
ある晴れた日の大事件
2025年6月某日、ロンドン中心部でいつも通りスマホを取り出し、何気なくメールを確認しようとした。……ん?電波がない?Wi-Fiも繋がらない?
「まぁ、よくあるよね。ロンドンの中心で圏外なんて」なんて軽く考えていたら、どうも様子がおかしい。LINEも繋がらない、Slackも送れない、通話も不可。そして気づく。「あれ?これは……完全にダウンしてる?」
筆者が利用している携帯キャリアは「Three(スリー)」。格安かつデータ無制限が売りの人気プロバイダーで、若者や留学生にもよく使われている。そのThreeが、ロンドンという都市部で、まさかの全滅。
ネットはもちろん、通話さえできない。スマホは手元にあるけれど、まるでただの文鎮。ひと昔前のPDAを持ち歩いているような虚無感に襲われる。
初めは都市伝説レベルの妄想から始まった
「まさか……イランがミサイルでも撃ち込んだ?」
そんな妄想が一瞬頭をよぎったほど。冗談半分、でもそれくらい突如として情報が途絶えるというのは人の精神に響く。特に、私のように仕事の連絡がすべてスマホに集約されている人間にとっては致命的だ。
だが、Twitterをチェックすると、同じように「Threeが落ちた」「ロンドンで全滅」「圏外地獄」などと呟く人が続出している。どうやら局地的な異常ではなく、Threeのネットワーク自体が一時的に落ちているらしい。
緊急対応が必要なときに、連絡すら取れない——これは単なる不便ではなく「危機管理」の問題だ。
イギリスの電波状況:悪名高き通信インフラ
「イギリスの電波が悪いのは有名な話だよ」と言われたことがある。確かに、多くの観光客や在住者が口を揃えて「ロンドンのど真ん中で圏外」「田舎に行ったらもう何もできない」と嘆く。では、なぜこんなにも通信インフラが貧弱なのか?
1. 歴史的背景と都市構造
イギリスの街並みは美しい。石造りの建物、歴史を感じさせる街路、保存状態の良い旧市街地。だが、その美しさが通信インフラにとっては「天敵」でもある。
石造の厚い壁や地下構造、曲がりくねった路地は電波の敵。アンテナの設置にも規制があり、建物の景観を守るために自由に設置できない場合が多い。
2. キャリア間の競争の歪み
イギリスには主要なキャリアがいくつか存在する。EE、Vodafone、O2、そしてThree。Threeはその中でも比較的新しく、価格競争力が強いが、エリアカバレッジでは他社に劣ることが多い。
「安いから仕方ない」という諦めと、「いつかは良くなるだろう」という希望が交錯しながら、多くのユーザーがThreeを使い続けている。
3. 投資不足と政治の不安定さ
イギリス政府は5Gの推進を打ち出しているが、実際のインフラ整備は地域格差が激しく、地方では3Gすら不安定な場所も多い。政治の混乱や予算配分の問題もあり、長期的な通信インフラの拡充にはまだ時間がかかりそうだ。
Three、なぜ落ちた?
今回のThreeのネットワーク障害について、公式からの発表は「技術的な問題」とのことだった。だが、具体的な原因は明らかにされていない。
サーバーダウン?基地局の障害?システム更新の失敗?クラウドトラフィックの処理ミス?全てが「ありえる」。
ユーザーからすると、理由よりも「どうして代替手段がなかったのか」が気になる。少なくとも通話だけは別回線で保証してほしいという声も多い。仕事の電話が一日丸ごと繋がらないのは、個人にとっても企業にとっても大きな損失だ。
天気のせい、という謎の安心感
もうこれは天気のせいにして笑うしかない。イギリス人にとって「天気が悪いから」と言えば大抵のことは許されるし、「今日はいい天気だから何かおかしい」となるのもお決まりのジョークだ。
電波がダウンしても、「今日は天気がいいからなぁ」と苦笑いするしかないのは、もはやこの国の文化かもしれない。
怒っても仕方ない。でも、備えるべきは「次」
結局、怒ったところで電波が戻るわけではない。技術トラブルはどこの国でも起こるし、完璧なシステムなど存在しない。ただ一つ確かなのは、「次の障害が来ても困らないように備える」ことだ。
● 代替通信手段の確保
Wi-Fiコーリングや、複数SIMの活用(デュアルSIMスマホなど)は現実的な選択肢。例えばThreeとEEのSIMを使い分けることで、万が一の障害時にも通信を確保できる。
● メッセンジャーアプリの多様化
WhatsApp、Telegram、LINE、Signalなど、使えるプラットフォームを増やしておけば、どこかが落ちても対応できる。
● オフライン対策
地図、連絡先、必要な資料などは事前にダウンロードしておく。アナログなメモも意外と役に立つ。
それでもThreeを使い続ける理由
それでも私はThreeを使い続けるだろう。理由は単純、コスパがいいから。
ロンドン内でデータ使い放題、海外でもそのまま使えるRoamingの手軽さ、そして月額の安さ。完全無欠ではないけれど、日々の使用には十分耐えうる。
そして、ちょっとくらい電波が途切れたら、それもまた「イギリスらしい」エピソードになると思っている。
最後に:通信に依存しすぎた私たちへ
スマホが繋がらない一日を経験すると、いかに自分がデジタルに依存していたかに気づく。そして、逆に「繋がらない時間」に何か大事なことを取り戻せるかもしれない。
Threeが落ちた日、私は空を見上げた。見事な快晴だった。「今日は、通信よりも、天気がいいという奇跡を楽しめばいいのかも」と思えたのが、せめてもの救いだった。
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