AIが質問に答え、スマートフォンに写真を保存でき、銀行の手続きがオンラインで完結する。その便利さを支えているのが、大量のコンピューターを収容するデータセンターだ。ところがイギリスでは、その建設に反対する住民の動きが各地で目立ち始めている。環境団体Global Action Planは2026年9月、リーズ、スラウ、ロンドンのパーク・ロイヤルなどで反対運動が起きていると報告した。House of Commons Library
「AIで経済成長」と聞けば、将来への投資に思える。しかし、建設予定地の近くに住む人にとっては、電力や水の確保、騒音、田園風景の変化という身近な問題になる。便利さの恩恵と、施設を受け入れる負担をどう分かち合うのかが問われている。
デヴォン州北部のグレート・トリントン周辺では、Xlinksが大型AIデータセンターと蓄電設備などを組み合わせた「Devon data campus」を提案している。事業者はAI向け計算設備の容量を1.5GWと説明し、完成後に650~1,200人の恒久雇用を生むと見込む。ただし、これは事業者の計画・予測であり、実現が確定した数字ではない。devondatacampus.com
一方、景観保護団体CPRE Devonは、農地への大規模開発や建物の景観、水使用、騒音に懸念を示している。同団体によれば、6月の住民集会には会場に入りきれないほどの人が集まったという。CPRE Devon
ここで生じているのは、同じ土地を巡る評価の違いだ。事業者には電力への接続や冷却条件に恵まれた場所でも、住民には日常の風景や自然環境である。国の成長戦略だけでは、その違いは埋まらない。
自治体が反対しても、国の判断で計画が認められる例もある。ハートフォードシャー州アボッツ・ラングリーでは、自治体が拒否した約8万4,000平方メートルのデータセンターについて、政府が判断を覆し、2025年に大枠の開発許可を認めた。Three Rivers District Councilの代表は、景観への影響や地域への利益の乏しさを理由に、強い失望を表明している。Three Rivers District Council
国にとって重要なインフラでも、隣接する地域が納得しているとは限らない。計画の必要性を説明するだけでなく、地元の懸念がどのように設計や条件へ反映されたかを示す必要がある。
電力については、施設単体の大きさに加え、同じ地域に集まることの影響がある。電力系統を運営・計画するNESOは、既存施設がロンドンとイングランド南東部に集中し、一部地域の電力網に追加の圧力を生んでいると説明する。一方、再生可能エネルギーと送電網の条件を踏まえた立地には、系統の混雑を和らげる可能性もあるとしている。DCU0081
このため、データセンターが増えれば家庭の電気代が必ず上がる、と単純には言えない。立地や利用時間、設備増強の費用負担によって結果は変わる。問うべきなのは、必要な電力をどう確保し、そのための費用を誰が支払うのかという点だ。
水の問題も、施設ごとの違いを見る必要がある。コンピューターから出る熱を処理するために水を使う方式もあれば、空気や冷媒を中心に冷却する方式もある。techUKが環境庁と協力して行い、2025年に公表した調査では、回答した施設の51%が水を使わない冷却方式を採用していた。techUK
この結果を見れば、すべての施設を「大量の水を浪費する建物」と扱うのは正確ではない。ただし、調査対象の既存施設の傾向から、今後の巨大なAI施設の使用量まで判断することもできない。
政府自身も2026年10月28日の声明で、水不足の影響を受ける地域での需要増加を懸念し、冷却方式によっては節電と節水が両立しにくいことを認めた。住民への説明では年間使用量だけでなく、暑い日に必要となる最大使用量や、水不足時の対応も重要になる。UK Parliament
騒音についても、冷却設備の影響を確認する必要がある。CPRE Devonは提案された施設の冷却に伴う音を懸念し、事業者が敷地境界で背景騒音を上回らないことを目指していると報告している。これは現時点の懸念と設計目標であり、被害が発生したという意味ではない。それでも、自宅近くの設備が長時間稼働するなら、夜間の予測値や完成後の測定方法まで知りたいと考えるのは自然だ。CPRE Devon
雇用への期待にも、丁寧な確認が必要になる。英国下院図書館の解説は、データセンターは高度に自動化されており、規模や投資額に比べて直接雇用が比較的少ないと指摘している。House of Commons Library
巨額の投資が、そのまま同規模の地域雇用になるわけではない。工事中の仕事、稼働後に残る仕事、周辺産業への波及効果を分けて示し、地元の人がどの仕事に就けるのかまで説明してこそ、地域の利益を判断できる。
こうした中、英国政府は10月28日、「Data Centre Covenant」を公表した。追加の政府支援を受ける戦略的な施設には、エネルギー関連費用の適正な負担、地域への投資計画、環境への配慮、雇用・訓練などを求める考え方を示している。GOV.UK
同日の水・エネルギーに関する声明では、全事業者に対して使用量などの年次報告を強く促した。ただし、全施設への一律の法定報告義務が始まったという発表ではない。政府は自主的な情報提供を期待し、不十分な場合には法定制度の必要性を検討するとしている。UK Parliament
スコットランドでも監視を強める動きがある。政府は9月、電力容量が50MWを超える新規データセンターの計画について、環境影響評価を必要とする指示を公表した。英国の中でも計画制度は異なるが、環境への影響を開発判断に組み込もうとする動きが進んでいる。gov.scot
データセンターには必要性がある。AIだけでなく、金融、医療、公共サービスなどを支える基盤であり、英国政府も2024年に重要国家インフラに位置付けた。House of Commons Library
それでも、必要な施設だから地域が無条件に受け入れるべきだとは言えない。本稿では、電力・水の使用量の公開、実効性のある騒音対策、費用負担の説明、そして地域に残る利益の具体化を、建設を進めるうえで重視すべきだと考える。
私たちが「クラウド」と呼ぶものも、実際には誰かの暮らす土地に建ち、電気と水を使う。イギリス各地の反発は、デジタル社会の便利さを支える負担を、これから誰が引き受けるのかという問いを突き付けている。









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