イギリスにおける「現代奴隷」:法律の網をすり抜ける搾取の実態

13万人が被害か:表面化しない現代奴隷

イギリスでは、人身売買や強制労働、性的搾取など、いわゆる「現代奴隷(modern slavery)」が深刻な問題となっています。英内務省の2024年の統計では、19,125人が「潜在的な被害者」として国家紹介メカニズム(NRM)に登録されましたが、実際の被害者は13万人以上に上る可能性があると推計されています。

被害者は農業、建設、介護、性産業、清掃、家庭内労働など多様な分野で発見されており、イギリス国内のほぼ全地域にその痕跡があります。

現場での「目撃証言」はあるのか?

表向きには分かりにくいものの、市民や労働者の間では「怪しい現場」を目撃したという証言もあります。建設現場で同じ服を着た外国人労働者が言葉を交わさず長時間働いていた、レストランの裏口で深夜まで出入りする若者がいた、というような「異常な労働環境」が通報されることもあるのです。

BBCやThe Guardianなどの報道によれば、近所の住民や業者が「何かおかしい」と感じたことで発覚したケースも複数あります。しかし、多くの被害者は加害者の支配下で恐怖や依存状態にあり、自ら助けを求めることはほとんどありません。

どこから来ているのか?

被害者の出身国は、アルバニア、ベトナム、ルーマニア、ナイジェリアなど、政治的・経済的に不安定な国が多く、彼らは「よりよい生活」を求めてイギリスへ渡った末に搾取されています。一部は移民ブローカーや人身売買組織によって騙され、借金を背負わされ、パスポートを取り上げられ、逃げられない状況に置かれています。

「現代奴隷法」の限界

2015年に制定された現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)は、企業にサプライチェーン上の奴隷労働の有無を調査し、報告することを義務付けています。しかし、企業の報告は自己申告に過ぎず、罰則も実効性に乏しいため、実際には多くのケースが見逃されています

また、移民政策の厳格化が被害者の「沈黙」を助長しているという指摘もあります。支援を求めれば強制送還されるのではないかという恐怖から、政府の保護制度を避け、加害者のもとにとどまるケースが後を絶ちません。

実際に起きたケース:企業と著名人

以下のように、具体的な事件も報告されています:

  • テート兄弟事件:元キックボクサーのアンドリュー・テートとその兄弟トリスタンは、女性に対する人身売買や性搾取の容疑で起訴され、現在も裁判中です。彼らはネット上での影響力を利用し、女性を「高収益の配信ビジネス」に従事させていたとされています。
  • マクドナルド店舗での搾取事件:ケンブリッジシャーのマクドナルドでは、チェコ人の犯罪組織が16人の被害者を低賃金で長時間働かせ、賃金を奪っていたことが発覚しました。地域住民の通報がきっかけで捜査が始まりました。

制度改革の必要性

イギリス政府は、国民保健サービス(NHS)の調達過程にも強制労働のリスクを反映させるなど、新たな対策を講じようとしていますが、実効性は未知数です。

人権団体は、「報告書を書くこと」ではなく、労働現場への立ち入り調査や被害者支援の拡充が必要だと警告しています。特に、被害者が安心して保護を求められる制度作りと、企業への罰則強化が急務です。


結論:あなたの隣にも“現代奴隷”はいるかもしれない

現代奴隷は、かつてのように鎖でつながれているわけではありません。彼らは、心理的、経済的な支配のもとで沈黙を強いられ、見えないところで搾取されています。その存在に気づくためには、私たち一人ひとりが「当たり前」の裏側に目を向ける必要があります。

イギリスがこの問題を本気で解決するには、法の強化だけでなく、社会全体の感度と連携が問われているのです。

追記

イギリスの現代奴隷の扱いって、日本のブラック企業で働く人たちの状況とちょっと似てると思いませんか?そう考えると、日本にも“現代版の奴隷制度”みたいなものがあるのかもしれません。ただ、働いている本人たちがそれに気づいていないだけなのかも…。

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