借金してでもホリデーに行く?イギリス人が「一生に一度の瞬間」にすべてを賭ける理由

はじめに ― 借金してまで行くホリデー?

「人生は楽しむためにある」
このフレーズは世界中どこでも聞くことができますが、イギリスほどこの考えを文字通りに実行している国民も珍しいかもしれません。イギリスでは、夏休みや冬休みに“ホリデー”に出かけることが生活の一大イベントであり、そのために多くの人が「借金をしてでも」海外旅行を実現しようとします。

「なぜそこまで?」
「無理してまで旅行に行く意味があるのか?」
そう感じる方もいるでしょう。けれど、その背景にはイギリス人の根強い価値観や、歴史的・文化的な理由が存在します。

今回は、イギリス人がなぜホリデーに命をかけるのか、そしてなぜ借金をしてでも“その一瞬”を楽しもうとするのかを掘り下げてみたいと思います。


ホリデー=生きがい?イギリス人の休暇観

「働くために生きる」のではなく、「生きるために働く」

イギリスの社会では、「仕事は生活の手段であり、人生の目的ではない」という考え方が広く浸透しています。日本のように「仕事=自己実現」と捉える文化とは対照的に、イギリス人はプライベートの時間を何よりも重視します。

とくに夏のホリデー(サマーホリデー)と、年末のクリスマス~年始にかけての休暇(ウィンターホリデー)は、「人生最大の楽しみ」として位置づけられています。

「ホリデーのために働く」は当たり前

イギリスでは、「この夏はギリシャに2週間行く」「冬はカナリア諸島で過ごす」といった計画を、1年前から立てる人が少なくありません。実際に多くのイギリス人が、年間の目標やモチベーションを“ホリデー”に設定しています。


なぜ借金してまで?背景にある価値観

一生に一度のその瞬間のために

イギリス人にとってホリデーは単なる「レジャー」ではなく、「記憶に残る人生の節目」です。

あるイギリス人の友人はこう語っていました。

「人生は一度きり。だから、“あの時あんなに楽しかった”って思い出せる時間にこそ、お金と時間を使いたい」

彼らにとって、ホリデーとは“人生を豊かにする経験”そのものであり、それを逃すことは人生の損失に直結するのです。

経験こそが人生の価値を決める

この考え方には、「モノよりコト(体験)」という価値観が色濃く反映されています。高級な車や大きな家よりも、「イタリアの田舎で過ごした夏」や「カリブ海でのダイビング体験」に価値を見出すのが、現代イギリス人の多くの姿です。

そのため、たとえクレジットカードを切ってでも、支払いを分割にしてでも、ホリデーは「行くべきもの」なのです。


統計で見る「ホリデーに命をかける」実態

クレジットカード使用率の高さ

英国国家統計局(ONS)や消費者金融団体の調査によれば、ホリデーの費用にクレジットカードを使用する割合は約60%にのぼります。さらにそのうち約25%は、返済に数ヶ月以上かける“分割ローン型”の支払いを選択しているというデータもあります。

平均的なホリデー予算

2023年の調査によると、イギリス人のホリデー1回あたりの平均費用は、1人あたり1,500ポンド(約30万円)。家族旅行になると、1回の旅行で4,000~6,000ポンド(約80~120万円)にもなります。

この金額は、日本人の感覚からするとかなり高額ですが、イギリスでは「それくらい出して当たり前」という感覚です。


なぜイギリス人はそこまでして旅行に出るのか?

天候と気候:灰色の空からの脱出

イギリスの気候は年間を通じて曇りがちで、夏でも「半袖で過ごせる日が1週間程度」という地域もあります。そのため、「太陽を浴びるために海外へ行く」というモチベーションは非常に強いのです。

スペイン、イタリア、ギリシャ、タイなど、温暖で日差しが強い国々はホリデー先として非常に人気があります。

歴史的に培われた“旅”の文化

イギリスはかつて大英帝国として世界を旅し、植民地を築いた歴史があります。その影響もあり、“国外へ出る”ことに対する抵抗が少なく、むしろ「世界を見なければ人生を損している」とさえ感じる国民性も存在しています。


借金への心理的抵抗が少ない文化

イギリスでは、ローンやクレジットカードの利用が一般的であり、「借金=悪」という日本的な観念はあまり見られません。

たとえば、「Buy Now, Pay Later(今すぐ買って、後で払う)」というサービスは、若者を中心に広く普及しています。ホリデー費用を3回払いや6回払いで決済するのは、まったく珍しいことではありません。

むしろ、借金をしてでも「自分の欲しい体験を手に入れること」に対して、ある種の合理性を見出しているのです。


コロナ後の反動:「今」を生きるという覚悟

2020年以降、パンデミックによって長期間ホリデーが制限されたことで、多くのイギリス人は「行けるときに行かなければ」という考えをより強くしました。

ある調査では、「パンデミックが終わったら、借金してでも海外旅行に行きたい」と答えた人が40%以上にのぼりました。
これは単なる“娯楽”ではなく、“人生の再起”としての旅を意味しているとも言えます。


社会的影響とその裏側

もちろん、この文化には影の側面もあります。ホリデー費用のために借金を重ね、その返済に追われる人々や、「旅行から戻ったら生活費が足りない」といったケースもあります。

しかしそれでも、彼らが旅をやめないのは、「人生の本質は経験であり、苦労してもその価値はある」と確信しているからです。


おわりに ― “今を生きる”という選択

イギリス人がホリデーにかける情熱には、単なる浪費ではない、深い哲学が隠れています。
「今この瞬間を最高に楽しむために人生はある」
それは、現代のストレス社会において、ある意味でとてもシンプルで、力強い生き方かもしれません。

もちろん、誰もが借金して旅行すべきとは思いません。ですが、「たった一度きりの人生、どこに価値を置くのか?」という問いに、イギリス人のホリデー観は一つの答えを示しているのではないでしょうか。

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