アメリカを操る影の手?「イギリス支配説」の真相に迫る

はじめに

現代の国際政治において、アメリカ合衆国は圧倒的な軍事力と経済力を持つ超大国として、世界に多大な影響を及ぼしている。しかし一部では、「実はアメリカは独立国ではなく、いまだにイギリスに支配されている」とする説が存在する。これは単なる陰謀論に過ぎないのか、それとも何らかの歴史的背景や事実に根ざしたものなのか。本稿では、「アメリカ=イギリスの傀儡」説の起源や主張を整理し、その信憑性について検証していく。


「イギリス支配説」とは何か?

この説は、主に以下のような主張を含む。

  1. アメリカは実質的に英国王室(またはシティ・オブ・ロンドン)に支配されている
  2. アメリカの独立戦争は茶番であり、真の独立は果たされなかった
  3. 連邦準備制度(FRB)は英国資本により創設され、アメリカの金融政策はイギリス資本の意向に沿って動いている
  4. 国際金融資本(ロスチャイルド家など)を通じてイギリスがアメリカを間接支配している

これらの主張は、特に陰謀論系のメディアやインターネット上で多く語られてきた。一見すると筋が通っているように思える部分もあるが、事実と照らし合わせて検証していく必要がある。


歴史的背景:独立したはずのアメリカ

アメリカは1776年の独立宣言により、イギリスからの独立を宣言した。1783年のパリ条約により正式に独立が承認され、イギリスとの戦争も終結する。以後、アメリカは独自の憲法と三権分立制度のもとで国家運営を行ってきた。

しかし、陰謀論者たちはこう主張する。「表向きには独立していても、実は金融・法制度・外交において、いまだイギリスの影響下にある」と。


シティ・オブ・ロンドンの影響力

陰謀論の中で頻繁に登場するのが「シティ・オブ・ロンドン」だ。これはロンドン市内にある自治権を持つ金融特区であり、多くの銀行や証券会社が集中する国際金融センターだ。

この地域には独自の市長や法制度があり、しばしば「イギリス政府よりも強力な力を持つ」と語られる。陰謀論では、アメリカの連邦準備制度や主要銀行がこの「シティ」と密接に結びついているとされる。

たしかに、シティは世界金融の中心地のひとつであり、米英の銀行や資本家たちのネットワークは非常に緊密である。しかし、これを「イギリスによる支配」と断定するのは論理の飛躍がある。


連邦準備制度とイギリス資本

FRB(Federal Reserve Board)は1913年に設立されたアメリカの中央銀行制度であり、その設立にはロスチャイルド家やイギリス系の銀行資本が関与したとする説がある。

たとえば1910年、ジョージア州ジキル島で秘密裏に行われたとされる「ジキル島会議」は、後のFRB設立につながる出来事として知られている。この会議には、ロックフェラーやモルガンといった米英の大資本家が参加したとされる。

しかし、FRBは議会によって設立され、理論上は独立した公共機関である。民間銀行が出資しているのは事実だが、それが「英国による支配」を意味するわけではない。


法制度と「法人アメリカ」説

もう一つの奇抜な主張は、「アメリカ合衆国は実は株式会社であり、1871年の法律によってワシントンD.C.がコロンビア法人として設立された」とするものである。

この説では、「United States of America」と「THE UNITED STATES」は別の法人であり、後者がロンドンの国際金融勢力により運営されているとされる。

しかしこの主張も誤解に基づいている。1871年の法律は、ワシントンD.C.の行政効率化を目的としたものであり、アメリカ合衆国が「株式会社」になったという公式な記録や法的根拠は存在しない。


国際金融資本=イギリスか?

ロスチャイルド家、ロックフェラー家、ウォーバーグ家などの国際金融資本が米英両国に巨大な影響力を持っていた(あるいは現在も持っている)ことは否定できない。しかし、これを「イギリスによるアメリカ支配」とみなすには無理がある。

むしろこれらの資本は国籍を超えたグローバルなネットワークであり、アメリカ国内の企業や政治家もそのネットワークに組み込まれている。影響力の所在は国家ではなく、経済的な利益共同体にあると考える方が実態に即しているだろう。


エリザベス女王はアメリカの「上司」か?

一部では、「アメリカの裁判所はイギリス王室に忠誠を誓っている」といった主張もなされる。これは主に、アメリカの弁護士や判事が所属する「インナー・テンプル」(ロンドンの法曹院)との関連を根拠にしている。

しかし、アメリカの司法制度は独自に発展しており、イギリス王室とは制度的にも人事的にも無関係である。王室に対する「忠誠」なるものが法的に義務づけられている証拠も存在しない。


なぜこのような説が広まるのか?

「アメリカは実は支配されている」という構図は、陰謀論に典型的な「単純でわかりやすい敵」を提示する。複雑な政治・経済の現実を理解するのは困難だが、「背後に黒幕がいる」と信じることで安心感を得ることができる。

また、アメリカ政府やエリート層への不信感が高まるたびに、こうした説が再浮上する。社会的不満や経済格差、戦争政策への疑念が陰謀論を助長する温床となる。


結論:事実と陰謀論を見分ける目を

確かに、アメリカとイギリスは歴史的にも文化的にも深い関係があり、国際金融資本を通じた連携も存在する。しかし、これをもって「アメリカがイギリスに支配されている」とするのは、根拠に乏しい。

私たちが求めるべきは、陰謀論に飲み込まれることではなく、事実とフィクションを冷静に見分ける批判的思考である。情報の出所を確認し、感情的な訴えではなく論理と証拠に基づいた判断を行うことが、現代を生きる我々に求められている。


参考文献(抜粋)

  • Carroll Quigley, Tragedy and Hope: A History of the World in Our Time
  • G. Edward Griffin, The Creature from Jekyll Island
  • David Rothkopf, Superclass: The Global Power Elite and the World They Are Making
  • US National Archives, Founding Documents
  • Federal Reserve Education, History of the Federal Reserve

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