロンドンでは違います。
携帯を手に持っているということは、数百ポンド、場合によっては1,000ポンド以上の物を、むき出しで持ち歩いているのと同じです。
ロンドンでは「スマホを出す場所」も考えるべき時代
これからのロンドンでは、地下鉄で電波が入るからといって、どこでも気軽にスマホを出してよいとは限りません。
特に注意したいのは、以下のような場面です。
・ドア付近で立っている時
・ホームで電車を待っている時
・混雑した車内で片手にスマホを持っている時
・乗り換え駅でGoogle MapやCitymapperに集中している時
・イヤホンをして周囲の音が聞こえにくい時
・観光客らしく、写真や地図を見ながら歩いている時
スマホを使うなら、できるだけ車両の奥へ入る。
ドアが開いている間は手元に注意する。
ストラップを使う。
歩きながらスマホを見ない。
高価な機種を人目につく形で長時間出し続けない。
こうした小さな注意が、被害を防ぐ大きな差になります。
便利になったロンドン、でも安心にはなっていない
ロンドンの地下鉄でようやく携帯の電波が入るようになったことは、確かに大きな進歩です。
しかし、便利さが増すほど、それを狙う犯罪も増える。
これが今のロンドンの現実です。
地下鉄で電波が入るようになった。
でも、そのせいで多くの人がスマホを手に持つようになった。
そして、そのスマホを狙う泥棒もまた増えている。
結局、ロンドンという街では、便利になったからといって油断してはいけないのです。
日本のように、電車内で安心してスマホを使える感覚のままロンドンに来ると、思わぬ被害に遭う可能性があります。
ロンドンの地下鉄は、ようやく現代の通信環境に追いついてきました。
しかし、治安の面では、まだまだ利用者一人ひとりが自分を守らなければならない街でもあります。
便利になったロンドン地下鉄。
その裏側で、スマホを狙う目も確実に増えているのです。










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