
はじめに:デジタル社会のイギリス
イギリスは長らくメディア消費が活発な国として知られていますが、2020年代半ばに入り、その中心は完全にデジタルメディア、特にSNS(ソーシャルネットワークサービス)へと移行しました。
インターネット普及率はほぼ98%に達し、国民の大多数がスマートフォンを保有。SNS利用者はおよそ人口の8割を占め、子どもから高齢者までが様々なプラットフォームを使いこなしています。
このような背景を踏まえ、イギリスで人気のSNSとその特徴、世代ごとの利用傾向、さらにSNSをめぐる政策や社会的課題までを詳しく紹介していきます。
1. SNS利用の現状と日常化
イギリスの成人は1日あたり平均で1時間半程度をSNSの利用に費やしています。これはもはや「一つの娯楽」であるだけでなく、ニュースの入手、友人や家族との連絡、ショッピング、エンタメ消費など、生活のあらゆるシーンにSNSが入り込んでいることを示しています。
かつてテレビが担ってきた役割を、今ではSNSが肩代わりし、特にスマートフォン経由でSNSを利用する時間が増加。外出先や通勤中、自宅でのちょっとした隙間時間など、場所を問わず利用されています。
2. イギリスで人気のSNSランキングと特徴
1️⃣ WhatsApp(ワッツアップ)
イギリス人が最もよく使うコミュニケーションツールです。普及率は約75%とされ、特に家族や親しい友人間のやり取りに広く使われています。
メッセージだけでなく、無料の音声通話・ビデオ通話が可能。暗号化技術による高いプライバシー保護も安心感につながっています。イギリス人にとってWhatsAppは「電話の代わり」のような存在です。
2️⃣ Facebook(フェイスブック)とMessenger
かつてSNSの代名詞だったFacebookは、現在でも30代以上を中心に圧倒的な支持を集めています。特に地域コミュニティ、家族の近況報告、趣味サークルなどで活用され、MessengerはWhatsAppと並ぶ主要な連絡ツールです。
若年層は徐々にFacebookから離れる傾向があるものの、中高年層にとっては今も「情報ハブ」として重要な位置を占めています。
3️⃣ YouTube(ユーチューブ)
SNSとしての位置付けは人によって意見が分かれるかもしれませんが、イギリスではYouTubeが重要な情報・娯楽源になっています。子どもから高齢者まで幅広く使われ、料理動画、ニュース、教育コンテンツ、音楽など、目的に応じて多様な使い方をされています。
若者の間では「テレビの代わり」として使われる場面が非常に増えています。
4️⃣ Instagram(インスタグラム)
Instagramは特に若年層と女性の間で強い支持を受けています。写真・動画を通じてライフスタイルを共有する文化が根づき、ファッション、旅行、グルメ、アートといった「ビジュアル映え」するテーマが人気です。
ストーリーズ機能やリール動画の拡充によって、TikTokと競合しつつも独自の地位を確立しています。
5️⃣ TikTok(ティックトック)
若年層(16~24歳)ではTikTokが絶対的な存在感を放っています。短尺動画を次々にスワイプしながら楽しむスタイルが主流で、エンタメだけでなく、ニュース、ハウツー、レビューなど情報消費の場としても機能しています。
1日あたりの平均利用時間は1時間を超えるともいわれ、今後もその影響力は拡大すると見られています。
6️⃣ Snapchat(スナップチャット)
イギリスの若者文化を語る上で欠かせないのがSnapchatです。写真や短い動画を気軽に送り合う「スナップ」という文化は健在。特に10代後半から20代前半で利用が盛んです。
SNSというよりも「個人メッセージングアプリ」としての色合いが強く、WhatsAppに次ぐ起動頻度を誇ります。
7️⃣ LinkedIn(リンクトイン)
LinkedInは仕事関連のSNSとしてイギリスでも定着しています。キャリア形成、求人応募、ビジネスネットワーク構築のためのツールとして利用され、特に専門職層や管理職層では重要な位置づけです。
8️⃣ Reddit(レディット)
Redditは匿名性が高く、フォーラム形式で特定の興味・テーマに基づく議論が盛んに行われます。X(旧Twitter)を追い抜いて利用が増えており、特定ジャンルの情報収集やディープなコミュニティ参加に適しています。
9️⃣ X(旧Twitter)
