
日本人にとって「旅の楽しみ」といえば、美しい風景、異文化体験、そしてなんといっても「食」が大きなウエイトを占める。特に、地元の素材を活かした料理、地産地消を掲げたレストラン、そこでしか味わえない郷土料理に惹かれる人も多いだろう。そして、日本国内の地方旅行においては、それが見事に叶えられる。地方の小さな町に足を伸ばしても、地元の漁港直送の魚を使った寿司屋、山の幸を生かした郷土料理、地元の酒蔵が経営するこだわりの居酒屋など、期待以上の食体験が待っている。
しかし、それと同じ期待をイギリスの田舎に持ち込むと、容赦なく打ち砕かれる。むしろ、食にこだわる人ほど失望の度合いが深くなる。この記事では、イギリスの地方レストランにおける現実的な「味」「価格」「選択肢の少なさ」について詳しく検証し、なぜチェーン店が最適解になるのかを論じていく。
「地方こそ、食が楽しい」という幻想
まず、日本人が持ちやすい「地方の方が素材が新鮮で、素朴で美味しい料理が出てくるはず」という期待。それは日本国内では概ね正しい。しかし、イギリスではこの前提が大きく崩れる。
イギリスの田舎町には、漁港も牧場も農地もある。しかし、そうした「地の利」がレストランのクオリティに結びついていない。地元の素材を使っていることはあるのだが、それを生かす技術と発想が決定的に欠けている。食材そのものを殺してしまうほど調理法が雑だったり、味付けが極端に薄かったり、逆に塩辛くて食べられなかったりするケースが少なくない。とくに郊外や村レベルのパブや個人経営のカフェに入ると、冷凍食品をただ焼いただけ、揚げただけ、解凍して盛っただけ、という事例に多く遭遇する。
見た目が良くても味が追いつかない
イギリスの田舎レストランでは、「外見だけは一丁前」なことがある。たとえば、木の梁が見えるクラシカルなパブ、暖炉がある小洒落たコテージ風レストラン、花に囲まれたガーデンカフェ。しかし、その内装や雰囲気に惑わされてはいけない。
料理が運ばれてきて、見た目はそこそこ良くても、ひと口食べて「なんだこれは」と絶句することも多々ある。鶏肉がパサパサ、ジャガイモが半生、グレイビーソースがとにかく塩辛い、もしくは味がない。「フィッシュ&チップス」も一見すると美味しそうだが、実際は衣がベタついていたり、タルタルソースが市販の瓶詰そのままだったりすることもある。
意外と高い。味の割にコスパが悪すぎる
さらに追い打ちをかけるのが「価格」である。安ければ「まあこんなもんだよね」と納得もできるかもしれないが、イギリスの田舎レストランは、味が悪いくせに決して安くない。ランチでさえ一人20ポンド(約3,800円)以上、ディナーなら普通に30〜40ポンド(6,000〜8,000円)かかる。
しかも、料理のレベルが観光地価格というより「田舎なのにこの値段でこの味?」と、意味不明な高さなのだ。日本ならば地方に行くほど「素材が良くて安い」が基本だが、イギリスは逆。田舎に行くほど「選択肢がなく、味が悪く、なぜか高い」という三重苦に苦しむことになる。
メニューのレパートリーが恐ろしく乏しい
料理の幅も狭い。基本的には「ミートパイ」「ソーセージ&マッシュ」「フィッシュ&チップス」「サンデーロースト」などの典型的ブリティッシュメニューしかなく、それをひたすらローテーションするだけ。パスタやカレーなどもメニューに載ってはいるが、ほとんどが冷凍品を温めただけのような代物で、食べて後悔する可能性が高い。
「季節のメニュー」や「シェフのスペシャル」などがある店も稀にあるが、それも内容をよく見ればスーパーで買えるような材料をやや凝った言葉でメニューに書いているだけだったりする。たとえば、「ガーリックとハーブでマリネしたチキンのロースト、地元産のルバーブソース添え」などと書かれていても、味は至って凡庸、というかむしろ不味い。
チェーン店こそが安全圏
ここまでくると、「どこに行けばまともな食事ができるのか」と不安になるが、そこで頼りになるのがチェーン店である。
イギリスにはいくつかの全国展開チェーンレストランがあり、代表的なものとして以下が挙げられる:
- Wagamama(ワガママ):イギリス風アジアンフュージョンで、日本食とは言い難いが、安定した味。
- Prezzo:イタリアン系。パスタもピザも平均点。
- Nando’s(ナンドス):チキン専門店。味もバリエーションもそこそこ。
- Zizzi:イタリア料理チェーン。店舗の当たり外れが少ない。
- Pizza Express:チェーンのピザ屋としてはかなり優秀。
- Giraffe:グローバル料理系。子連れにも優しい。
これらのチェーンは味のレベルこそ「中の上」だが、何より「期待を裏切らない」「明確なメニューと価格帯」「調理のばらつきが少ない」という安心感がある。田舎町で孤独に口コミを漁ってギャンブルをするより、チェーン店に入った方が精神衛生的にもコストパフォーマンス的にも遥かにマシである。
田舎の観光地は特に地雷が多い
例えば、湖水地方(Lake District)やコッツウォルズ(Cotswolds)など、美しい田舎の観光地でもレストランの質は期待できない。観光客向けに小洒落た外観と雰囲気を用意しているものの、料理の中身が追いついていないことがほとんどだ。口コミサイトで高評価を受けているレストランでも、実際に行ってみると「これのどこが星4.5?」という落差に愕然とするケースも珍しくない。
結論:田舎で生き延びるには、チェーンを選べ
イギリスの田舎に行って美食を期待するのは、悪い意味でロマンチシズムに過ぎない。特に日本人のように味覚に敏感な人々にとっては、田舎でのレストラン体験はストレスの連続となる可能性が高い。もしイギリスを旅して「味で後悔したくない」「一定以上のクオリティを確保したい」と思うなら、迷わずチェーン店を選ぼう。
繰り返すが、これは妥協ではなく「最適化」である。田舎で安全かつストレスフリーに食事を取るための、最も現実的な選択肢なのだ。
このような現実を知ったうえで、イギリスの田舎旅行を計画すれば、余計な失望を避けることができるだろう。美しい自然、古い街並み、人々の暮らしには価値がある。ただ、食に関してだけは、期待値を大幅に下げて、チェーン店を頼るべきなのである。
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