イギリスの大学生活と聞くと、どんなイメージがありますか?
18歳になったら親元を離れ、大学の寮に入り、友人たちとシェアハウスで暮らす。
映画やドラマでよく見る、あの「英国の大学生活」を思い浮かべる人も多いでしょう。
ところが今、そのイギリスで大きな変化が起きています。
大学に進学しても、実家を出ない若者が急増しているのです。
UCAS(英国大学入試機関)のデータによると、2025年に大学・カレッジへの進学が決まった英国の18歳のうち、31%が実家から通学する予定と回答しました。
人数にすると約89,500人。
10年前には22%程度だったため、かなり大きな変化です。
さらに2026年の出願データでも、18歳の出願者のうち28.3%が実家から通う意向を示しており、2017年の18%から大幅に増えています。
なぜ、イギリスの若者は実家を出なくなっているのでしょうか。
答えは非常にシンプルです。
家賃が高すぎるのです。
「大学に行ったら家を出る」が普通だったイギリス
日本では、実家の近くに大学があれば親元から通う学生も珍しくありません。
ところがイギリスでは伝統的に、
大学進学=親元を離れて生活を始める
という文化がかなり強くあります。
大学の寮に入り、
1年後には友人たちと家を借り、
自分で料理をし、
洗濯をし、
家賃や光熱費を管理する。
大学は勉強する場所であると同時に、18歳の若者が親から独立する重要なステップでもありました。
ところが、その「普通」が崩れ始めています。
今では約3人に1人が実家から大学へ
UCASによると、2025年に大学などへの進学が決まった英国の18歳のうち、
31%が実家から通学する予定
でした。
10年前は約22%です。
つまり昔なら5人に1人程度だった実家通学が、今ではほぼ3人に1人になっています。
特にスコットランドではその割合が高く、2025年には進学が決まった18歳の46%が実家から通う予定でした。
一方、ウェールズでは21%でした。
地域による差はありますが、英国全体で「大学生になっても家を出ない」という選択が明らかに増えています。
最大の理由は学生家賃
では、なぜでしょうか。
大きな理由の一つが、
学生向け住宅の家賃です。
Save the Studentが2026年に実施した学生住宅調査では、家賃を支払っている学生の平均家賃は、
月£575
でした。
ロンドンでは、
月£793
です。
1ポンド=約210円として考えれば、
英国平均:約12万円/月
ロンドン:約16万7,000円/月
ほどになります。
もちろん為替換算だけで日本と比較することはできません。
しかし、18~20歳程度の大学生が毎月これだけの住居費を負担するとなると、かなり大きな金額です。
家賃だけで年間£7,000近く
英国平均の月£575を単純に12か月払えば、
年間£6,900
です。
日本円なら約145万円。
ロンドンの月£793なら、
年間£9,516
になります。
約200万円です。
これに、
食費
電気・ガス
インターネット
交通費
携帯電話
交際費
教材費
などが加わります。
「大学生だから家賃だけ払えばいい」
というわけではありません。
しかも大学授業料も安くない
さらに驚く日本人も多いと思いますが、イングランドの大学は授業料もかなり高額です。
2026/27年度の場合、対象となるフルタイム大学生の授業料上限は、
年間£9,790
です。
日本円に単純換算すると約200万円です。
もちろん多くの学生はTuition Fee Loanを利用するため、親がその場で£9,790を現金で大学に払うわけではありません。
生活費についてもMaintenance Loanがあります。
2026/27年度の最大額は、
実家暮らし:£9,118
親元を離れロンドン以外:£10,830
親元を離れロンドン:£14,135
となっています。
しかしローンは、名前の通り基本的には借金です。
「借りられるから問題ない」という単純な話でもありません。
61%の学生が「家賃が苦しい」
2026年のNational Student Accommodation Surveyでは、
61%の学生が家賃の支払いに苦労している
と回答しています。
さらに、
36%が家賃負担を理由に大学を辞めることを考えたことがある
という結果も出ています。
これはかなり衝撃的な数字です。
また、学生住宅不足などを背景に、
35%が実際に内見せずに物件を借りた
とも回答しています。
「大学生活を楽しむための家」以前に、
住む場所を確保すること自体が大変
になっているのです。
「大学のために家を出る」が贅沢になりつつある?
