アンディ・バーナム英首相が、自分が生きている間にイギリスがEUに復帰することを望むと語った。10月26日のITVの番組での発言だ。ただし、現在の議会任期中に再加盟を進めることは否定し、国民の意思を先取りしないとも説明している。
その留保を踏まえても、私は首をかしげた。
フランス、スペイン、ベルギー、イタリアで、生活への不満が噴き出している今、なぜEU復帰への希望を前面に出すのだろうか。首相は、欧州各国から届くニュースをどのように受け止めているのだろう。
EUとの関係を考えるのであれば、私はまず、いまの欧州で人々が何に苦しんでいるのかを直視する必要があると思う。
フランスでは生活費や公共サービスへの不満、スペインでは家賃高騰や住宅難、ベルギーでは教育や緊縮政策、イタリアでは物価や経済状況をめぐる抗議が報じられている。国によって事情は異なるものの、暮らしを維持する難しさが政治への不満につながっている点は共通している。
こうした状況を見ると、EUに所属しているだけで国民の生活が安定するわけではないことが分かる。「EUに戻れば英国の問題が解決する」という期待だけで、復帰論を進めてほしくない。
雇用の問題もある。
もちろん、「欧州のどの国にも仕事がない」とひとくくりにすることはできない。Eurostatによると、2026年8月のEU全体の失業率は6.1%、25歳未満の失業率は15.4%だった。国や地域による違いを考える必要があるが、仕事を求める若者の将来が、決して明るい話ばかりではないと私は感じる。
そこで私が懸念するのは、英国が再加盟し、人の自由移動が再び広く認められる場合に、英国で仕事や生活の立て直しを目指す人が増える可能性だ。
自国で十分な収入や仕事を得られなければ、別の国に可能性を求める。その行動自体は理解できる。しかし、受け入れる英国の住宅、雇用、医療、学校、自治体サービスをどう整えるのかは、政府が答えるべき問題だ。
仮に移住が短期間に特定の地域へ集中すれば、住まいや公共サービスへの需要はどうなるのか。必要な投資が間に合わなかった場合、その負担を住民や自治体に押しつけることにならないか。私は、その点を強く心配している。
一方、人の移動によって必要な働き手や納税者が増える可能性もある。だからこそ政府には、移住者の人数だけでなく、就労、税収、住宅需要、公共サービスの費用まで含めた試算を示してほしい。期待される利益と、必要になる備えの両方を見て判断したい。
そして、私が気になる社会保障の問題も、制度を正確に押さえて議論する必要がある。
EUの現行ルールでは、別の加盟国へ初めて仕事を探しに来た人に、その国の所得支援などが自動的に認められるわけではない。したがって、英国が復帰すれば、生活に困った人が押し寄せて直ちに生活保護を受けられる、と断定することはできない。
英国が将来再加盟する場合に、どのような条件が決まり、国内の給付制度がどう適用されるかも、現時点で決めつけるべきではないと思う。
ただ、それで私の懸念がなくなるわけではない。
移住後に仕事が見つからなかった場合、誰がどの条件で支援を担うのか。生活を支える給付の対象や財源をどうするのか。自治体にはどの程度の準備が必要なのか。首相には、こうした具体的な問題を、復帰への希望と同じ熱意で説明してほしい。
私が今回の発言に違和感を覚えるのは、政治家が思い描く将来と、日々の生活を守ろうとする人々の関心に距離を感じるからだ。
食費や光熱費、家賃、仕事の見通し。そうした問題に向き合っている人にとって大切なのは、EU復帰によって自分の生活がどう変わるのかという点だ。負担が増える可能性があるなら、その対策まで知りたい。
欧州各地で生活不安が表面化している今は、私には、復帰への願望を先に語るには極めて悪いタイミングに思える。
首相自身の長期的な希望として述べたことは理解している。それでも、一国の首相の言葉には重みがある。EUとの関係をどう変えたいのかを語るなら、その時点の欧州の現実と、英国の受け入れ能力を踏まえた説明が必要だ。
「生きている間にEUへ戻りたい」という願いを聞いて、私がまず知りたくなったのは、今を生きる英国の人々の暮らしを、どう守るつもりなのかということだった。
その答えが十分に示されないまま復帰への希望が語られることに、同じような疑問を抱く人がいても不思議ではないと思う。









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