
はじめに
イギリスに住んでいると、夜遅くまで営業している「Curry House(カレーハウス)」や、週末になると注文が殺到するテイクアウェイのインド料理店に出会うことは珍しくありません。実際、インド料理はイギリスの食文化に深く根付いており、「英国の国民食はチキン・ティッカ・マサラ」とまで言われるほど。その人気は一過性のトレンドではなく、数十年にわたって確立されてきたものです。
この記事では、イギリスで人気のテイクアウェイ・インド料理メニューやその価格帯、そしてなぜこれほどまでにイギリス人の心を掴んでいるのかという背景について、歴史的・文化的・味覚的な観点から掘り下げていきます。
イギリスで人気のインド料理テイクアウェイ・メニューと価格帯
テイクアウェイで注文されるインド料理の定番メニューには、いくつかのスター的存在が存在します。ここでは、イギリスで特に人気の高いインド料理とその平均的な価格帯を紹介します(※価格は地域によって異なりますが、ロンドンや大都市圏のデータを参考にしています)。
1. チキン・ティッカ・マサラ(Chicken Tikka Masala)
- 価格帯:£8.99〜£12.00
- 内容:タンドールで焼いた鶏肉を、トマトベースのクリーミーなソースで煮込んだ料理。イギリス発祥とも言われる“インド風イギリス料理”の代表格です。
2. バターチキン(Butter Chicken / Murgh Makhani)
- 価格帯:£9.50〜£13.00
- 内容:チキン・ティッカ・マサラと似ていますが、よりバター感が強く、まろやかで甘みのある味が特徴。女性人気が高いです。
3. バルティ(Balti)
- 価格帯:£9.00〜£11.50
- 内容:スパイスたっぷりのトマトベースのカレーで、鋳鉄の小鍋(Balti Bowl)でサーブされるのが特徴。バーミンガム発祥。
4. ローガン・ジョシュ(Rogan Josh)
- 価格帯:£9.00〜£12.50
- 内容:ラム肉を使ったスパイシーなカレーで、カシミール地方の料理。スパイスが効いていても辛さは控えめ。
5. サグ・パニール(Saag Paneer)
- 価格帯:£7.00〜£10.00
- 内容:ほうれん草とインドのチーズ(パニール)を使ったベジタリアン料理。健康志向の人々に人気。
6. サモサ(Samosa)
- 価格帯:£2.50〜£4.00(2個)
- 内容:ジャガイモや豆、スパイスを詰めた揚げ餃子のような軽食。前菜やスナックとして愛されています。
7. ガーリックナン(Garlic Naan)
- 価格帯:£2.50〜£3.50
- 内容:にんにくの効いたインド式パン。カレーとの相性が抜群。
8. ビリヤニ(Chicken/Lamb/Vegetable Biryani)
- 価格帯:£9.00〜£13.00
- 内容:スパイスで炊いた香り高いインド式ピラフ。ライタ(ヨーグルトソース)がセットで付くことが多い。
なぜイギリス人はインド料理をこれほど愛するのか?
イギリスとインド料理の関係は単なるグルメの好み以上の、深い歴史と文化的背景に支えられています。
1. 歴史的背景:植民地時代の名残と融合
イギリスとインドの関係は、17世紀の東インド会社設立から始まり、1947年のインド独立まで続いた長い植民地支配に端を発します。この長い歴史の中で、イギリス人はインドのスパイス文化に魅了され、自国に取り入れ始めました。
19世紀末にはすでに「カレーパウダー」がイギリスで一般的になり、家庭でも“カレー風味”の料理が作られるようになります。これがのちの「イギリス風カレー(British Curry)」の礎となります。
2. 移民の影響と本格料理の登場
1950年代から70年代にかけて、インド、パキスタン、バングラデシュなどからの移民が増加。彼らがオープンしたレストランやテイクアウェイは、安価でボリュームのある食事を提供する場として広まりました。
当初は在英南アジア人向けだった店も、次第にローカライズされて一般のイギリス人にも受け入れられ、現在のような「ブリティッシュ・カレー・カルチャー」が形成されたのです。
3. 味の多様性と辛さの調整可能性
インド料理は、同じ「カレー」というカテゴリーの中にも、クリーミーなものからスパイシーなもの、ベジタリアン向け、肉中心のものまで幅広いバリエーションがあります。この多様性が、味の好みが分かれるイギリス人にも受け入れられやすい理由の一つです。
さらに、イギリスのインド料理店では「辛さ」を調整できる場合が多く、「Mild(マイルド)」「Medium(中辛)」「Hot(辛口)」「Extra Hot(激辛)」などから選べることで、初心者から上級者まで楽しめる仕組みが整っています。
4. 安定した価格とボリューム感
イギリスのパブやレストランに比べ、インド料理テイクアウェイは比較的リーズナブルな価格でボリュームのある食事を提供します。£10〜15で前菜、メイン、ナンやライスまで楽しめるコストパフォーマンスの高さは、家計を気にする人々にとって大きな魅力です。
イギリスの都市別「インド料理愛」事情
ロンドン
移民が集中している都市であり、多国籍文化の中心。高級インド料理レストランからローカルなテイクアウェイまで幅広い層をカバーしています。Michelin星付きの「Dishoom」や「Gymkhana」などが有名。
バーミンガム
「カレーの都」とも呼ばれるほど、インド料理が盛んな都市。特にバルティ・トライアングル(Balti Triangle)は、インド・パキスタン系のレストランが集まる地域として知られています。
マンチェスター / グラスゴー / リバプール
学生や若者が多く、夜遅くまで営業しているインド料理店やテイクアウェイが人気。リーズナブルで満足感のあるメニューが好まれています。
まとめ:インド料理は「第二の国民食」
イギリスにおいて、インド料理は単なる外国料理ではなく、“第二の国民食”とも言える存在です。長い歴史の中で融合し、今ではスーパーでもインド風カレーソースが売られ、家庭料理としても一般化しています。
テイクアウェイ文化の発展とともに、インド料理は「いつでも、誰でも、美味しく、手軽に楽しめる」料理として定着しました。その裏には、味の奥深さ、多様性、文化の融合、そして何より「スパイスへの愛」があるのです。
これからも、イギリスの街角では、夜になるとどこからともなくスパイスの香りが漂い、人々が「今夜はカレーにしようか」と言いながらインド料理店の扉を開けていくことでしょう。
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