50年以上続いた「買えば上がる」の常識に異変、新築売れ残りが危険水域へ
ロンドンの不動産は、長いあいだ「持っていれば価値が上がる」「新築ならいずれ必ず売れる」といった神話に支えられてきました。世界中の富裕層、投資家、海外マネーが集まり、不動産価格は多少の景気後退があっても結局は戻る、という見方が半ば常識になっていたのです。ですが、その神話にいよいよ大きなヒビが入ってきました。
その象徴が、ロンドンの新築物件の売れ残り増加です。Molior Londonの2026年1月時点のレポートでは、完成済みなのに売れていない住宅が3,897戸に達していました。さらに、2026年中に完成予定で、なおかつ未販売の住宅が11,884戸あるとされ、2026年中に売らなければならない未販売住戸は合計15,781戸にのぼると示されています。
これはかなり重い数字です。なぜなら、売れ残りが少し出るのはどの都市でも普通ですが、ロンドンのように「供給不足だから売れないはずがない」とまで言われてきた市場で、ここまで完成在庫が積み上がるのは、単なる一時的なブレでは片づけにくいからです。Greater London Authority(GLA)の2026年2月の市場レポートでも、完成済み未販売住戸は2025年Q4で3,888戸とされ、2023年Q4比で32%増と報告されています。
「家が足りない」のに売れないという矛盾
ロンドンでは常に住宅不足が語られます。人口は多く、賃貸需要も強く、住まいに困る人は多い。それなのに新築が売れ残る。ここに、今のロンドン不動産市場の歪みがはっきり表れています。問題は「家がいらない」のではなく、多くの人が買える価格ではないことです。
Moliorの2026年4月レポートでも、完成済みで未販売の住宅が3,650戸あるとされ、依然として高水準が続いています。レポートでは、一部のデベロッパーが売却ではなく賃貸運用へ切り替えることで、完成在庫の見え方を抑えているとも示されています。つまり、表面上の数字以上に、売りにくさが市場全体に広がっている可能性があります。
原因はひとつではない
金利・建築コスト・規制強化が同時に襲った
今回の異変は、単純に「人気がなくなった」からではありません。複数の悪材料が同時に重なっています。まず大きいのが、金利上昇後の住宅ローン負担です。以前よりも買い手の月々の返済負担が重くなり、予算に届かない層が一気に増えました。加えて、建築コストや人件費の上昇、安全規制対応の負担、計画・承認の遅れなどが開発側を圧迫し、値下げしたくても簡単には下げられない構造になっています。
実際、JLLは2025年のロンドン民間住宅着工が5,547戸にとどまり、10年前の33,782戸から大きく落ち込んだと紹介しています。つまり今のロンドンは、売れ残りが増えているのに、新規着工は激減しているという、非常に不健全な状態です。需要と供給の単純なミスマッチではなく、「作っても採算が合わない、買う側も届かない」という市場機能不全に近い状況が見えてきます。
「ロンドンなら絶対安全」という神話の終わり
これまでロンドン不動産には、どこか宗教のような安心感がありました。
「世界都市ロンドンだから下がらない」
「新築なら外国人投資家が買う」
「供給不足だから長期では必ず勝つ」
こうした言葉が、半ば思考停止のように繰り返されてきました。ですが、完成した新築が数千戸単位で積み上がっている現実は、その神話がもはや無条件には通用しないことを示しています。
もちろん、これだけで「ロンドン不動産が完全崩壊した」とまでは言えません。ロンドン全体の市場が一夜で消えるわけでもありませんし、エリアや価格帯によって強弱もあります。ただ、少なくとも言えるのは、“ロンドンだから自動的に上がる”時代は終わりつつあるということです。完成しても売れない、売れないから資金が回らない、資金が回らないから着工も減る。この流れが続けば、神話の崩壊は単なる印象論ではなく、数字で確認できる現実になっていきます。
今起きているのは「調整」ではなく「信仰の揺らぎ」
不動産市場ではよく、「今は調整局面」と表現されます。ですが今回のロンドンは、ただの調整では済まないかもしれません。なぜなら揺らいでいるのは価格そのものだけではなく、ロンドン不動産に対する信頼の前提だからです。高くても売れる、完成すればはける、投資家が支える――そんな前提が崩れ始めると、市場の空気は一気に変わります。
しかも、売れ残りが増えている一方で、今後の供給も決して安心できる状況ではありません。Moliorは2025年後半から2026年にかけて、販売不振と着工減少が続けば、将来の供給不足がさらに深刻化する可能性も示しています。つまり今のロンドンは、目先では売れ残り、先では供給危機という、非常にやっかいな二重構造に入っているのです。
まとめ
ロンドン不動産神話は「終わらない物語」ではなかった
50年以上にわたって、多くの人がロンドン不動産を特別視してきました。ですが、2026年に入って見えてきた完成新築の大量売れ残りは、その特別扱いに疑問符をつけています。完成済み未販売が約3,900戸、さらに2026年中に売る必要がある未販売住戸が約15,800戸という現実は、軽く流していい数字ではありません。
ロンドン不動産神話は、まだ完全に崩れ去ったとは言えないでしょう。けれど、少なくとも今はっきりしているのは、「ロンドンなら大丈夫」という時代ではもうないということです。新築が売れ残るロンドン――その光景こそが、不動産神話崩壊の始まりを物語っているのかもしれません。










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