
「イギリスでは電気・ガス・水道代を払わなくても止められない」
そんな噂を耳にしたことがある人は少なくないでしょう。特に日本から移住を検討している人や、現地で暮らし始めたばかりの人にとっては、この問題は生活に直結する大きな不安要素です。
果たしてこれは事実なのでしょうか?本記事では、イギリスにおける電気・ガス・水道料金の支払いと供給停止に関する制度や実態について、分かりやすく解説していきます。
1. 「止められない」という噂の背景
この「止められない」という言い方には誤解が含まれています。
確かにイギリスには、支払いが滞った際に直ちに供給を停止するのではなく、様々な支援や猶予措置を経てから対応するという特徴的な仕組みがあります。
特に水道料金については、イングランド・ウェールズでは法律により、家庭用水道の供給停止は原則として禁止されています。これが「払わなくても水道は止められない」という解釈を生んでいる理由の一つです。
一方、電気・ガスについても、脆弱な世帯や冬季に対する保護が非常に手厚く、支払いが滞ってもすぐには止められません。しかし、これは「支払わなくても良い」という意味ではなく、「止めるのは最終手段である」という運用上の配慮です。
2. 電気・ガス料金滞納時の対応
イギリスでは光熱費の支払いを怠ると、どのようなプロセスが待っているのでしょうか。
大まかに次のような流れになります。
2-1. 督促と支払い計画の提案
まず、請求書の支払い期限を過ぎた場合、電気・ガス会社は督促状を送付します。督促状には未払い金額や支払い期限だけでなく、支払いが困難な場合に利用できる相談窓口や分割払いなどのオプションについても記載されます。
この段階で連絡を取り、支払い計画(例えば分割払い)を組めば、多くの場合は問題ありません。
2-2. プリペイドメーターの提案
それでも支払いが滞る場合、次に会社は「プリペイドメーター」の設置を提案してきます。これは事前にチャージをしておかないと電気・ガスが利用できない仕組みです。つまり、滞納者がこれ以上借金を増やさず、使う分だけ支払う仕組みに移行させる措置です。
これは完全な停止ではありませんが、滞納者に対する「事実上の制限」と言えるでしょう。
2-3. 供給停止の手続き
それでも支払いがなされず、なおかつプリペイドメーター設置にも応じない場合、会社は裁判所の許可を得た上で供給停止に踏み切ることができます。
ただし、ここでも以下のような「停止を控えるべき状況」が考慮されます。
- 高齢者が居住する世帯
- 子どもがいる家庭
- 障がい者のいる家庭
- 医療機器に依存している人が住む家
これらの場合、特に冬季(10月から3月)は停止を回避するルールがあります。したがって、実際には停止されるのは「長期的に滞納し、かつ状況的に保護対象でない人」がほとんどです。
3. 水道料金滞納時の対応
イギリスにおける水道については、さらに特別な事情があります。
3-1. 家庭用水道の供給停止は禁止
1999年に制定された法律により、イングランド・ウェールズでは「家庭用水道の供給を滞納を理由に停止することは禁止」されています。つまり、支払いが遅れても、水道だけは止められないというのは「事実」です。
この法的保護は、生活必需品としての水の重要性を反映したものです。特に低所得世帯や社会的弱者の生活維持が目的にあり、イギリス社会が「水を止めること」を人道上の問題と捉えていることがよく分かります。
3-2. ただし支払い義務は残る
もちろん、支払い義務そのものが免除されるわけではありません。滞納が長期化すれば、訴訟を通じて未払い分の請求が行われ、差し押さえなど法的手段によって強制的に取り立てられることもあります。
つまり「払わなくてよい」のではなく、「止められない」というだけのことです。
4. なぜこのような制度になっているのか?
この仕組みは、イギリスが「脆弱な人々への社会的配慮」を強く意識して制度設計していることによります。電気・ガス・水道は生存に不可欠なライフラインであり、社会全体として「滞納者をただ罰するのではなく、支えながら問題を解決する」という考えが根底にあります。
また、実際に供給を止めることは健康被害や生命へのリスクにつながりかねません。特に寒冷な冬季に暖房を失うことは深刻な問題であるため、慎重に扱われます。
5. 実際に停止されるケースはあるのか?
では、「全く止められない」と考えて良いのでしょうか。
答えは「いいえ」です。
支払い義務を果たさず、支援制度にも応じず、連絡を絶った場合などには、電気・ガスについては最終的に停止措置がとられることがあります。
ただし実際に「電気やガスが停止された」という事例は少なく、停電・ガス停止の多くは機械的・物理的トラブルであり、滞納によるものは比較的稀です。
水道については先述の通り、法律上停止できません。
6. 生活者へのアドバイス
イギリスで暮らす場合、支払いが困難になりそうな時は以下のポイントを意識することが重要です。
6-1. 早めに相談する
イギリスの公共料金会社は「支払い計画」を柔軟に組めることが特徴です。分割払い、小口払い、さらには福祉制度を通じた補助まで、相談すれば多様な選択肢が提案されます。滞納しそうになったら早めに電話やメールで連絡することが第一です。
6-2. 脆弱世帯としての登録
高齢者や障がい者、子どもを育てている世帯などは、「Priority Services Register」に登録することで保護が受けられます。これにより供給停止を回避できたり、支払いについて特別なサポートが受けられます。
6-3. メーター記録の確認
自宅にスマートメーターが設置されている場合も含め、定期的にメーターを確認し、使用量を把握することが重要です。過大請求や計測ミスが起きた場合にも、自分の記録が有効な証拠になります。
7. 誤解されやすい「止められない」の真実
「支払いをしなくても使い続けられる」という誤解は、次のような理由から広がっています。
- 水道の供給停止が法律で禁止されていること
- 電気・ガスの停止が非常に慎重に運用されていること
- 社会的弱者に対する保護が手厚いこと
- プリペイドメーターや支払い計画の制度があり、実際に完全停止に至る例が少ないこと
これらを背景に「止められない」という印象が生まれたのですが、制度としては「最終的には止められる可能性がある(電気・ガスの場合)」という点を見落としてはいけません。
8. まとめ
イギリスでは、光熱費を支払わなくてもすぐに止められることはなく、相談と猶予措置が優先されます。特に水道については法律で家庭用水道の供給停止が禁止されているため、「払わなくても水道は止められない」という噂は正確です。
しかし電気・ガスについては最終的には停止可能ですし、支払い義務そのものが免除されるわけではありません。むしろ「支払いを求めつつ、生活困窮者へのサポートを優先する」姿勢こそが、イギリスの社会的特徴です。
したがって、「払わなくても止められない」と鵜呑みにするのではなく、支払いが難しければまず公共料金会社に相談し、適切な支払い計画を立てることが大切です。
現地で生活するうえで、正しい知識を持ち、自分の権利と義務を理解することが、安心して暮らすための第一歩になります。
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