イギリスでしか見られない珍しい職業5選 – 歴史と伝統に支えられた特異な仕事の世界

イギリスという国は、世界的に見ても独特な文化と長い歴史を持つことで知られています。その影響は職業の世界にも色濃く反映されており、現代では想像もつかないような、他国ではほとんど見られないような職業が今もなお存在しています。本記事では、そんなイギリス特有の珍しい職業を5つ厳選し、それぞれの背景や仕事内容、報酬事情などを掘り下げてご紹介します。


1. クイーン・スワン・アップパー(Queen’s Swan Upper)

伝統と生態系保護が融合した儀式的職業

クイーン・スワン・アップパーとは、テムズ川に生息する白鳥(特にミュートスワン)の個体数を調査し、王室所有の白鳥を保護するための伝統的な職業です。毎年7月に行われる「スワン・アッピング(Swan Upping)」という儀式的イベントが最大の仕事です。

スワン・アッピングは、テムズ川を小舟で下りながら白鳥の家族ごとに捕獲し、体重、健康状態、指輪による個体識別番号のチェックなどを行います。この行事は12世紀から続いており、現在では環境保護活動の一環としても重視されています。

報酬と勤務形態

この仕事は年に一度、約1週間だけ行われる名誉職的な位置づけで、日当はおおよそ£100〜£150程度。伝統の担い手としての価値が高く、報酬面では副業・ボランティア的な側面が強いです。

興味深い点

スワン・アップパーは白鳥と直接接する数少ない職業であり、動物愛護、文化継承、そして歴史的イベントの三位一体を実現しています。毎年の行事には制服を着たスタッフが参加し、王室船と共に川を進む様子はまるで時代劇のようです。


2. ビーフィーター(Yeoman Warder)

ロンドン塔を守る“生きた歴史”

通称ビーフィーターと呼ばれるこの職業は、ロンドン塔の警備と観光案内の両方を担う職種です。歴史的な衣装を身にまとい、観光客にロンドン塔の歴史を語りつつ、実際には儀式的な守衛の役割も果たしています。

就任条件と職務内容

ビーフィーターになるためには、最低でも22年以上の軍務経験が求められ、さらに無傷の軍歴と優れた人格が必要とされます。彼らは観光ガイドとして日々ロンドン塔を案内し、夜間には「カーモニー(Ceremony of the Keys)」という儀式的な閉門作業も担当します。

待遇と生活

年収は約£30,000〜£35,000で、ロンドン塔の敷地内に住居が提供されるという特典があります。住宅費や光熱費の一部が支給されることから、実質的な生活コストはかなり抑えられます。

興味深い点

ロンドン塔内で生活し、600年以上続く伝統を日常として生きるというのは他にない体験です。観光客と直接触れ合うことができるため、文化大使のような側面もあります。


3. 王室時計職人(Royal Horological Conservator)

精密技術と伝統美を支える職人芸

王室時計職人は、王室所有の数百ものアンティーク時計を維持・修理・調整する専門家です。バッキンガム宮殿、ウィンザー城、サンドリンガム・ハウスなどに設置された時計の多くは、数百年の歴史を持ち、極めて繊細な調整が求められます。

季節の大仕事:夏時間・冬時間の調整

この職業で特に注目すべきは、年に2回訪れる「サマータイムの切り替え」時期です。この際、すべての時計を一つひとつ手動で調整する必要があります。1人で何百もの時計をチェックする作業は、物理的にも精神的にも集中力を要するタスクです。

報酬とキャリアパス

年収は£40,000〜£50,000程度。修復技術だけでなく、歴史的価値に対する深い理解と、王室関係者とのコミュニケーション能力も求められます。雇用は王室美術館・コレクション部門や王室家政部によって管理されています。

興味深い点

この職は単なる技術者ではなく、時を刻む王室の“記憶”を守る文化の番人ともいえます。数百年の歴史を持つ時計を動かし続けるという行為自体が、時間に対する敬意の表れです。


4. プロフェッショナル・ティスター(Professional Tea Taster)

紅茶大国の味覚エリート

イギリス人にとって紅茶はただの飲み物ではなく、国民的な文化そのもの。そんな紅茶文化を支えているのが、プロフェッショナル・ティスターという職業です。

仕事内容とスキル

ティスターは、世界各地から集められる茶葉をテイスティングし、品質を判定、ブレンドの調整を行います。1日あたりに試飲する茶葉の数は数十種に及び、香り・風味・後味などを数値化・分類しながらデータベース化していきます。

この職には、味覚と嗅覚に優れた感覚が求められ、時には訓練によって味覚神経を鍛えることもあります。大手企業では、独自のブレンドを生み出す開発部門にも携わります。

年収と待遇

年収は経験によって大きく異なり、£25,000〜£60,000程度が一般的。特に有名ブランドのチーフティスターになるとそれ以上の報酬も得られます。ティスター用の特注スプーンを所有し、茶葉の生産地を実際に訪れる機会も多く、国際的な仕事でもあります。

興味深い点

味覚という人間の感覚を極限まで研ぎ澄まし、それを商品としての「味」に変換するプロセスは、アートに近いとも言えます。まさに職人と科学者の融合といえるでしょう。


5. ナイトゥード・アドミニストレーター(Knighthood Administrator)

現代に生きる“騎士制度”の裏方

騎士の称号(ナイト、デイム)というと中世の話のように思えますが、イギリスでは現代でも国家によって名誉称号として授与されています。その選考や推薦、背景調査、授与式の企画運営を行うのが「ナイトゥード・アドミニストレーター」です。

仕事内容と組織構造

この職種は、内務省や首相府の名誉局(Honours and Appointments Secretariat)に所属し、数多くの申請・推薦書類の精査、対象者の功績確認、王室との連携を図ります。さらに、授与式ではチャールズ国王や王族のスケジュール調整も行います。

報酬と必要スキル

年収は£30,000〜£55,000ほど。公務員としての給与体制であり、業務内容には高い信頼性と機密性、歴史的知識と礼儀作法が求められます。法務、歴史学、国際関係の専門家が多く就いています。

興味深い点

表舞台に立つことはないものの、名誉制度の裏で厳密な審査と調整を行うこの仕事は、イギリス社会における“名誉”や“格式”という概念を支える非常に重要な存在です。


まとめ

イギリスの珍しい職業は、その多くが単なる仕事というよりも“文化の継承者”という役割を果たしています。これらの職業に共通しているのは、歴史、儀式、そして専門性の三本柱。いずれも数百年にわたり続いてきた伝統を今に伝えるものであり、報酬を超えた誇りと責任を伴うものです。

観光や移住を通してイギリスと関わる機会があるなら、こうした職業の背景を知っておくことで、より深い文化理解が得られることでしょう。

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