
日本、アメリカ、カリブ諸国、韓国などでは圧倒的人気を誇るスポーツ「野球」。
では、サッカー発祥の地であり、クリケットやラグビーの本場であるイギリスでは、野球はどのような位置づけにあるのでしょうか。
「イギリス人は野球を知らないのでは?」という素朴な疑問に、具体的なデータや背景を交えながら、徹底的に解説していきます。
イギリスにおける野球の歴史:意外にも19世紀から存在
まず押さえておきたいのは、イギリスにおける野球の歴史です。実は、野球は19世紀後半にはすでにイギリスに紹介されていました。
- 1874年:アメリカのプロ野球チームがロンドンでエキシビションマッチを行った記録が残る。
- 1890年:イングランド野球協会(National Baseball Association)が設立。
- 1890年〜1900年初頭:リヴァプール、マンチェスター、ロンドンなどでプロリーグが開催される。
- 第一次世界大戦後:人気が低迷し、クリケットとサッカーの影に隠れる形で縮小。
一時はリヴァプール・ビーストン・ベースボールクラブなどがプロ組織を持ち、地元新聞で試合結果が報道されるほどの関心を集めたこともありました。しかし、野球はイギリス社会に根付ききることはできず、20世紀中盤には完全にニッチなスポーツとなってしまいました。
現在の野球人口とチーム数:最新データ
現在、イギリスにおける野球の登録選手数は以下の通りです(British Baseball Federation 公式データ 2024年版)。
- 登録選手数:約 3,200人
- 登録クラブチーム数:約 85チーム
- 少年野球リーグ参加者:約 1,000人
【参考】
- 日本の2023年時点での登録選手数:約14万人(高校野球のみで)
- アメリカのMLB登録プロ選手数:約1,200人(メジャー登録選手のみ)
- 韓国のKBOリーグ登録選手数:約600人
この数字を見ても、イギリスでは野球は完全に「マイナースポーツ」であり、草の根的に支えられている状況だとわかります。
主なクラブチーム例
- ロンドン・メタルズ(London Mets)
- ハートフォード・バスティオンズ(Herts Baseball Club)
- ブリストル・バッドジェーズ(Bristol Badgers)
- バーミンガム・ブルワーズ(Birmingham Brewers)
これらのクラブは、国内リーグ(British Baseball League)や国際大会に積極的に参加しています。
イギリスに存在する野球施設一覧
イギリス国内で、野球専用または専用に近い形で整備されている施設は以下です。
球場名 | 所在地 | 特徴 |
---|---|---|
ファーンリー・パーク | バッキンガムシャー | イギリス最大規模の野球・ソフトボール専用複合施設 |
ロンドン・メタルズ・スタジアム | ロンドン | 国内リーグ拠点、観客席あり |
ハートフォード・ベースボール場 | ハートフォード | 少年野球普及活動も活発 |
ブリストル・ベースボール場 | ブリストル | アマチュア大会も頻繁に開催 |
ただし、これらを含めても全国で本格的な野球専用グラウンドは10箇所未満。大半の試合はクリケット場や学校のグラウンドを間借りする形で行われています。
ロンドンオリンピック(2012)で野球除外の影響
2012年ロンドンオリンピックでは、野球とソフトボールが正式競技から除外されました。これに関する国際オリンピック委員会(IOC)の公式理由は以下です。
- 野球が世界的に普及しているとは言いがたい
- 大リーガーの不参加(=スター選手の不在)
- 会場建設や整備にコストがかかる
イギリス国内では、この決定に対して大きな反発はありませんでした。なぜなら、
- 野球がもともとマイナーであり、存在感が薄い
- 市民の大多数が「野球=アメリカ文化」と認識していた
- サッカーやクリケットと比べて馴染みがなかった
という背景があったためです。
当時のロンドン市内では、オリンピック関連グッズにおいても「野球モチーフ」はほぼ見られませんでした。
イギリス人の野球認知度:最新調査結果
調査会社YouGovによる2023年のスポーツ認知度調査では、イギリス成人における「野球」の認知状況は以下の通りでした。
- 「野球の基本的なルールを知っている」:32%
- 「野球の試合を観たことがある」:24%
- 「野球を実際にプレーしたことがある」:5%
比較として、
- サッカーの「試合観戦経験」:89%
- クリケットの「試合観戦経験」:54%
この結果からも、野球がイギリス社会で「知ってはいるが、深くは知らないスポーツ」であることがわかります。
イギリス国内における野球普及活動
一方で、野球を広めようとする動きも着実に存在します。
- **British Baseball Federation(BBF)**による学校訪問プログラム
- Play Baseball UKという普及キャンペーン
- 少年野球大会(Little League UK)の開催
- アメリカ留学経験者による草の根チーム作り
さらに、ロンドンには近年、アメリカMLBが積極的に進出し、
2019年にはMLB公式戦「ロンドンシリーズ」(ニューヨーク・ヤンキース vs ボストン・レッドソックス)が開催され、観客動員数は2試合で約12万人に達しました。
これにより、若い世代を中心に野球への関心が少しずつ高まりつつあります。
まとめ:野球はイギリスで「知られてはいるが、根付いてはいない」スポーツ
イギリスにおける野球は、今なお「ニッチな存在」であり続けています。
登録選手数は3,000人規模、正式な野球場も限られており、クリケットやサッカーの影に隠れています。
しかし、野球文化は確かに存在し、愛好者たちの努力によって細々とでも生き続けています。
近年のMLBのプロモーション活動や、イギリス代表チームの国際大会参加をきっかけに、
今後少しずつではありますが、野球の認知度や競技人口が増えていく可能性もあるでしょう。
「イギリス人は野球を知らないのか?」という問いへの答えは、こうまとめられます。
「知ってはいる。しかし、日常生活に密着していない。」
それでもなお、このスポーツの魅力に惹かれる人々は確かに存在し、イギリスの片隅でバットを振り続けています。
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