かつてはニュース速報や世論の形成に大きな影響を与えていたXですが、近年は利用者の減少が進みつつあります。それでも政治ニュースや著名人の動向を追う人々には欠かせない存在として残っています。
10️⃣ Threads(スレッズ)
Metaが提供する新興SNS。Twitterに似た設計ですが、イギリスではまだXやRedditほどの浸透には至っていません。それでも新たな世代の「テキスト中心SNS」として注目されています。
3. 世代別のSNS利用傾向
- 10代~20代前半(Z世代):
TikTok、Snapchat、Instagramが中心。写真・動画を介したリアルタイム共有、短時間の消費スタイルが特徴です。 - 20代後半~30代:
InstagramとWhatsAppをメインに、Facebookも利用。ライフログ的な使い方が目立ちます。 - 40代~50代:
Facebook、WhatsApp、YouTubeが主流。コミュニティ、趣味、家族の情報共有に活用。 - 60代以上:
FacebookとWhatsAppが中心。デジタル化に積極的な層が増えつつありますが、使用目的は「家族との連絡」が多いです。
4. SNSをめぐる課題と政策対応
イギリスではSNS利用の急速な普及に伴い、様々な社会問題も浮き彫りになっています。特に若者のメンタルヘルスへの影響は深刻で、「SNS疲れ」「自己嫌悪」「FOMO(取り残される恐怖)」といったキーワードがよく語られています。
このため、近年ではSNS企業に対する規制が強化されています。2023年にはオンラインセーフティ法が施行され、SNSプラットフォームに対して有害コンテンツへの対策義務が課されました。年齢確認の厳格化、成人向けコンテンツへのアクセス制限、いじめや自傷行為の助長を抑える仕組みの整備などが進んでいます。
さらに保護者の間では、夜間のスマートフォン使用を制限する「デジタル門限」を設ける動きも見られ、社会全体でバランスあるSNS活用を模索しています。
5. SNSマーケティングの現在と未来
SNSは企業のマーケティング戦略においても重要な位置を占めています。イギリスの広告市場では、SNS広告が年々成長を続け、YouTube、Instagram、TikTokが特に注目されています。
企業は単なる広告だけでなく、「インフルエンサー・マーケティング」「ライブコマース」「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」を駆使し、消費者とのエンゲージメント強化を図っています。特に若年層を対象とする場合、TikTokやInstagramでのキャンペーンは非常に効果的とされます。
一方、XやFacebookは年齢層が上がるターゲットに適しており、目的や商材に応じたプラットフォーム選びが一層重要になっています。
まとめ:イギリスSNSシーンの特徴
1️⃣ 多様化と細分化:
かつてはFacebook一強だったイギリスのSNS市場も、今やWhatsApp、Instagram、TikTok、Snapchat、YouTubeなど、多様化・細分化が進んでいます。
2️⃣ 世代間ギャップ:
若年層と中高年層で使うSNSがはっきり分かれてきました。これによりマーケティングや情報発信の戦略にも変化が必要です。
3️⃣ 生活インフラ化:
SNSは単なる「遊びの道具」ではなく、コミュニケーション、ニュース、趣味、仕事、教育など生活のあらゆる局面に組み込まれています。
4️⃣ 社会的課題と政策対応:
急速な普及の裏側では、メンタルヘルスや情報の健全性といった課題があり、法的規制や企業の自主的対応が進行中。
5️⃣ マーケティングプラットフォームとしての進化:
SNSはイギリスの企業やブランドにとって不可欠なマーケティングチャネル。今後も「世代」「プラットフォーム」「目的」に応じた活用がカギになります。
おわりに
SNSはイギリス人の日常に完全に溶け込んでいますが、その使い方や影響は人それぞれです。便利な反面、使い方次第では心身に負担がかかることもあります。
私たち一人ひとりが、自分に合ったSNSとの付き合い方を見つけることが大切です。
今後もSNSシーンは進化を続けるでしょう。どのように変化していくのか、ぜひ引き続き注目してみてください。
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