ヨーロッパの政治が、かなり大きく右に動き始めている。
2026年9月6日に行われたドイツ東部ザクセン=アンハルト州の州議会選挙で、右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が43.8%もの票を獲得して第1党となった。
これまで州政権を担ってきた中道右派CDUは17.2%。つまりAfDはCDUに「勝った」というより、圧倒したと言ったほうが近い結果だ。
第二次世界大戦後のドイツ政治を考えれば、これは極めて大きな出来事である。
Reutersは今回の結果を「far-right victory(極右の勝利)」と報じ、AfDは83議席中39議席を獲得。単独過半数には届かなかったものの、ドイツで極右政党が州政府を担う可能性が現実的に議論されるところまで来た。
そしてこのニュースを、単なる「ドイツ国内の政治ニュース」と考えるのは少し危険かもしれない。
なぜなら、イギリスにも非常によく似た政治現象がすでに起きているからだ。
その中心にいるのが、Nigel Farage率いるReform UKである。
AfDはなぜここまで支持されたのか
AfDが伸びた最大の理由の一つとして挙げられているのが、やはり移民問題だ。
AfDは不法移民や難民の受け入れに極めて厳しい立場を取り、今回の州選挙でも移民政策を前面に押し出した。
もちろん理由は移民だけではない。
ドイツ経済の低迷、製造業への不安、エネルギー価格、地方の人口減少、既存政党への不満など、複数の要因が重なっている。
Financial Timesの分析でも、AfD支持の背景には移民への不安だけでなく、東部ドイツにおける所得の低さや人口減少、製造業の将来への不安、既存政治に対する不信感などがあると指摘されている。
しかし重要なのは、
「生活が苦しくなる → 政府への不満が強くなる → 移民問題への関心が高まる → 反移民を強く主張する政党が伸びる」
という構図だ。
これは現在のイギリスと非常によく似ている。
イギリスでも移民問題が最大級の政治テーマに
イギリスでもここ数年、移民に対する世論は明らかに厳しくなっている。
Oxford大学のMigration Observatoryによる2026年9月の分析では、2013年頃から2020年代初頭までは移民への反対意見がかなり減少していた。
ところが、その流れは2022年頃から逆転している。
さらに2026年7月には、イギリス人の43%が「移民」を英国が直面する重要な問題として回答し、他のどの問題よりも高かった。
つまり現在のイギリスでは、
物価高でもなく、
NHSでもなく、
住宅問題でもなく、
「移民」が有権者の最大級の関心事になっている。
だからこそ、この問題を何年も一貫して訴えてきたReform UKにとっては、非常に戦いやすい政治環境になっている。
Reform UKはすでに「泡沫政党」ではない
少し前までReform UKについて、
「実際の選挙では勝てない」
「Farage人気だけの政党」
と考えていた人も少なくなかった。
しかし現在の数字を見ると、そう簡単には片付けられない。
2026年9月6~7日に行われたYouGovの最新調査では、
| 政党 | 支持率 |
|---|---|
| Labour | 23% |
| Reform UK | 23% |
| Conservatives | 20% |
| Greens | 12% |
| Liberal Democrats | 12% |
となっている。
つまりReform UKは、現在の与党Labourと並んでいる。
ただし、ここは冷静に見る必要もある。
Reform UKは2025年には30%を超える世論調査も珍しくなかったため、現在の23~25%前後は「過去最高」というわけではない。Sky Newsの分析でも、2025年夏と比較するとReformの支持率は低下していると指摘されている。
したがって、
「ドイツでAfDが勝ったからReform UKも急上昇している」
という単純な話ではない。
しかし、欧州の主要国で反移民を掲げる政党が40%以上を取って勝利したことは、
「強硬な移民政策を訴えても選挙には勝てる」
という一つの成功例を作った。
この意味ではReform UKにとって非常に大きな追い風になる可能性がある。
これまで「過激」と言われた政策が普通になっていく
ここで最も重要なのは、Reform UKが次の総選挙で政権を取るかどうかだけではない。
もっと大きな変化は、
政治の基準そのものが右へ移動することだ。
例えばReform UKが、
「移民をもっと減らせ」
「不法入国者を強制送還しろ」
「外国人への制度を厳しくしろ」
と主張する。
するとConservativesはReformに票を奪われたくないため、以前より厳しい移民政策を打ち出す。