昔のイギリスでは、
18歳で大学へ
↓
親元を離れる
↓
学生寮
↓
友人とシェアハウス
という流れは、ごく普通の大学生活でした。
しかし現在は、
「大学が自宅から通えるなら、わざわざ年間£7,000~£10,000近く払って家を借りる意味があるのか?」
と考える家庭が増えても不思議ではありません。
特に生活費が上昇している状況では、実家から通えば年間数千ポンドを節約できる可能性があります。
経済的に考えれば、非常に合理的な判断です。
でも大学生活そのものが変わってしまう
一方で問題もあります。
英国のHigher Education Policy Institute(HEPI)は2026年7月の報告書で、大学で親元を離れて暮らす経験には、単なる「寝る場所」以上の価値があると指摘しています。
キャンパスで生活することは、
自立
人間関係
大学への帰属意識
自信
学生生活への参加
などにも大きな役割を果たすという考え方です。
例えば授業が終わって、
友達の部屋へ行く。
夜にパブへ行く。
大学のサークルに参加する。
一緒に食事を作る。
翌朝また大学へ行く。
こうした生活そのものが英国の大学文化でした。
しかし実家から片道1時間以上かけて通っていれば、
「今日は授業が終わったから帰ろう」
となりやすくなります。
大学へ通っていても、
大学生活そのものには参加しにくくなる
という問題が出てきます。
お金がある家庭ほど「英国らしい大学生活」ができる?
さらに興味深いのは、家庭の経済状況によって差が出ていることです。
実家から通えば大幅に生活費を抑えられます。
逆に考えると、
地方の大学へ進学して、
寮に住み、
友達とシェアハウスを借り、
大学生活を満喫するには、
以前より多くのお金が必要になっています。
つまり、
「親元を離れて大学生活を楽しむ」という経験そのものが、経済的余裕のある家庭ほど選びやすくなる
という問題です。
「同じ大学に合格したのだから同じ学生生活を送れる」
とは限らなくなってきています。
日本ではむしろ普通に見える?
ここが日本人にとって面白いところです。
日本では東京や大阪などの大都市圏で、
実家から電車で大学へ通う
学生は昔から珍しくありません。
そのため、
「大学生の3人に1人が実家暮らし」
と聞いても、
「それの何が問題なの?」
と思う日本人もいるでしょう。
しかし英国では文化的な意味が少し違います。
長い間、
18歳で大学へ行くことが、親から独立するタイミング
でもあったからです。
日本でいう「大学に実家から通う学生が増えた」という話より、
「イギリスの若者が18歳で家を出られなくなってきた」
と考えた方が、この変化の大きさが分かります。
実は大学生だけの問題ではない
そしてこれは、学生だけの話ではありません。
イギリスでは住宅費の高さが若い世代の生活に大きな影響を与えています。
大学生が実家を出ない。
卒業しても実家に戻る。
仕事を始めてもシェアハウス。
一人暮らしが難しい。
住宅購入はさらに遠い。
という流れがあります。
つまり「大学生の実家暮らし急増」は、
英国の住宅問題を象徴する現象の一つ
とも言えます。
「自立の国イギリス」というイメージも変わる?
日本からイギリスを見ると、
「欧米では18歳になったら親から独立する」
というイメージがあります。
確かに、そうした文化はあります。
しかし現実には、
文化より家賃の方が強い。
いくら18歳で独立したくても、
月£600、£700、£800の家賃を払い、
さらに食費や光熱費まで払わなければならないとなれば、話は別です。
若者が急に親離れしなくなったというより、
親元を離れるための経済的ハードルが高くなりすぎた
と考える方が自然でしょう。
まとめ|イギリスでも「実家から大学」が普通になる?
英国では今、
大学生になっても実家を出ない若者が増えています。
2025年に進学が決まった英国の18歳では、
31%が実家から通う予定
でした。
背景には、
学生家賃の上昇
生活費
高額な大学費用
住宅不足
将来への経済的不安
などがあります。
「大学へ行けば親元を離れる」という英国の伝統的な学生生活も、少しずつ変わり始めています。
日本から見ると、
「実家から大学に通うなんて普通では?」
と思うかもしれません。
でもイギリスでは、それ自体が大きな社会変化なのです。
そしてこの話の本質は、
若者が家を出たくないのではなく、家を出ることがどんどん高価になっている
という点にあるのかもしれません。










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