【なぜ!?】イギリス人が“激マズ中華料理”を愛してやまない理由をガチで考察してみた

「イギリスの中華料理は世界一マズい」――海外旅行好きの間で、もはや都市伝説級に語り継がれているこのフレーズ。筆者自身もイギリスに留学していた経験があるのだが、まさかこの“伝説”が、ここまで事実に忠実だったとは思わなかった。

それもそのはず。中華料理の看板を掲げているのに、中身はどう見ても「油とソースでぐっちゃぐちゃの茶色い何か」。見た目も味も“もはや料理と呼んでいいのか怪しい代物”が堂々と提供され、しかも地元のイギリス人たちは「これがベスト・チャイニーズ」と言わんばかりにニコニコして食べている。

なぜ彼らは、あの“中華モドキ”を心の底から愛しているのか? 本場の中華料理を差し置いて、「イギリスの中華の方が美味しい」と本気で思っているのか? そして、なぜ我々日本人はそれを受け入れられないのか?

今回はそんな謎だらけの「イギリス中華」文化について、元留学生の目線から考察していく。


◆ イギリスの「中華料理店」に入って最初に感じる違和感

筆者が初めてロンドンの中華料理店に足を踏み入れたのは、深夜12時過ぎ。ほろ酔い気分で友人と「ラーメンっぽいものでも食べるか」と軽いノリだった。

店内はガラガラかと思いきや、なぜか満席。みんな笑顔で、茶色くテカテカした“謎の炒め物”をシェアしている。

テーブルに運ばれてきたのは、「スイート&サワー・チキン」なるメニュー。真っ赤なソースが滴る揚げ鶏の塊に、パイナップルとピーマンが申し訳程度に散らされている。

一口食べた瞬間、筆者の頭に雷が落ちた。

「……甘っ!!!」

それはもはや“料理”ではなく、“お菓子”だった。

そして次に頼んだ「チャーハン」も、見た目はまあ普通だったが、味は塩と油だけのシンプルすぎる味付け。米はパサパサ、具材はほとんど見当たらない。

これはもしや、中国の料理をイギリス風にアレンジした“別の何か”なのでは…? そう、これが「British Chinese」なる謎カテゴリの始まりだった。


◆ 「British Chinese」とは何か?──もはや中華料理ではないが中華料理と呼ばれる存在

イギリスで“中華料理”と呼ばれている料理の多くは、中国本土の料理とは似ても似つかない。たとえば以下のような定番メニューがある:

  • Sweet and Sour Chicken(酢豚的な何か)
  • Crispy Shredded Beef(牛肉の天ぷら?)
  • Egg Fried Rice(卵入りの焼き飯だが具はほぼゼロ)
  • Chicken Chow Mein(焼きそば風の炒め麺、ただし味はソース味)
  • Prawn Crackers(えびせん)

中には「Salt and Pepper Chips」という、“塩コショウ味の中華風フライドポテト”なんていうトンデモ料理まである。

つまり、中華料理というよりは“イギリス人のための中華風ファストフード”なのだ。


◆ なぜイギリス人は「British Chinese」を好むのか?

ここで本題に戻ろう。なぜイギリス人は、これほどまでに奇妙な“中華風料理”を愛してやまないのか? いくつか理由を挙げてみよう。


① 幼少期からの「味覚の形成」にある

イギリスの家庭料理は、基本的に味が「薄い」または「単調」なことが多い。ローストビーフ、ベイクドポテト、ミントソース、フィッシュ&チップス…どれも素材の味を活かすスタイルであり、スパイスや複雑な調味料はあまり使わない。

そのため、甘くて濃くて油ギッシュな「British Chinese」の味は、彼らにとって“刺激的でエキゾチックなごちそう”なのだ。


② ピザやケバブと並ぶ「酔っぱらい飯」として定着している

イギリスでは金曜の夜、パブで浴びるように酒を飲んだあと、〆に食べる定番のデリバリーが「中華」か「ケバブ」だ。

つまり「British Chinese」は、酔っぱらって味覚が崩壊した状態で食べる“深夜飯”として最適化されているのだ。

まともな味覚で食べたら微妙でも、アルコールに脳を支配されている状態だと、甘じょっぱくてドロドロしたものが「最高に美味しく」感じてしまう。これには筆者も何度か屈した。


③ ノスタルジーと文化的安心感

「子どもの頃から誕生日や金曜のご褒美で食べてた」など、British Chineseにはイギリス人の記憶と密接に結びついた郷愁がある。カレーライスやハンバーグが我々にとって“家庭の味”であるのと同じ。

結果として、「本場の中華料理は脂っこすぎる」とか「八角の味が嫌い」など、逆に“リアル中華”が受け入れられない現象が起きている。


◆ 一方、日本人がイギリス中華を拒絶する理由

じゃあ逆に、なぜ我々日本人は「British Chinese」を受け入れられないのか?


① 日本の中華料理のレベルが異常に高すぎる

日本には町中華というジャンルがあり、安くて美味い本格中華がどの駅前にも存在する。加えて、四川料理、広東料理、上海料理などの専門店も豊富。

つまり日本人にとって「中華=旨い」が前提なので、あの“甘くて茶色い中華風ミートボール”を中華料理と認識することができないのだ。


② 調味料のクセや油の使い方に敏感

British Chineseは基本的に油ドバドバ、砂糖大量、味付けも単調で、しかも野菜が極端に少ない。

これは繊細な出汁文化を持つ日本人にとって、「暴力的な味」と感じられる。とくに酔ってない時に冷静に食べると、すぐに胃もたれしてしまうのは避けられない。


◆ 本場中華とのすれ違い:誰の“中華”なのか

実際、中国からの移民や中華系イギリス人の中にも、「British Chineseを中華料理と呼ぶのはやめてくれ」という声が多い。

中華街のレストランで「ローカル向け」と「チャイニーズ向け」のメニューが分かれていることもあり、「British Chinese」は一種の文化的変異種であるともいえる。

だが、それが定着し、愛され、親しまれているのであれば、それはそれで“本物”と言えるのかもしれない。


◆ まとめ:文化は“美味いか不味いか”より“慣れるかどうか”

イギリスの中華料理は、もはや「中華」ではなく「British Chinese」という独自の料理カテゴリである。

味覚の違い、文化の背景、食育の影響など、さまざまな要素が組み合わさって、「イギリス人はBritish Chineseが最高に美味しい」と信じている。

そしてそれは決して「間違い」ではない。むしろ文化が交差した結果として生まれた、新たな食のかたちなのだ。

とはいえ…

筆者は二度とシラフでスイート&サワーチキンを食べようとは思わない。

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