Labourも同じだ。
Reformに支持を奪われないためには、「移民に甘い」と思われることを避けなければならなくなる。
結果としてReform UKが政権を取らなくても、
イギリス全体の移民政策がReform UKの方向へ少しずつ引っ張られていく。
実は政治ではこちらのほうが重要だったりする。
「不法移民だけの話だから日本人には関係ない」は本当か
イギリス在住の日本人の中には、
「問題になっているのはボートで入ってくる不法移民や難民で、日本人には関係ない」
と思う人もいるかもしれない。
確かに、合法的なビザで働いたり、配偶者ビザや永住権で暮らしている日本人と、不法入国の問題は制度上まったく別物だ。
ここは混同すべきではない。
しかし政治的には、必ずしも完全に切り離されるとは限らない。
政府が「移民数そのものを減らす」という方向へ進めば、就労ビザの要件、家族ビザ、永住権取得条件、英語要件、最低年収条件、NHS関連負担など、合法的に暮らしている外国人にも影響する制度が厳しくなる可能性がある。
さらに制度とは別に、社会の空気もある。
「外国人が多すぎる」
「移民が住宅を奪っている」
「移民がNHSを圧迫している」
「自国民を優先すべきだ」
という議論が日常的になれば、日本人だから完全に無関係というわけにはいかない。
ただし「イギリス人が移民嫌いになった」と単純化するのも間違い
一方で、
「イギリス人がみんな外国人を嫌っている」
と考えるのも正しくない。
世論調査を見ると、英国人は移民を一括りにして考えているわけではなく、職業、技能、出身国、移住理由などによってかなり異なる評価をしている。
Migration Observatoryも、英国人は移民の出身地以上に技能を重視する傾向があると分析している。
さらに政治全体で見れば、Reform UKが圧倒的に支持されているわけでもない。
Ipsosの8月調査では、Andy Burnham率いるLabour政権とNigel Farage率いるReform政権のどちらを好むかという質問で、Labour 50%、Reform 29%だった。
つまり現在の英国世論には、
「移民は減らしてほしい」
と思いながらも、
「Reform UKに政権を任せたいわけではない」
という人もかなり存在する。
ここを分けて考える必要がある。
それでもヨーロッパの「右傾化」は無視できない
それでもドイツで起きたことのインパクトは大きい。
戦後ヨーロッパの政治において、ドイツは特に極右政治に対して慎重だった国だ。
そのドイツでAfDが43.8%を獲得した。
一昔前なら考えにくかった数字である。
移民政策に厳しい政党が伸びているのはドイツだけでも英国だけでもない。
物価高、住宅不足、公共サービスへの不満、経済停滞、将来への不安。
こうした問題が長引くほど、有権者は既存政党ではなく、より強い言葉で「国を変える」と訴える政党へ向かいやすくなる。
そして移民は、その不満が集中しやすいテーマでもある。
イギリスの移民にとって、これから数年は重要になる
イギリスは長い間、世界中から人を受け入れて成長してきた国でもある。
ロンドンを歩けば、それは一目で分かる。
医療、IT、金融、大学、飲食、建設、介護。
外国人なしでは成り立たない産業も少なくない。
ところが政治の世界では現在、
「移民によって英国は豊かになった」
という話より、
「移民をどう減らすのか」
という話のほうが圧倒的に強くなっている。
ドイツでAfDが歴史的大勝を収めたことは、この流れが英国だけの特殊現象ではないことを示している。
そしてReform UKにとって、「欧州でも同じことが起きている」という事実は強力な政治材料になるだろう。
もちろん次の英国総選挙まで政治状況は何度でも変わる。
Reform UK自身も現在、支持率低下や資金をめぐる問題などを抱えており、政権獲得が確実などとは到底言えない。
しかし一つだけはっきりしている。
ヨーロッパでは「移民をもっと受け入れよう」という時代から、「移民をどう減らすか」を争う時代へ政治の中心が移りつつある。
イギリスも例外ではない。
合法的に働き、税金を払い、長年英国で暮らしている外国人まで突然排除される、という話ではない。
ただ、「移民」という言葉そのものに向けられる政治的な視線が以前より厳しくなっていることは否定できない。
ドイツでAfDが43.8%。
イギリスでReform UKがLabourと並ぶ23%。
数年前ならかなり衝撃的だった数字が、今では現実になっている。
移民としてヨーロッパで暮らす人にとって、これからは「自分は合法的に住んでいるから政治は関係ない」と言っていられない時代になってきたのかもしれない。










コメント