
「イギリス人は古いものが好き」という印象を持っている人は多いのではないでしょうか?
石造りの古民家に住み、ヴィンテージカーを愛し、アンティークの家具に囲まれてティータイムを楽しむ――そんな絵に描いたような“クラシックなイギリス人”像は、日本のメディアや映画、小説を通して広く知られています。
しかし、実際にイギリスに住んでみたり、現地の人々と深く関わるようになると、この「古いもの好き」というイメージには、少々ズレがあることに気づかされます。
今回は、そんなイギリス人の“新しいもの好き”な一面に光を当てながら、「古き良きものを大切にする国民性」という先入観の正体を探っていきます。
「古いもの好き」イメージの源泉
まずは、なぜ「イギリス人=古いもの好き」というイメージがここまで定着しているのかを整理してみましょう。
歴史的建造物が多い
ロンドン塔、バースのローマ浴場、ストーンヘンジ、カンタベリー大聖堂…。
イギリスには紀元前から続く歴史的建築物が数多く残されています。そしてそれらが今も現役で利用されている場合が少なくありません。パブや民家、果ては大学の校舎まで、数百年前の建築が現代でも使われている様子は、日本人の目から見ると「すごく古いものを大切にしている」と映ります。
アンティークマーケット文化
イギリス各地で毎週末のように開かれるアンティークマーケットやフリーマーケットも、「古いものを好む」印象を強めています。家具、食器、書籍、雑貨…その品ぞろえは多岐にわたり、実際にアンティークを愛する人もたしかに存在します。
ロイヤルファミリーと伝統
イギリス王室の存在は、伝統重視の象徴とも言えます。即位式や葬儀、行事などが厳格な格式のもとで行われる様子は、「変わらないこと」や「歴史の重み」を尊重する国民性を印象づけます。
実際には「新しいもの好き」が主流?
しかし、これらの文化的背景を踏まえたうえで、現代のイギリス人の「日常の選択」に目を向けると、まるで逆の現実が浮かび上がってきます。つまり、イギリス人の多くは実は「新しいものが大好き」なのです。以下にその具体例を見ていきましょう。
1. 不動産に見る「新築志向」
イギリスといえばコッツウォルズ地方のような石造りの家を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし実際の住宅市場では、「新築物件」は非常に人気があります。
新築への人気は圧倒的
イギリスの不動産情報サイト「Rightmove」や「Zoopla」を見れば一目瞭然。検索フィルターには「New Build(新築)」が最上位にあり、価格帯も中古より高く設定されているケースが目立ちます。これは、若年層だけでなく、中高年層にも共通する傾向です。
なぜ新築が好まれるのか?
- 断熱・省エネ性能が高い:古い家は寒くてエネルギー効率が悪いため、現代のライフスタイルに合わない。
- メンテナンスが少なくて済む:古い家は水漏れ、配管、暖房など問題が多い。
- スマートホーム対応:IoT設備やセキュリティ機能が整っているのは新築だけ。
つまり、「古い家を味わい深い」と感じる文化的土壌はある一方で、実生活では合理性を優先して新築を選ぶのが一般的なのです。
2. クルマ事情に見る「最新モデル志向」
次に、自動車について見てみましょう。イギリスには、ジャガー、アストンマーチン、ミニなど、世界的に知られるクラシックカーの名門が存在します。では、イギリス人はそれらの古い車を好んで乗っているのでしょうか?
実際は“最新のEV”が人気
現代のイギリス人に人気なのは、テスラ、フォードのEV、ヒュンダイやキアの最新ハイブリッド車です。政府もEV購入を後押ししており、「2035年までにガソリン車の新車販売を禁止」という目標に向けて、車の買い替えは「最新モデル」一択の風潮すらあります。
クラシックカーは「趣味の世界」
もちろんクラシックカーの愛好家もいます。しかし、それはあくまで趣味として維持する人たちの話。実際にクラシックカーで通勤している人は稀であり、日常の足としては、EVやハイブリッド、あるいはリースで新車を常に乗り換える人の方が圧倒的に多いのです。
3. テクノロジーへの適応の早さ
イギリス人の「新しもの好き」は、住宅や車に限りません。たとえば以下のような例でも、新しいものへの柔軟性が顕著です。
- キャッシュレス決済の普及:現金を持ち歩かない人がほとんど。Apple PayやGoogle Payの使用率も高い。
- オンライン診療の普及:NHS(国民保健サービス)でもZoomやアプリを通じた診療が一般的に。
- 働き方の変化:コロナ以降、リモートワークを当然のものとして受け入れており、地方移住の加速も顕著。
これらを見ても、イギリス人が「時代の変化に素早く順応する」国民であることがわかります。
「古いものを大切にする」と「新しいものを好む」は矛盾しない
ここで大切なのは、イギリス人が「古いものを好きではない」のではなく、「必要なところには新しいものを積極的に取り入れ、価値あるものは大切に残す」という、ある種のバランス感覚を持っているということです。
例えば…
- アンティークの家具をリペアしながら使いつつ、家そのものは新築に住む。
- クラシックなティーカップで紅茶を楽しみながら、テレビは最新のスマートテレビ。
- 伝統的なパブで週末を過ごしつつ、予約はアプリから。
このように、「伝統を愛しながら、実用的には最新の選択をする」という姿勢こそ、現代のイギリス人を表すキーワードなのではないでしょうか。
おわりに:イメージにとらわれず“実態”を見よう
「イギリス=古いもの好き」というイメージは、決して間違っているわけではありません。ただし、それは一面的な理解に過ぎません。実際のイギリス人の多くは、新しい家に住み、新しい車に乗り、新しい技術にいち早く飛びつく、新しもの好きな人々でもあります。
伝統と革新の両方を重んじるバランス感覚。それがイギリス人の本当の姿であり、日本から見るとそのバランス感覚が「古いもの好き」として強調されてしまうだけなのかもしれません。
「変わらない」ことを愛するのではなく、「変えるべきところを見極める力」を持っているのが、イギリス流の生き方と言えるでしょう。
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