
1. 歴史的背景
イギリスには長い玩具文化の歴史があります。18世紀から19世紀にかけて、産業革命によって大量生産が可能となったことで、子ども向けの玩具が庶民にも手の届く存在になりました。ロンドンを中心に、おもちゃ専門の商店が登場し、20世紀になるとチェーン店型の大規模おもちゃ屋も増加していきました。
2. 現代の主な店舗形態
現代のイギリスにおけるおもちゃ屋は、大きく以下の3タイプに分類されます。
a. 大型チェーン店
代表的なのが「Smyths Toys(スミス・トイズ)」や「The Entertainer(ジ・エンターテイナー)」といった全国規模で展開する店舗です。Smyths Toysはヨーロッパ各国にも進出しており、在庫の豊富さや店舗の広さが特徴です。The Entertainerは1970年代創業で、現在ではイギリス国内で100店舗以上を展開しています。
b. 高級・専門店
ロンドンの「Hamleys(ハムレイズ)」は世界的にも有名な高級おもちゃ店です。1760年創業という長い歴史を持ち、世界で最も古く、最大級のトイショップとされています。ハムレイズは観光名所としても有名で、世界中の観光客が訪れます。
c. 地元密着型の独立店
地方都市や郊外に多く見られるのが、独立系の小規模なおもちゃ屋です。地元の人々に親しまれており、独自のセレクションやサービスで差別化を図っています。エコ志向や教育的要素を重視した品揃えも特徴です。
おもちゃ屋さんに訪れる人々
おもちゃ屋を訪れるのは単に子どもたちだけではありません。多様な年齢層、目的を持った人々が日々店舗を訪れています。
1. 子ども連れの家族
最も多いのが、親子での来店です。週末になると、家族でショッピングモールに出かけ、おもちゃ屋に立ち寄るのが一般的なレジャーの一つです。親は誕生日やクリスマスのプレゼント選びに、子どもはただ見るだけでも興奮と楽しみを感じています。
2. 祖父母
祖父母がおもちゃを買ってあげるという文化も根強くあります。とくに季節イベントや孫の誕生日の前後には、シニア世代の来店が増加します。彼らは質の高い、教育的な玩具や、クラシックなおもちゃを好む傾向があります。
3. 観光客
ハムレイズなどの有名店には世界中から観光客が訪れます。イギリス製のおもちゃ、特に「パディントンベア」や「ピーターラビット」など、イギリスならではのキャラクター商品はお土産としても人気です。
4. コレクターや大人のファン
レゴ、フィギュア、プラモデルなどは、子どもだけでなく大人のファンにも支持されています。特に「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」などのフランチャイズ製品は根強い人気があります。一部の店舗では大人向けの専用セクションを設けているところもあります。
おもちゃ屋の規模とその特徴
1. 小規模店(20〜100平方メートル)
地元商店街などに見られる独立店の多くはこの規模です。店主が自ら買い付けを行い、地域のニーズに応じた品揃えを行っています。手作り玩具や木製パズル、知育玩具などを取り扱うことが多く、アットホームな雰囲気が特徴です。
2. 中規模店(100〜500平方メートル)
The Entertainerなどの中堅チェーンが多くこの規模に該当します。ショッピングモールや駅前に店舗を構え、家族連れを主なターゲットとしています。商品はカテゴリー別に整然と陳列されており、デモンストレーションやイベントも積極的に実施されます。
3. 大規模店(500平方メートル以上)
Hamleysや大型Smyths店舗が該当します。複数階にわたる売り場を持ち、玩具だけでなく、衣料品、文房具、ゲーム、書籍まで取り扱う「キッズ・ライフスタイルショップ」としての側面も持っています。VR体験やアニメ上映、キャラクターショーなど、テーマパーク的な要素も取り入れています。
オンラインとの共存と競合
イギリスではAmazon UKやArgos、John Lewisといったオンライン小売業者もおもちゃを多数取り扱っています。そのため、おもちゃ屋には対面ならではの体験やサービスが求められています。試遊スペースの設置、スタッフの丁寧な説明、子ども向けイベントなどが差別化のカギとなっています。
パンデミック以降、オンライン販売が急速に拡大したものの、「実際に手に取って選びたい」というニーズは根強く残っており、多くの実店舗がオンラインとリアルのハイブリッド経営を行っています。
イギリス社会におけるおもちゃ屋の役割
おもちゃ屋は単なる販売店ではなく、教育、情緒、文化の面でも重要な役割を果たしています。STEAM教育(科学・技術・工学・芸術・数学)を意識した玩具の普及や、ジェンダーにとらわれない商品陳列、地球環境に配慮したエコ玩具の推進など、社会的な変化を反映する存在にもなっています。
まとめ
イギリスにはさまざまなおもちゃ屋さんが存在し、それぞれが地域性、客層、規模に応じた個性を発揮しています。家族連れから観光客、コレクターまで、訪れる人々の背景は多様であり、おもちゃ屋は単なる買い物の場を超えた「体験と感動」の場として愛され続けています。
おもちゃ屋という空間は、時代が変わってもなお、人々の心をとらえ続ける魅力に満ちています。イギリスの街角で見つけた一軒のおもちゃ屋が、あなたにとっても忘れられない記憶になるかもしれません。
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