時代に逆行する自動車メーカーは終焉を迎えるのか?JLRがまた4,000人削減――それでも「ガソリンを撒き散らして走る車」が格好いい時代は戻ってくるのか

ジャガー・ランドローバー(JLR)が、また大規模なリストラに踏み切る。

イギリスを代表する自動車メーカー、Jaguar Land Rover(JLR)は2026年9月、今後2年間で約4,000人の人員を削減する計画を明らかにした。

JLRの世界全体の従業員は約4万3,000人。つまり、ほぼ10人に1人が削減対象になる規模だ。今回の再編では17億ポンドのコスト削減を目指し、特にイギリス国内の非製造部門への影響が大きいとみられている。

もちろん理由は一つではない。

アメリカの関税、中国市場での苦戦、中国メーカーとの競争激化、2025年の大規模サイバー攻撃、そして自動車産業そのものの急速な変化。

だが、このニュースを見ながらどうしても考えてしまう。

時代に逆行していく自動車メーカーは、本当に生き残れるのだろうか。

それともこれから世界は再び、

「巨大なエンジンでガソリンを大量に燃やし、轟音を響かせて走る車こそ格好いい」

という時代へ戻るのだろうか。

私は、後者にはならないと思っている。


JLR「4,000人削減」は想像以上に大きい

JLRは今回、約4,000人を2年間で削減し、年間の損益分岐点となる生産台数を約30万台まで引き下げる方針だ。

つまり単なる一時的な人員調整というより、

「会社そのものを、もっと小さくても利益が出る体質へ作り替える」

という大掛かりな再編である。

イギリス国内だけでもJLRは約3万4,000人を雇用しており、さらにWest Midlandsを中心に膨大なサプライヤーが存在する。

そのため問題はJLR社員4,000人だけでは済まない。

部品メーカー、物流、エンジニアリング会社、周辺サービスまで含めれば、イギリスの自動車産業全体への影響はかなり大きい。

これは単なる、

「高級車メーカー1社のリストラ」

ではない。

イギリスの製造業そのものが、どちらへ向かうのかを象徴する出来事でもある。


「EVが売れないから、やっぱりガソリン車」なのか?

最近、自動車業界ではよくこんな話を耳にする。

「EVブームは終わった」

「結局みんなガソリン車に戻る」

「EVは一部の環境意識の高い人だけのものだった」

確かに、EV普及のスピードが数年前に予想されていたほど一直線ではないのは事実だ。

JLR自身も2026年の年次報告書で、BEV=完全電気自動車の普及速度が市場ごとに異なっているため、EVだけではなくガソリン、ハイブリッド、PHEV、BEVを柔軟に提供する必要があると説明している。

6月にはさらに、

Range Rover、Defender、Discoveryについては、EVだけに絞らず、MHEV、HEV、PHEV、BEVなど複数のパワートレインを用意する戦略を発表した。

