同じ仕事に応募しても、出自が違うと見なされるだけで返事が来にくくなる。街では、同じように歩いていても、警察に呼び止められて所持品を調べられる頻度に差がある。海外で紛争が起きれば、現地の政府や武装組織と関係のないイギリスの住民が、その宗教を理由に攻撃の標的にされることもある。
イギリスで、誰がどのような場面で排除されやすいのか。まず人口の内訳を見たうえで、採用、警察の職務質問、ヘイトクライムという三つの場面を見ていきたい。
白人、黒人、アジア系、イスラム教徒、ユダヤ教徒は何人いる?
比較の対象はイングランドとウェールズ。イギリスのうち、国勢調査と英内務省の犯罪統計で対象地域をそろえられる範囲だ。人口は2021年国勢調査に基づき、当時の常住人口は約5,960万人だった。
| 区分 | 国勢調査での分類 | 人数 | 人口に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 白人 | 民族的背景 | 約4,870万人 | 81.7% |
| 黒人・アフリカ系・カリブ系など | 民族的背景 | 約240万人 | 4.0% |
| アジア系 | 民族的背景 | 約550万人 | 9.3% |
| イスラム教徒 | 宗教 | 約387万人 | 6.5% |
| ユダヤ教徒 | 宗教 | 約27万1,000人 | 0.5% |
白人・黒人・アジア系は、国勢調査では本人が回答する「民族的背景」の大分類だ。イスラム教徒とユダヤ教徒の人数は、別の任意の質問である「宗教」への回答を集計したもの。例えば、アジア系でイスラム教徒と答えた人は両方の行に含まれる。ユダヤ人という言葉には、宗教のほか、民族的・文化的な帰属も含まれうる。表の約27万1,000人は、宗教欄でユダヤ教を選んだ人数だ。民族的背景には、複数の背景を持つ人や、その他の民族的背景を選んだ人もいる。出典は英国国家統計局(ONS)の民族別集計と宗教別集計。
黒人や一部のアジア系住民が直面する壁
オックスフォード大学ナフィールド・カレッジの研究チームは、実際の求人約3,200件に架空の応募書類を送った。職種に見合った技能や資格を設定し、応募者の民族的背景を無作為に変えて、雇用主の反応を比較した。2019年に公表された結果では、少数民族の応募者が白人の英国系応募者と同じだけ前向きな返答を得るには、平均で約60%多く応募する必要があった。とりわけ黒人の英国系やパキスタン系への不利益が大きかった。採用担当者一人ひとりの動機までは分からないが、応募書類から伝わる出自が、面接など次の段階に進む機会を左右しうることを示した実験だ。ナフィールド・カレッジの研究発表
街頭では別の差が見える。2026年3月までの1年間に、黒人・黒人系英国人と自己申告した人が警察の職務質問・所持品検査を受けた人口当たりの件数は、白人の4.1倍だった。この倍率は、どこで警察が検査を行い、誰を呼び止めるかという運用の結果を示す。地域ごとの人口構成や警察活動の違いも関わるため、集計だけで個々の検査の理由までは判断できない。それでも、街を歩いているときに誰が警察から疑いを向けられやすいかを考えるうえで、見過ごせない差だ。英内務省の職務質問・所持品検査統計
イスラム教徒とユダヤ人が標的になるとき
英内務省によると、2026年3月までの1年間に警察が記録した人種・民族に関するヘイトクライムは10万7,926件で、前年比9%増。宗教に関するヘイトクライムでは、イスラム教徒を標的としたものが5,132件で15%増、ユダヤ人を標的としたものが3,162件で10%増だった。イスラム教徒を標的にした事件は記録件数が多く、ユダヤ人を標的にした事件は、国勢調査の宗教別人口を基準にした件数が最も多かった。ただし、これは警察が記録した事件数で、被害者の人数や個人の被害確率とは異なる。同じ人が複数回被害に遭うことがあり、加害者が相手の宗教を思い込んで標的にした事件も含まれる。英内務省のヘイトクライム統計
イスラム教徒への排除がどう広がるかを示したのが、2024年のサウスポート事件後の暴動だ。事件の加害者が「イスラム教徒の難民申請者」だという虚偽情報がネットで広がり、地元のモスクが攻撃された。事件を起こした人物についてのデマが、無関係な住民や礼拝施設に怒りを向ける口実になった。宗教と移民という二つの属性が一緒に語られ、地域で暮らす人々まで「外から来た脅威」と見なされた例だ。イングランド児童コミッショナーの調査報告・英国政府の暴動に関する調査
ユダヤ人に対するヘイトクライムについて、英内務省はイスラエルとハマスの紛争が始まって以降、記録件数が高い水準で推移してきたと指摘する。2025年10月には、マンチェスターのヒートン・パーク・シナゴーグ襲撃事件後に件数が急増した。イスラエル政府の政策を批判することと、イギリスに暮らすユダヤ人にその政策の責任を負わせることは別だ。後者では、目の前の人の意見や行動を知ろうとする前に、その人の帰属だけで立場が決めつけられる。英内務省のヘイトクライム統計
なぜ排除が起きるのか
採用の場では、名前や出自から、その人が職場に合うかどうかを決めつけることがある。街頭では、警察がどこに人員を置き、誰を呼び止めるかという判断の積み重ねが、住民の経験を変える。事件や紛争の後には、不安や怒りが、当事者と同じ宗教や出自だと見なされた人たちに向かう。白人が人口の多数を占めるという一つの数字から、こうした違いは読み取れない。
排除は、モスクやシナゴーグへの襲撃のように、誰の目にも見える形で起こることがある。一方で、応募に返事が来ないとき、本人には何が判断を分けたのか分からない。個人には見えにくいその差を、同じ条件で応募した人たちの結果を比べて初めて確かめられる。誰がイギリス社会の一員として扱われているかは、人口の内訳とともに、こうした日々の扱いに表れる。










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