英国内での日本人の「常識」とは異なる現実

英国に住む日本人の間でしばしば聞かれる誤解があります。それは、「12歳以下の子供を一人で通学させたり、留守番させることは違法である」というものです。この誤解は、英国に滞在している日本人が他の日本人に対して、「12歳以下の子供を一人にするのは違法ですから気を付けてください」といったアドバイスをする際によく見受けられます。しかし、これは厳密には正しくありません。

英国の法律とガイドライン

まず、英国の法律では、12歳以下の子供を一人で通学させたり留守番させること自体を違法とする規定は存在しません。実際、英国政府の公式ガイドラインには、「12歳以下の子供を一人で出歩かせることは推奨されないが、最終的には親の判断に委ねられる」と明記されています。つまり、法律違反ではないが、親としての責任を果たすために慎重に判断することが求められているのです。

子供の安全を考える英国社会

それでは、なぜ英国では子供が一人で通学する姿をほとんど見かけないのでしょうか? その背景には、英国社会が子供の安全に対して非常に敏感であるという事実があります。
例えば、子供の誘拐事件や変質者による事件が英国では一定数発生しており、これが親たちの慎重な行動を促しています。2023年には998件の子供の誘拐事件が報告されており、これは2020年の983件や2019年の1,145件と比較して若干の増加を示していますが、パンデミック前の水準よりはまだ低い状況です。それでも、日本と比較すると、こうした事件の発生率は非常に高く、英国の親たちは子供を一人にすることに対して強い警戒心を抱いているのです。

家庭内でのリスクと法的責任

また、子供を家に一人で留守番させることにもリスクがあります。もし、親がいない間に子供がケガをしたり、危険な行為に及んだりした場合、親はネグレクト(育児放棄)とみなされる可能性があります。例えば、子供が一人で刃物を扱ってケガをしたり、料理中に火傷を負ったりした場合、親が逮捕されるケースや、子供がソーシャルサービスに保護されるケースも実際に起こっています。
英国では、子供の安全を最優先に考える社会的な背景があり、親が子供を一人にしてしまうことが、場合によっては重大な結果を招くことになります。このため、「法律で許されているから問題ない」と考えるのは、非常に危険な誤解です。

文化の違いを理解する重要性

英国で子育てをする日本人にとって、こうした文化や法的な背景を理解することは非常に重要です。日本では、子供が比較的早い年齢から一人で行動することが一般的であり、地域社会全体で子供を見守る風土が根付いています。しかし、英国ではそのような地域社会のサポートが同じ程度に存在しないことが多く、親が自らの判断で子供を守る必要があります。
特に、日本から英国に移住したばかりの家庭にとって、これらの違いを理解しないまま日本と同じ感覚で子育てをしてしまうと、予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性が高まります。そのため、現地の文化や法律をしっかりと理解し、適切な対応を心がけることが求められます。

実際の事例から学ぶ

例えば、ある日本人家庭では、親が仕事で家を空ける際に、10歳の子供を一人で留守番させていたところ、近隣住民が心配して通報し、ソーシャルサービスが介入する事態となりました。このようなケースでは、親が子供を一人にすることのリスクを十分に理解していなかったことが問題となりました。
一方で、別の家庭では、近隣の英国人家庭と良好な関係を築き、互いに子供を見守り合う体制を整えることで、安心して仕事に出かけることができるようになりました。これは、現地の文化に適応しながらも、自分たちの価値観を尊重する方法として成功した例です。

最後に

英国で子育てをする際には、日本と同じ感覚では通用しない部分が多々あります。特に子供の安全に関する問題は、親として慎重に対応する必要があります。「法律で許されている」という理由だけで行動を決定するのではなく、現地の文化や社会的な背景を理解し、自分たちの子供を守るための最善の方法を考えることが大切です。

そして、何よりも重要なのは、親自身が常に子供の安全と幸福を最優先に考え、適切な判断を下すことです。英国での子育ては、日本とは異なる挑戦が多いかもしれませんが、その分、子供と一緒に成長していく貴重な機会ともなり得るでしょう。

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