これは経営判断としては理解できる。

だが、

「EVへの移行速度が予想より遅い」ことと、「世界がガソリン車へ戻っている」ことは全く同じではない。

ここを混同すると、自動車産業の未来を見誤る。


実際にはEVは増えている

数字を見るとかなり分かりやすい。

IEAによれば、2025年の世界の電気自動車販売台数は2,000万台を突破

世界で販売された新車の、

4台に1台が電気自動車

になった。

さらにIEAは2026年について、世界の新車販売の**約29%**を電気自動車が占めると予測している。

特に中国では、すでにEVが新車販売の半分以上を占める巨大市場になっている。

そしてイギリスも同じ方向へ進んでいる。

2026年1~8月のイギリスの新車登録を見ると、BEVは前年同期比28.6%増

市場シェアは、

25.6%

まで上昇している。

一方、ガソリン車は前年同期比3.1%減だ。

8月だけを見るとBEVのシェアはさらに高く、

29.8%。

ほぼ3台に1台である。

これを見て、

「EVは終わった」

という結論を出すのは、かなり無理がある。


むしろ怖いのは「EVかガソリンか」という議論をまだしていること

自動車産業の本当の変化は、

エンジンがモーターに変わるだけではない。

ソフトウェア、バッテリー、AI、自動運転、車載OS、エネルギーマネジメント、充電ネットワーク。

自動車そのものが巨大な電子機器へ変わろうとしている。

その競争の中心にいるのが中国メーカーだ。

IEAによると、2025年には世界で販売されたBEVの半分以上を中国メーカーが占めた

つまりヨーロッパの自動車会社にとって怖い相手は、

「テスラだけ」

ではなくなっている。

BYD、Geelyをはじめとする中国勢が、ものすごい速度で製品を開発している。

彼らが競争しているのは、

「V8エンジンの音がいいか」

「EVは魂がないか」

という話ではない。

電池をいくらで作れるのか。

ソフトウェアをどれだけ速く更新できるのか。

新型車を何年ではなく何カ月単位で開発できるのか。

そんな世界になっている。


それでも「ガソリン車が格好いい」という人は残る

もちろんガソリン車がなくなれば寂しい、という気持ちはよく分かる。

V8エンジンの音。

アクセルを踏んだ時の振動。

ギアが切り替わる感覚。

Range RoverやDefenderのような巨大な車には、そうした機械的な魅力が確かにある。

クラシックカーが現在でも愛されているように、ガソリン車が趣味として残る可能性は高い。

ただし、

「好きだから残る」ことと、「産業の中心として残る」ことは別問題だ。

腕時計の世界でも機械式時計は残った。

レコードも残った。

フィルムカメラも残った。

だが、それらが再び社会の標準に戻ったわけではない。

ガソリン車にも似た未来が待っているのではないだろうか。


「石油がある限り燃やせばいい」は未来の産業戦略にはならない

極端に言えば、

地下に石油が残っている限り、それを掘って燃やして走ればいい。

そう考えることもできる。

だが自動車メーカーが今考えなければならないのは、

「石油がいつ枯渇するか」

ではない。

その前に、

消費者が何を選ぶようになるか

である。

スマートフォンが普及したのは、世界から固定電話がなくなったからではない。

Netflixが普及したのもDVDが作れなくなったからではない。

新しい技術が便利になり、安くなり、十分に魅力的になった瞬間、消費者が移動しただけだ。

自動車にも同じことが起こる可能性がある。


皮肉なのは、JLR自身もそれを分かっていることだ

ここまで書くと、

「JLRはEVを捨ててガソリン車に戻ろうとしている」

ように聞こえるかもしれない。

しかし実際にはそうではない。

JLRは今後5年間で最大180億ポンド規模を電動化、デジタル技術、高度な製造技術などへ投資する計画だ。

Range Rover Electricも投入予定。

そしてJaguarブランドについては、今でも基本方針は、

「完全電動ブランド」

である。

つまりJLR自身も未来がどちらへ向かっているのかは理解している。

問題は、

その未来へ移行する速度と方法だ。


Jaguarの「全部捨ててEVへ」も危険、Land Roverの「しばらくエンジンでもいい」も危険

ここがJLRの難しいところだと思う。

Jaguarは従来モデルを大幅に整理し、ほぼブランドそのものを作り直してEVメーカーへ生まれ変わろうとしている。

一方のRange Rover、Defender、Discoveryは、EV一本ではなく、ハイブリッドや内燃機関を含めて選択肢を広く残している。

どちらにもリスクがある。

Jaguarは、

変わり過ぎて従来の顧客を失う危険。

Land Rover側は、

変わらなさ過ぎて次世代の競争に遅れる危険。

その間でJLRは揺れている。

そして、そのタイミングで4,000人削減である。


「EVなんて誰も欲しくない」という幻想

EVにはもちろん問題がある。

価格が高い。

充電設備が十分でない地域もある。

集合住宅では充電しにくい。

バッテリー製造の環境負荷もある。

航続距離や中古価格を不安視する人もいる。

だから、

「明日から全員EVに乗れ」

という話ではない。

しかし、

「問題がある」

から、

「この技術は消える」

とはならない。

初期のスマートフォンも高かった。

インターネットも遅かった。

デジタルカメラも画質が悪かった。

技術というのは、問題があるから消えるのではなく、

問題を解決した会社が市場を取る。

自動車もおそらく同じだ。


イギリス政府も結局は2035年を見ている

イギリス政府は現在、ZEV Mandateを見直しており、自動車メーカーへの負担や雇用への影響について再検討している。

しかし長期的な方向そのものは変わっていない。

政府は現在も、

2030年に新しい純ガソリン・純ディーゼル車を段階的に終了し、2035年には新車販売を100%ゼロエミッションへ

という方向を掲げている。

2026年のZEV目標も新車登録の33%

2030年には**80%**だ。

途中で政策の修正はあるだろう。

EV補助金も変わる。

ハイブリッドの扱いも変わる。

しかし大きな流れまでガソリン車中心へ逆回転するとは考えにくい。


JLRは終焉を迎えるのか?

私はそうは思わない。

Range Rover、Defender、Jaguarというブランドには、世界中で通用する強烈なブランド力がある。

特にRange RoverとDefenderは、普通のメーカーが何十年かけても簡単には手に入れられないブランド資産だ。

だからこそ、今回の4,000人削減を、

「自動車業界が大変だから仕方ない」

だけで片付けるべきではないと思う。

JLRに限らずヨーロッパの自動車メーカーに問われているのは、

ガソリン車をいつまで作れるかではない。

次の時代でも、「欲しい」と思わせる車を作れるのか。

こちらである。

今後、再び街中を巨大なV8エンジンのSUVが走り回り、

「燃費?そんなもの気にするな」

「CO₂?知ったことか」

「ガソリンを燃やすから車は格好いいんだ」

という時代がやって来る可能性が全くないとは言わない。

しかし世界の販売データ、メーカーの投資、中国メーカーの成長、各国の政策を見る限り、

その未来に会社の命運を賭けるには、あまりにも危険だ。


オイルが枯渇するより先に、「ガソリン車を欲しがる人」が減ってしまうかもしれない

石油は明日なくならない。

10年後にもガソリン車は走っているだろう。

20年後にもクラシックなRange Roverを大切に乗っている人はいるはずだ。

しかし自動車メーカーにとって重要なのはそこではない。

新車を買う人が何を選ぶかだ。

そして今、その答えは確実に変わり始めている。

JLRの4,000人削減は、単なる人員整理ではない。

これは、

100年以上続いた「エンジンを中心とする自動車産業」が、次の時代へ移る過程で起きている巨大な摩擦

なのかもしれない。

ガソリンを撒き散らしながら走る巨大な車を、

「やっぱりこれだよ。これこそ本物の車だ」

と世界中の若者が再び憧れる時代が来るのか。

それとも数十年後、

「あの頃は毎日、何千万台もの車で石油を燃やしていたらしい」

と語られる時代になるのか。

JLRの今回の4,000人削減は、その答えを考えるにはあまりにも象徴的なニュースである。

そして少なくとも今の数字を見る限り、

時代の針がガソリン車へ逆回転しているようには見えない。

むしろ――

変化を先延ばしにできる時間のほうが、急速になくなっているように見える。

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