「イギリス人に生魚を食べさせるなんて無理」
少し前まで、日本人の間ではそんなイメージがあったのではないでしょうか。
ところが今のイギリスでは、その常識がかなり変わってきています。
寿司はもちろん、最近ではSASHIMI(刺身)そのものをスーパーで買えるようになりました。
その代表格が、イギリスの高級スーパーとして知られる**Waitrose(ウェイトローズ)**です。
Waitroseの一部店舗には「Sushi Daily」という専門カウンターが入り、寿司だけでなくサーモンやマグロの刺身まで店内で販売されています。Waitroseによれば、これらの商品は店内の寿司職人によって作られ、魚は信頼できる供給業者から週7日配送されています。
日本人として気になるのは、やはりここでしょう。
「イギリスのスーパーで売っている刺身って、本当に食べて大丈夫なの?」
そしてもう一つ。
「で、実際に美味しいの?」
今回はこの問題を、日本の刺身文化と比較しながら考えてみます。
イギリスで寿司人気が想像以上に伸びている
まず驚くのが、イギリスでの寿司市場の成長です。
英国の水産業を支援する公的機関Seafishによると、2026年のイギリスにおける寿司の年間小売売上は、過去最高となる2億2,800万ポンドに達しました。
しかも前年から13.6%増加。
過去10年間では、寿司の小売販売額はなんと215%増です。
もはや、
「日本食が好きな一部のロンドンっ子が食べている」
というレベルではありません。
Tesco、Sainsbury’s、Waitroseなど大手スーパーで寿司が普通に売られ、ランチとして寿司を買う光景も珍しくなくなりました。
特にイギリス人に圧倒的に人気なのがサーモン。
Seafishの2026年の分析でも、サーモンを使った寿司が英国の寿司販売の半分以上を占めています。
つまりイギリス人にとって、
「生の魚を食べる」という心理的な壁そのものが、かなり低くなっている
と考えてよさそうです。
そして次にやってきたのが「寿司ではなく刺身」という段階なのかもしれません。
Waitroseでは本当に「刺身」を売っている
ここが面白いところです。
WaitroseのSushi Dailyでは、巻き寿司や握りだけではなく、正式にSashimiとして商品を扱っています。
現在確認できる店舗メニューでも、
- Salmon Sashimi
- Tuna Sashimi
- Salmon & TunaのSashimi Duo
などが販売されています。
つまり、ご飯も海苔もありません。
本当に魚だけ。
これは実は大きな変化です。
イギリスで寿司が普及し始めた頃は、カリフォルニアロール、アボカド、スモークサーモン、クリームチーズなど、「生魚が苦手な人でも食べやすいSUSHI」が中心でした。
ところが今は、
生のサーモンを切っただけの商品にイギリス人がお金を払う。
日本人からすると何でもない話ですが、英国の食文化を考えると結構な変化なのです。
では、Waitroseの刺身は「新鮮」なのか?
ここは少し言葉を分けて考える必要があります。
WaitroseはSushi Dailyについて、魚は厳選され、信頼できる業者から週7日配送され、商品は店内で作られていると説明しています。
その意味では、スーパーの冷蔵棚に数日前から置かれている一般的な加工食品とは少し違います。
しかし、日本人が「新鮮な刺身」と聞いて想像する、
「今朝市場に入った魚を、その日のうちにさばいた」
という意味での鮮度とは必ずしも同じではありません。
なぜならイギリスでは、生食用の魚について寄生虫対策として冷凍処理が重要な安全基準になっているからです。
英国Food Standards Agency(FSA)のガイダンスでは、刺身や寿司など生で食べる魚について、一定の例外を除き、寄生虫を死滅させるための冷凍処理が求められています。
代表的な基準には、
−20℃で少なくとも24時間
または
−35℃で少なくとも15時間
といった処理があります。
つまり、
「一度冷凍されている=古い魚」
ではありません。
むしろ生魚を安全に食べるための工程なのです。
これは日本人が意外と勘違いしやすいところでしょう。
「冷凍なら美味しくない」は必ずしも正しくない
「でも冷凍した魚を刺身にするなら、美味しくないのでは?」
と思う人もいるでしょう。
しかし、これも単純ではありません。
日本で食べている刺身でも、魚種や流通方法によっては冷凍されたものが普通に使われています。
特にマグロの場合、遠洋で漁獲されたものを低温で急速冷凍して流通させることは珍しくありません。
重要なのは、
冷凍したかどうかより、冷凍方法、解凍方法、温度管理、そして切ってからどれくらい経ったか
です。
適切に冷凍・解凍された魚なら十分美味しい。
逆に、どれほど高級な魚でも、解凍状態が悪ければ水っぽくなったり、身が柔らかくなったりします。
ここに日本の刺身専門店と英国スーパーとの差が出やすいのです。
日本人がWaitroseの刺身を食べたらどう感じる?
