
はじめに
現代社会において、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は人々のコミュニケーションや情報取得の手段として欠かせないものとなっている。その傾向は日本のみならず、イギリスを含むヨーロッパ諸国でも顕著だ。特にイギリスでは、SNS上の「炎上」騒動がメディアで取り上げられたり、TikTokなどのプラットフォームで巨額の収入を得る若者たちが話題になるなど、SNSが文化的にも経済的にも大きな影響を及ぼしている。本記事では、イギリスにおけるSNS炎上とその報道の実態、国民のSNSへの関心や依存度、そしてTikTokで成功しているインフルエンサーの収入事情について詳しく掘り下げていく。
SNS炎上はニュースになるのか?――イギリスのメディアと炎上文化
炎上は「報道価値のある現象」
イギリスでも、日本と同様にSNS上での炎上事件はしばしば報道される。ただし、イギリスにおける「炎上」は、日本ほど細かなマナー違反に敏感ではなく、社会的・政治的な発言や人種・ジェンダーに関わる問題が火種になるケースが多い。
例えば、BBCやThe Guardian、The Independentといった大手メディアは、著名人や政治家がSNSで差別的・攻撃的な発言を行った場合、それを即座に報道する。また、いわゆる「キャンセル・カルチャー(Cancel Culture)」が強く根付いているため、SNS上での過去の投稿が掘り返されて非難されるケースも多い。こうした出来事はしばしば公共的な議論を巻き起こし、テレビ番組や討論番組でも取り上げられる。
炎上例:ラジオ司会者や有名人の過激発言
2020年には、ラジオ司会者のDanny BakerがTwitterで不適切な画像を投稿し、王室の人種差別問題に関連するとして大きく報道された。また、コメディアンのRussell Brandが過去に投稿した女性蔑視的な発言が再注目され、メディアで炎上したこともある。これらは単なるネット上の騒動ではなく、社会的・倫理的問題として捉えられている。
SNSへの執着と依存――イギリス人はどれだけSNSに夢中なのか?
利用率と傾向:若者は特に高依存
イギリスの通信規制機関Ofcomによる2024年の調査によれば、イギリスのインターネット利用者のうち、約86%が何らかのSNSを日常的に使用しており、特に16〜24歳ではその割合が97%を超える。中でも人気のプラットフォームは、YouTube、Instagram、Snapchat、そしてTikTokである。
これらのSNSは、単なる情報共有ツールではなく、日常生活の一部、あるいは「自己表現」の場として機能している。多くの若者が、自分のアイデンティティや価値観をSNS上で構築・発信しており、それに伴うフォロワー数や「いいね」の数が自己評価に強く影響している現状がある。
メンタルヘルスとの関連も
このようなSNSへの依存は、イギリスの公的医療機関NHSでも問題視されており、特に10代・20代の若者においてSNSがメンタルヘルスに与える影響が懸念されている。自己肯定感の低下や不安感、FOMO(取り残されることへの恐怖)といった精神的な負担が報告されている。
一方で、SNSは友人とのつながりを維持する手段であり、孤立を防ぐ重要な役割を果たしているという側面もある。特に新型コロナウイルスによるロックダウン期間中には、SNSが孤独感を和らげる手段として重宝された。
TikTokで稼ぐという現象――成功者の実態と収入の現実
インフルエンサーとしての「職業化」
イギリスではTikTokが若者を中心に爆発的に普及しており、多くの若者が「TikTokで稼ぐこと」を現実的なキャリアパスとして捉えるようになっている。実際、TikTok上で大きな影響力を持つ「インフルエンサー」は、そのフォロワー数やエンゲージメント率に応じて莫大な収入を得ている。
たとえば、イギリスのTikTokスターであるFrancis Bourgeois(鉄道愛好家のコンテンツで有名)は、ユニークなキャラクター性と一貫したテーマ性により、複数のブランドと契約し、広告収入やグッズ販売、テレビ出演などで年収数十万ポンドを稼いでいるとされる。
実際の収入例:フォロワー数と収入の関係
イギリスでは以下のような収入モデルが一般的とされている。
- フォロワー10万人以上:月収1000〜5000ポンド程度(広告案件次第)
- フォロワー50万人以上:月収5000〜2万ポンド以上(スポンサー契約込み)
- トップ層(100万〜数百万フォロワー):年収10万ポンド(約2000万円)以上
また、TikTokは「クリエイター・ファンド」や「ギフティング」機能を通じて投稿者に報酬を支払っており、ライブ配信での視聴者からの投げ銭も重要な収入源となっている。さらに、書籍出版やテレビ番組への出演など、SNSをきっかけとしたキャリア展開も盛んである。
成功の鍵と課題
TikTokで稼ぐには、単に動画が面白いだけでは不十分だ。アルゴリズムへの理解、投稿頻度、トレンドのキャッチ力、そしてブランドとの交渉力など、マーケティング的な視点も求められる。
ただし、収入は不安定で、アルゴリズムの変更や炎上、アカウントの停止によって一気に収入が途絶えるリスクもある。実際、イギリスではインフルエンサー向けに税務アドバイスやSNS戦略のコンサルティングを行う専門業者も登場しており、SNSを職業として成立させるにはビジネス的な感覚が不可欠になっている。
おわりに:SNSが映し出すイギリス社会の変化
イギリスにおけるSNSの存在感は、年々高まっている。炎上が報道され、国民的議論を呼ぶという点では、SNSが単なる私的な空間を超えて、公共的な言説の場になっていることがわかる。また、SNSへの依存度が高まることでメンタルヘルスへの影響が問題視される一方、若者にとっては自己表現や収入獲得の場としても機能している。
TikTokインフルエンサーの成功例は、SNSが新たな経済圏を生み出していることを示している。そこには夢とリスクの両方が共存しており、今後イギリス社会がこれらの変化にどう適応していくかが注目される。
SNSは現代の鏡であり、その使い方次第で未来は大きく変わる。イギリスでも、その鏡に映る自分たちの姿とどう向き合っていくかが、今後の大きな課題となるだろう。
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