ここからが最も気になるところでしょう。
結論から言うと、
「普通に美味しい。でも日本の美味しい刺身屋と比較してはいけない」
という位置付けが一番近いと思います。
Waitroseの強みは、なんといってもサーモンでしょう。
脂のあるサーモンは冷蔵・冷凍流通との相性が比較的よく、多少時間が経っても食感や味の変化を感じにくい魚です。
だからこそイギリスでもサーモンの寿司が圧倒的な人気を持っているのでしょう。
一方でマグロは少し難しい。
マグロは種類、部位、脂、解凍方法、切り方で味が大きく変わります。
日本の魚屋や寿司店で、
赤身、中トロ、大トロ、本マグロ、メバチマグロ……
などを選ぶ感覚に慣れている人からすると、英国スーパーの「Tuna」という大ざっぱなくくりは少々物足りなく感じるかもしれません。
最大の違いは「鮮度」より魚の種類
日本人がWaitroseの刺身売り場を見て最初に感じる違和感は、実は鮮度よりもこちらかもしれません。
種類が圧倒的に少ない。
日本のスーパーなら、
マグロ
サーモン
ブリ
ハマチ
鯛
カツオ
イカ
タコ
甘エビ
ホタテ
アジ
サバ
などが普通に並びます。
季節によって魚が変わるのも日本の刺身文化の面白さです。
一方、英国のSashimi文化はまだ、
Salmon
Tuna
が中心。
言ってみれば、日本の刺身文化のほんの入口です。
ただし逆に考えると、これは今後かなり伸びる余地があるということでもあります。
10~20年前には「生魚なんて無理」と言っていた英国人がサーモンの刺身を普通に買うようになった。
次はハマチかもしれません。
ホタテかもしれません。
鯛かもしれません。
英国スーパーの魚売り場が日本化していく可能性も、意外とあるのではないでしょうか。
日本人として注意したいこともある
もちろん、
「Waitroseで売っている刺身だから絶対安全」
という意味ではありません。
生鮮食品なので、購入後の温度管理は重要です。
買ったらできるだけ早く冷蔵庫に入れ、パッケージの消費期限と保存方法を守る。
長時間車の中に置いておいて夜食べる、といった扱いは避けた方がいいでしょう。
また英国NHSは現在、妊娠中については生魚や生魚を使った寿司を避けるよう案内しています。
「日本では食べていたから大丈夫」と考えず、英国在住中は英国の食品安全ガイダンスを確認することをおすすめします。
結論:Waitroseの刺身、日本人でも食べる価値はある?
では最終評価です。
| 項目 | 評価 | 日本人目線 |
|---|---|---|
| 鮮度 | ○ | 店内調理・頻繁な魚の配送はプラス |
| 安全性 | ○ | 英国の生食用魚には厳格な衛生・寄生虫対策がある |
| サーモン | ◎ | 英国スーパー刺身では最も無難 |
| マグロ | ○〜△ | 日本の専門店を期待すると差を感じやすい |
| 種類 | △ | 日本のスーパーとは比較にならない |
| 手軽さ | ◎ | スーパーで刺身が買えるのは非常に便利 |
| 日本の刺身との比較 | △〜○ | 「日本の高級刺身」を期待しなければ十分楽しめる |
個人的に最も面白いのは味そのものより、
「Waitroseで刺身が普通に売られる時代になった」
という事実です。
イギリス人が寿司を食べるだけなら、もう珍しくありません。
しかし米も海苔もない、生の魚を切っただけの「刺身」まで日常的に買うようになってきたとなれば話は別です。
2026年には英国の寿司小売市場が過去最高の2億2,800万ポンドに達し、わずか1年間でも13.6%伸びています。
フィッシュ&チップスの国だったイギリスで、スーパーにサーモンとマグロの刺身が並ぶ。
日本人にとっては当たり前の食文化が、英国では今まさに「普通の食事」へと変わり始めているのかもしれません。
そして日本人としては少し複雑ですが、
イギリス人が刺身の美味しさに本格的に気付いてしまったら、次に心配するべきは「刺身が買えるか」ではなく、「魚の値段がさらに上がらないか」なのかもしれません。










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